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歌舞伎町ドラゴン  作者: ユウジン
第二章 猛る風
16/17

思惑

「で?どうするのよ?」

「どうするって言ってもなぁ」


適当な所に車を止めた水祈に問われて、龍は頭を抱える。


「あの爺さん化け物みたいな強さだったぞ」

「珍しいわね。誰が相手でも自信満々に喧嘩を買う龍が」


あの爺さん薄気味悪い技使うからなぁ。と龍はそれに反論。すると虎白が、


「ごめんね。ふたりとも」


と言われて、ハッとして二人は虎白をみると、


「言っておくけど別に虎白が悪いなんて思ってないわよ?」

「そうそう。あの爺さんどうやって倒そうかって話だからな!?」


慌ててフォローしつつ、龍は自分の拳を見つめる。


初めてどう戦うか悩む相手だ。普段歌舞伎町で戦う相手は、皆喧嘩慣れしているタイプというだけであり、ああいう風に鍛え上げた武術家はいない。


だがもし戦うとしたら、


「なぁ水祈」

「ん?どうしたの?」

「そもそも猛風はなんで一人なんだ」


その問いに、水祈は確かにと顎に手を添える。


「猛風は獠牙(リャオヤー)でも重鎮の一人。自分の判断で動かせる舞台だっているはず。それなのに一人って言うのも解せないわね」

「まぁもしかしたら俺等位なら部隊使わずとも自分だけで十分と思われたかか?」


その可能性高そう。と水祈がため息をついた時、


「ひとまず今夜どこに行く?」

「多分だけど、Bar・火月はバレてそうなのよね……」


とそこまで言って、龍と水祈は互いに顔を見る。


「火月さんがアブねぇ!」

「すぐ行くわよ!」































「火月さん!」


龍たちが店に飛び込む。中は凄惨な状況に……と思ったが、中はきれいだ。しかも、


「いやぁ、まさかこんなキレイなママが居るとは思わなかったワイ」

「あらやだおじいちゃんったら」


猛風は火月の手を握って、デレデレしていた。


「あら龍くん達おかえり。こちらのお客様がお待ちよ」

「おぉやっときたか」


猛風はこっちを見ながらも火月の手は離さない。


「猛風は女好きだからねぇ」

「要はエロ爺ってことか」


虎白がヤレヤレという風情でいうと、龍もジト目で猛風をみる。


「待て待て。別にワシは女好きというわけじゃない。火月ちゃんのような美人が好きなだけじゃ」

「あらやらお上手」


もっとダメじゃん。と龍たちさん人が思わず内心ツッコミを入れると、猛風は視線を鋭くし、


「九十九 龍よ。少し話がある。表にでよ」

「猛風!」


それを遮って前に出たのは虎白だ。しかし、


「大丈夫だ」


更にそれを止めたのは龍で、


「少し話してくる。ジュースでも飲んで待ってろ」


龍はクイッと顎で外を指し示し、猛風を連れ出し、店の裏の路地に行くと、


「で?やる気か?」

「まぁ待て」


龍は臨戦態勢を整え拳を握るが、猛風をストップを掛けた。


「落ち着け、ここでやり合うと虎白様が飛び出してくる」


それに二人纏めて相手取る気はない。と猛風が言うと、路地の曲がり角から水祈が顔を覗かせる。


「先程やりあったが、お主等二人を相手取るのは少々骨が折れる」


肩を揉みながら、そういう猛風に、それならと龍は戦闘態勢は解くと、


「虎白はお母さんの家族を探したがってる」

「知っておる」


何?と龍は猛風の答えに驚くと、


「奥様が亡くなられてから、虎白様は酷く落ち込んでおられた。その際に聞いたことがある。奥様の日本での暮らしや、家族に会いたい。その死を伝えたいとな。じゃからそれなら獠牙(リャオヤー)の情報網で探しましょうといったんじゃが、ワシも別件で一時離れておってな。その際に失踪したもんじゃから、目的はそれじゃろうなと思っとったんじゃよ」

「なら何で連れ戻そうとするんだ」


決まっておろう。と猛風は鋭い目つきで龍を見る。


獠牙(リャオヤー)には日本にも抱えている情報屋がいくらでも居る。すぐにでも探し出せよう」

「別に水祈が調べてくれるだろ」

「腕利きとは聞くが、所詮は小さな島国のイチ配達屋じゃろう」


それに、と猛風は続けて、


「ここでは虎白様の安全が守れん。お前達は分かっておらんだろう?虎白様が獠牙(リャオヤー)にとって、どれほどの存在かを」


猛風はゆっくり息を吐き、龍を見つめる。


「虎白様が先代から受け継いだのは地位だけではない。獠牙(リャオヤー)が受け継ぎ、そして積み重ねた莫大な遺産も虎白様の意のままで動かせる。直接的な金だけじゃない。土地、株、果ては様々な組織や政府の隠し事等のデータすらも、虎白様は継いでいる。ワシですら、虎白様が何を引き継ぎ、知っているのか分かっておらん。全ては虎白様のみが知る。じゃが誇張でも何でもなく、虎白様は世界をひっくり返せる存在なのだ。そしてその身柄を欲するものは幾らでもいる。先代は武技にも優れた方じゃったが、虎白様は違う。悪意あるものに襲われた際、抵抗できん。じゃから守る必要があるのだ」


それを聞き、何故陳が必死に虎白を取り戻そうとしたのかを、龍は改めて理解した。


「先代が死に、虎白様の存在が完全に明るみに出るまでそう遠くないだろう。そしてそうなれば、世界中から虎白様の身柄を狙った連中がやってくる。様々な組織、果ては国までもが狙うだろう。そうなれば、お前さん達ではどうしようもない。高々、一介のバウンサーと配達屋程度ではな」


そう言うと、猛風は背を向けて歩き出す。


「明日の朝十時にまた迎えに来る。別れ話を済ませておくといい。もし拒むなら」


そこまで言った次の瞬間、猛風から凄まじい殺気を叩き付けられる。


「ワシはお主を殺すことになる」


例え虎白様に嫌われようとな。そう言って猛風は再び歩き出し、水祈の横を抜けていくと、どこかに姿を消した。


「はぁ」


それを見届け、龍はタバコに火を着けて紫煙を吸い込むと、


「なぁ水祈」

「なに?」

「あの爺さんおっかねぇなぁ」

「ホントね」


水祈も隣に来ると、同じくタバコに火を着けて紫煙を吐き出した。


「で、どうするの?」

「ん〜?そんなもん決まってるだろ」


二ヘラっと笑いつつ、龍は水祈をみて、


「虎白はそんなことを臨んじゃいない。アイツは聡い子だ。馬鹿じゃない。もしアイツが言うように、獠牙(リャオヤー)でどうにか出来るなら最初から抜け出したりなんてしない。抜け出したってことは、相応の何かがあるってことだ」

「たしかにね」


それが何なのかは聞いていないが、きっと間違いないはず。そう言って龍はタバコを再び吸うと、


「だからそれがある限り、アイツが望まない強制送還はさせるわけにはいかねぇさ」


そう言って、龍は空を見ながら、ハッキリと口にするのだった。

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