表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/100

ノードス伯爵


 セインスは咄嗟の事で動揺していたため、慌てて後ろに飛び退いた。


 だが、セインスの後ろは崖である。

 セインスは悲鳴を上げながら、崖を転がるように落ちていく。


「ふむ。殺し損ねたが、ここから落ちて生きてはいないだろう。あとは負傷しているクローム夫婦にトドメを刺して、クローム家は消滅と。グフフ」

 と、品の無い笑いをするパイド騎士。



 パイド騎士軍の助力により、この戦線は死守出来た。

 だが、クローム騎士軍は、あまりにも大きな代償を払ってしまった。


 散り散りに逃げた、クローム騎士軍の兵士達が拠点に戻って来たときに見た光景は、大怪我で気を失っているクローム騎士夫妻に、トドメを刺すパイド騎士の姿だった。


「パイド騎士! いったいなぜっ!」

 クローム騎士軍兵士が、パイド騎士に詰め寄るが、


「ちっ、見られたか。お前達、コイツら殺せ! クローム騎士軍兵は全員戦死したことにする!」

 と、詰め寄った兵士に剣を叩きつけながら、パイド騎士が命令した。


「はっ!」

 と、パイド騎士軍の兵士が答え、次々とクローム騎士軍兵士に襲いかかる。


 そうして、クローム騎士軍の生き残りの兵士は、パイド騎士軍の兵によって、殺されていく。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「クロームが逝ったか……」

 あの日から2日後、報告を聞いたノードス伯爵が、悔しそうに呟いた。


「はい……間に合いませんでした。申し訳ございません」

 大きな体を小さく縮こませ、茶色い頭を下げたままのパイド騎士に、


「いやパイド、お前のせいでは無い。むしろ私のせいなのだ。クロームならば持ちこたえると思い、援軍を出すのが遅れてしまったのだから」

 ノードス伯爵の言葉に、パイド騎士は、


「いえ、我が騎士軍の移動速度がもう少し早ければ……」

 と、頭を下げたまま言った。


 口元がニヤリと笑っているが、下を向いているので、ノードス伯爵には見えなかった。


「とにかく今は、クロームの息子、セインスの事だ。まだ見つかっていないのだろう?」

 と、ノードス伯爵がパイド騎士の、茶色い頭を見つめて聞いた。


 ノードス伯爵は、面倒見の良い伯爵で、自分の派閥の貴族を家に招待しては、交流を深めていたので、セインスの顔も人柄も知っている。なので、余計にセインスの事が心配だった。


「それが……隈なく探しておりますが、未だ発見できません。あの辺はゴブリンやオークも多いので、もしかしたら……」

 と、語尾を濁すパイド騎士。


 実際、パイド騎士はセインスを探したのだ。確実に口封じをするために。

 だが、セインスを見つけることは出来なかった。


「怪我でもしていたら、オークに襲われたらひとたまりも無いか……」

 と、ノードス伯爵が落胆する。


「申し訳ありません」

 とパイド騎士が言うと、


「クローム騎士の爵位と家は、私が一旦預かる! セインスがもし生きて帰って来た時、我が家から騎士の爵位をセインスに返す事にする」

 と、力強く言ったノードス伯爵。


 パイド騎士に、引き続き国境の防衛と、生き残ったクローム騎士軍の兵を探す任務を与え、戦線に帰らせた。


 ノードス伯爵は、自分の執務室にあるソファに身を沈める。

 先ほどまで座っていた、パイド騎士の温もりが僅かに残っていた。


「クローム……セインスとティアの結婚、二人で見たかったなぁ」

 そう呟いたノードス伯爵。


 ティアとは、ノードス伯爵の末娘であり、セインスより3歳年下の10歳になる利発な子である。伯爵と同じく金色の頭髪に、青い瞳。顔付きも伯爵によく似ていることから、特に可愛がっている娘である。


 ノードス伯爵は、自身に武の才が無いため、騎士達を厚遇していたが、中でもクローム騎士とは、特に気が合ったし、セインスの事も気に入っていたから、娘のティアとの結婚を伯爵の方から持ちかけ、クローム騎士もセインスが成人した時、それを望むなら断る理由は無いと答えていた。


 実際、セインスとティアはとても仲が良く、ティアはセインスの事を慕っていたので、5年後くらいにはと、ノードス伯爵は考えていた。


「ティアに、なんと言えば良いのだろう……」

 ノードス伯爵は、そう呟いて表情を曇らせた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「転生したら兵士だった~」の作者さん新作書いていたんですね! これから楽しみに読ませていただきます!
[良い点] とても続きが気になります! [一言] 今話見るまで評価つけるの忘れていたので、しっかり付けときました!
2021/03/14 22:27 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ