クローム流
「言い方がちがうのかな? ほら、ゴブリンの群れを弓矢で射殺する儀式ですよ!」
と、センスが皆が知ってる前提で言うのだが、
「ヴェガよ? 聞いたことあるか?」
と、ロローシュ少将がヴェガ騎士に聞くが、
「初代国王陛下から、この国に仕えるロローシュ伯爵が聞いたことないのに、私が聞いた事あるわけないでしょう?」
と、ヴェガ騎士がロローシュ少将に言った。
「5歳って、弓矢なんか扱えないでしょ?」
と、フェルがセンスに聞くと、
「子供用の弓矢だよ。子供用だから飛距離は出ないし、スピードも遅いしで、ゴブリンに5メートルくらいまで近づかないと、当たっても刺さらないんだよ。一応、父上が多少傷つけてくれて弱らせたゴブリンなんだけど、そのとき5匹のゴブリンが居てさぁ。全部殺すのに2時間ちかく、走りながら弓矢で攻撃し続けてさぁ。矢が無くなったら、放った矢を拾っては放つの繰り返しで、あの時は、5歳でもう死ぬのかと諦めかけたなぁ」
と、少し遠い眼をしたセンスに、
「えっとセインスよ、お主が走り回っている時、クローム騎士はいったい何を?」
と、ロローシュ少将がセンスに尋ねる。
「木の上で、笑いながら私を見てましたね。母と一緒に」
と、センスが答える。
「ひど過ぎる……」
と、ヴェガ騎士が額に手をやって呟く。
「6歳までは、両親のどちらかが付き添いで一緒にきてくれてましたけど、そのうち一緒に来てくれなくなって、目標がゴブリンからオークに変わって、週に1匹はオークを狩れとノルマを言い渡されまして、毎週オーク狩りでした。オークは肉が分厚いので、体に当てても死なないから、苦労しましたよ。目玉か喉に当てないと、動き止まらないんですよね」
と、センスが話を続けると、
「まて! 6歳でオークを?」
とヴェガ騎士が、眼を見開いて聞いてくる。
「6歳と言っても、もうすぐ7歳になるくらいの時に、ようやく狩れましたね」
と、センスが言ったのだが、
「いやいや、狩れることがとんでもないが? 普通は小隊や中隊規模で討伐する魔物だぞ?」
と、訂正する箇所が違うと言いたげなヴェガ騎士。
「オークって、1匹で行動してることが少ないので、最初は苦労しましたよ」
と、さらに言ったセンスに、
「まてまて! 最初に狩ったときは何匹だ?」
と、尋ねたヴェガ騎士に、
「3匹でした。朝見つけて倒し終えたら夕方でしたよ。ゴブリンで練習してなけりゃ、死んでたと思いますね。両親に感謝です」
と、さらりと言ったセンス。
「よく死ななかったな……そもそも子供一人に、オークを狩らせにいく両親の頭の中が理解できんが?」
と、ロローシュ少将が、信じがたいと言わんばかりの表情で言う。
「7歳からは、午前中は勉強だと言われて、読み書き計算、社会学とか言う訳のわからん教えを、ノードス伯爵から紹介された家庭教師から教わり、午後からオーク狩りです。ノルマが3日に1匹に変わりました」
「午前中勉強なら、実質1日半に一匹だろ?」
と、ヴェガ騎士が聞き返すと、
「ノルマ達成できないと、父から槍の指導が待ってるんですよ! 寝る時間無しで父と槍を打ち合うんですよ! 戦場では寝る暇なんか無いぞとか言われまして」
と、返ってきた言葉に、ヴェガ騎士は、
「そりゃ無い時もあるけど……」
と、呟く。
「8歳からは実践だと、騎士軍に同行させられまして、父の横で弓を引いて矢を放つ毎日でしたね。最初に敵兵殺した時は、その夜寝れなかったなぁ。もちろん、空いてる日はオーク狩りもさせられました。狩ったオークは、軍のみんなで分けて食べてました。楽しかったなあ。なんか、みんなが私を見る目が変わったのは、その頃からかなぁ。なんか、鬼の子と書いて鬼子と読む。とか部下が笑って言ってました」
と、笑いながら言うセンスに、
「ちょっと待て! 8歳で部下がいたのか?」
と、ヴェガ騎士がまた聞いた。
「ええ、3人だけですけど。デニス様も同じでしょう?」
と、センスが聞き返すと、
「デニスの初陣は15歳だよ……」
と、何を言ってるんだという感じで、ヴェガ騎士がセンスに言う。
「え? なんでそんなに遅かったんです?」
と、疑問の声を返すセンスに、
「「「お前が早すぎるんだ!」」」
と、3人の声がまた揃う。
「だって、12くらいで少年兵としてくる、農家の子もいますよ?」
と、センスが言うと、
「それは、食べるために仕方なくだ!」
とヴェガ騎士が答えると、
「騎士の子は、食べるために戦うのでは?」
と、センスが言う。
「はぁ……クローム騎士って、たしか私と一緒で、一兵卒からの叩き上げでしたよね?」
と、ヴェガ騎士がロローシュ少将にきくと、
「そう聞いておるの」
と、少し呆れた表情のロローシュ少将が答えた。
「兵になる前は、いったい何をしていたのだろう?」
とのヴェガ騎士の疑問に、
「ああ、それは冒険者です。5歳の時からゴブリン殺して、金稼いでたって言ってました。だから私にも5歳なら狩れるはずだとも。あれ? ゴブリン狩りの儀式って、冒険者の儀式?」
と、言ってる途中で、疑問に思ったセンスだが、
「冒険者でも、そんな儀式は聞いたことないね」
と、ヴェガ騎士が言う。
「あれ? おかしいな?」
と、首を捻るセンスに、
「おかしいのはお前の両親だ!」
と、ヴェガ騎士は決めつけた。
「まあ、そんなのはどうでもいいですかね」
と、考えるのをやめたセンス。
「そんな化け物みたいな、お前やクローム騎士より、パイドってのは強いのか?」
と、ヴェガ騎士がセンスに聞くと、
「ええ! 化け物って言い方が引っかかりますけど、パイドこそ化け物ですよ。それとあの時の敵もかなり強かったなぁ。人数も多かったし」
と、センスが答える。
「ウェインライド国の、その時来た部隊名は分かるか?」
と、ロローシュ少将が聞くと、
「さあ? 黒い革鎧を着た部隊でしたけど、部隊名までは知りません」
と、センスが申し訳なさそうに答える。
だが、
「ウェインライドの黒い鷲!」
と、ロローシュ少将が驚く。
「知ってるんですか?」
と、聞いたセンスに、
「ウェインライドの四強部隊の一つじゃ。そんな部隊が来てたのか」
と、ロローシュ少将が教えてくれた。
「でも、パイドに潰されたようですよ?」
と、言ったセンスに、
「パイドってのも化け物だな」
と、ヴェガ騎士が言う。
「パイドは守るのはてんでダメですけど、攻めるのはめちゃくちゃ強いです。うちとは犬猿の仲でしたけど」
と、センスが静かにいった。




