戦場にて4
少し時を巻き戻す。
「パイド騎士! クローム騎士の騎士軍、劣勢!」
先行していた物見の兵が、帰ってくるなりそう叫んだ。
「よしよし、いい感じだ。クローム奴の窮地だ。皆の者、このままゆっくり向かうぞ!」
報告を受けたパイド騎士が、部下の兵達にそう言って、自身が乗る馬の腹を優しく蹴った。
パイド騎士の騎士軍、そこは近接戦闘に特化した騎士軍である。
多くの騎兵に、槍兵や戦斧兵など、多種多様な武器、そして獣人やドワーフなどの強力な人種を雇っている。
だがそれ故に、騎兵以外のスピードが遅く、その者達に合わせて移動していたため、到着が遅れていたのだ。
いや、わざとゆっくり向かっていたのだ。
パイド騎士は、クローム騎士を嫌っていた。
いや、憎んでいると言っても良い。
そして、戦場に到着した時、クローム騎士の騎士軍が、散り散りに撤退をしていた最中だった。
「パイド騎士軍、敵、ウェインライド王国兵を蹴散らせ! 手柄を上げる好機だ!」
パイド騎士がそう叫びながら、敵兵に突っ込んでいく。
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パイド騎士軍が到着した頃、セインスは3人目の敵兵に槍を突き刺した時であった。
敵、ウェインライド王国の兵達は、子供に3人も倒された事に苛立って、今まで一人ずつセインスに向かっていってたのだが、その場に残っていた四人でセインスを取り囲んだ。
セインスの後ろは崖で、これ以上後ろに下がることは出来ず、一か八かで前に出るしかない。
敵兵はというと、逃げて行ったセインスの部下の事は、もう頭に無いようだ。
目の前の子供を、殺す事しか考えていない。
「一気に槍で串刺しにするぞ! 3人も倒されて、このまま報告したら、俺達の待遇が悪くなるからな!」
「あの3人が油断しただけだ。俺達は油断しねぇから、大丈夫だ」
「それが油断って言うんだ! 気を抜くな!」
「お、おう!」
「いくぞ!」
そう言って4人の男達が、槍を構えたその時、
「ウオオオオッ!」
そう唸り声を上げ、馬で突進して来たパイド騎士。
手前の兵に槍を突き刺し、そのまま槍を手放して、腰にある大剣を抜き、2人目の男の首を斬り飛ばす。
「セインスッ?」
パイド騎士の叫び声。
パイド騎士の登場に、狼狽える敵兵。
「チャンスッ!」
と声を上げたセインスが、自身が握っていた槍を、呆気に取られていた敵兵に突き刺す。
その光景を見ていたパイド騎士に、最後の1人が向かってきたが、パイド騎士は大剣を軽く振り下した。
敵兵の頭が、アケビのように割れ、血と脳が飛び散る。
「生きていたのかセインス」
馬上からセインスを見下ろす、体の大きなパイド騎士が、忌々しそうにそう言う。
「援軍に来て頂き感謝致します。中央を突破され、なし崩しになりご覧の有様です」
と、悔しそうにセインスが言う。
パイド騎士と父親が仲が悪いことは知っているが、援軍に来てくれたのは事実なので、丁寧に感謝の言葉を述べたのだ。
「そこの3人の兵は、セインスが殺したのか?」
と、骸となっている敵兵を見て、パイド騎士聞く。
「はい、部下を逃すため、ここで敵の足止めを」
「子供のくせに、なかなかやるな」
「いえ。それより父上と、母上の姿を見かけませんでしたか? 途中からは逃げるのに必死で、味方がどう逃げたのか、把握出来ませんでした」
パイド騎士に、そう問いかけたセインスだが、
「知っているが……お前が知る必要は無い!」
そう言ってパイド騎士は、セインスに向かって剣を振り下ろしてきた。