フェル
エイブラム中佐は、ロローシュ伯爵邸を再び訪れる。
「ロローシュ少将、お尋ねの件ですが、聞いてまいりました」
部屋に通され、ロローシュ伯爵に会うなり、そう言ったエイブラム中佐。
「また早かったな。聞こうか」
と、ソファに座ったロローシュ伯爵が、そう言うと、
「はい。名は前にも言ったかもしれませんが、センスと言いまして、北のノードス伯爵領のクローム騎士軍に在籍していたようです」
と、センスのことを話しだすエイブラム中佐。
「クローム騎士軍と言えば、私でも聞いた事がある。ノードスのところの、守りの要だった騎士軍ではないか。惜しくも援軍が間に合わず壊滅してしまったと聞いたがな」
と、ロローシュ伯爵が言うと、
「はい。その生き残りのようで、北に居るのはツライから東に来たようです」
と、エイブラム中佐が言うと、
「クローム騎士軍仕込みならば、戦闘の方も確かであろう」
と、頷くロローシュ伯爵。
「役職は特務曹長という曹長待遇で、移動しながら弓矢で攻撃する、少数の応援部隊を率いていたようです」
「ほう! 年若いのに、少数とはいえ部下がいたのか」
と、少し驚くロローシュ伯爵。
「はい。若いですが、けっこう礼儀正しく、周りにも気遣いのできる少年です」
と、言ったエイブラム中佐の言葉に、
「ほう、興味深いな」
と、興味を示すロローシュ伯爵。
「実は騎士のアウスが…………という訳でして」
と、会議の時の様子を、説明したエイブラム中佐。
「なるほどのう。他の騎士の顔を立ててやる事もわきまえておるか。その少年、これからも重宝しそうだから、殺すでないぞ」
と、ロローシュ伯爵が言うと、
「戦ですから約束は出来ませんが、配慮いたします」
と、エイブラム中佐が言い、
「うむ!」
と、頷いたロローシュ伯爵。
「では、私は木工職人や人夫の募集をしますので、これにて失礼致します」
と、エイブラム中佐が席を立つと、
「うむ、ご苦労じゃった」
と、ロローシュ伯爵が退席するエイブラム中佐に、労いの言葉をかけた。
その後、ソファに座ったままのロローシュ伯爵が、
「クローム騎士軍か……たしかそこに在籍していた娘が居たと思うが」
と、部屋に居た執事に声をかける。
「閣下、末娘のフェル様でございます」
と、執事が答えると、
「ああ、あのお転婆か! 確か帰ってきておったよな?」
と、ロローシュ伯爵が額に手を当てて言った。
「はい。先日お戻りになられてます」
と、執事が言うと、
「呼んできてくれんか」
と、指示したロローシュ伯爵。
「承知致しました」
と、執事が頭を下げてから、部屋を退室していく。




