テーブルにて
続々とヴェガ騎士軍の兵士が、食堂に集まってくるのを、食堂の入り口付近で、立って待っていたセンス。
「本当に女性が多いなぁ」
と、センスは小声で呟いた。
兵士に連れられて、同期入隊の男女カップルも来た。
街で声をかけられていた、あのカップルだ。
名をローレライと、アレン。
ローレライは、17歳くらいだろうか、とても美しいヒョウの獣人の女性だ。
アレンは、15歳、もうすぐ16歳とのことだ。
誠実そうな普通の男だが、どこかで見かけたような気がするんだが、気のせいだろう。
「ということで、この3人が新たな仲間となる。皆、色々教えてやってくれ」
と、3人を紹介したのは、ヴェガ騎士の長男でありヴェガ騎士軍の副官でもある、デニス・ヴェガ。
父親によく似ている。
「配属は、アレンとローレライは、ジュリアの隊。センスはニッシェの隊だ。ジュリアとニッシェは後で私のところへ。では、一応3人から自己紹介を」
デニスがそう言って3人を見る。
デニスの横に立っていた、ローレライが、
「えっと、では私から。ローレライ一等兵です。以前は西の貴族の家で、お嬢様の護衛をしていましたが、お嬢様が嫁がれた後、領兵にと思ったのですが、領兵がクズだらけだったので、東に来ました。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた。
そして、その横に立っていたアレンが、
「アレン一等兵です。北で騎士軍に入っていたのですが、その騎士軍の非道なやり方に嫌気がさして東に来ました。ローレライとはこの街で出会いました。よろしくお願いします」
と言って、頭を下げる。
アレンの言葉に、センスの眼が少し細くなる。
「センス上等兵です。北の騎士軍にいましたが壊滅してしまい、心機一転と思い東に来る途中、コズンさんの馬車に乗り合わせまして、ご縁があり紹介頂きました。よろしくお願いします」
センスが挨拶を終える。
「では皆、3人に歓迎の拍手を」
デニスがそう言うと、食堂内で大きな拍手が響く。
「では、挨拶も済んだ事だし、飯にしよう。明日から前線だしあまり飲むなよ!」
デニスの言葉で締めくくられる。
「アレンとローレライはこっち来て」
「センスはこっち」
そう呼ばれて、センスとローレライやアレンは、それぞれのテーブルに向かう。
隊ごとに、テーブルが違うようだ。
呼ばれたセンスは、大人しくニッシャ隊が居るテーブルに向かう。
「改めまして、センス上等兵です。よろしくお願いします」
と、テーブルに座る面々に、頭を下げるセンス。
「おう、このニッシャ隊の副官のウェークだ。階級は曹長な。で、デニス中尉のところにいる、赤い鼻してるジジイがニッシャ少尉な」
と、デニスの方を見て、笑いながら言うウェーク曹長に促されるように、デニス達の方を見るセンス。
確かに鼻の赤い50才ぐらいの、細身の男性がいて、デニスともう一人、女性を交えて、何かを話している。
もう一人の女性がジュリア少尉なのだろう。
「あのジジイも、酒さえ飲まなければまだまともなんだが、今から覚悟しとけよ? 絶対飲むから絡まれるぜ?」
と、ウェーク曹長が言った。
実際、ニッシェ少尉に絡まれた。
「1人で盗賊10人倒したって、本当か?」
センスを左腕で抱き抱え、右手にもつカップでエールを飲みながら、ニッシェ少尉が聞く。
「コズンさんの馬車が襲われましてね。仕方なく」
と、その時の状況を説明すると、
「仕方なくで10人皆殺しとは、なかなか腕が立つじゃねーか!」
と、別の兵士が声をかけてくる。
「地形を利用して、上手くやれただけですよ」
と、センスが言うが、
「それでもだ! まだ13だろう? 前の騎士軍には何歳から居たんだ?」
と聞かれたので、
「8歳からです」
と、答えると、
「また早くに家から追い出されたんだな。家は農家か?」
との問いかけに、
「ええまあ……」
と、言葉を濁すセンス。
「騎士軍の時は何人やった?」
と、他の兵士が聞いたので、
「いちいち倒した敵数を覚えてないので……」
と答えたのだが、
「違う違う、女の方だ!」
と、小指を立てて言われたセンスは、
「ええっ⁉︎」
と、驚いた声を出したのたが、
「経験アリって話を聞いたぞ!」
と、言われてしまう。いったい誰から聞いたのか。
「ひ、1人だけです」
と、一応答えたセンスに、
「その年で両方とも童貞卒業たぁ、ヤリ手だぜ! なあ皆んな!」
と、他の兵士の顔を見ながら、聞いた兵士が言うと、
「ちげえねぇ!」
と、笑う兵士達。
「坊や、夜寂しくなったら、私の部屋に来てもいいのよ? 旦那はあの世だしさ」
と、エールのカップを持った、女兵士に言われ戸惑うセンスだったが、
「アンジェさん、旦那勝手に殺してやるなよ! あそこで捻くれてるじゃん」
と、他の兵士が、アンジェと呼ばれた女兵士の夫であろう男を、指さして言うと、
「あんた、ウジウジしない! 冗談もわかんないのかい!」
と、アンジェが夫の元に歩き出す。
「私の旦那は本当にあの世だから、来てもいいよ?」
と、おそらく犬の獣人女性がセンスの真横に来て、頬を撫でながら言ったのだが、
「ババァ、子供相手にやめとけ!」
と、ドワーフの男が怒鳴る。
「まだ40だよ!」
と、言い返したのだが、
「充分ババァだよ!」
と、さらに言い返される。
「ヤリ手なのはいいが、絶対ミシェル様には手ぇ出すなよ!」
と、別の兵士が、センスに忠告してくれたので、
「それは絶対守ります。死にたく無いので!」
と、すかさず返事したセンス。
「おっし! てかセンスは誰の部隊に配属っすか隊長?」
と、兵士がニッシェ隊長に聞いたのだが、
「んお? えーっと、今欠員がぁあるのは、とこのふたいだっけぇ?」
と、眠たそうな声が返ってきた。
「隊長、もう呂律が回ってないっすよ」
「はかいへ! ひゃんとしゃへれとふわい」
「ダメだこりゃ」
「とりはへす、ケムのとこへ……グゥ……」
「あ、寝た……」
と、言った兵士に、
「ケムって誰です?」
と、センスが尋ねる。
「多分キムのことだろうな……」
「キムさんはどなたですかね?」
と、聞くと、
「キムは、あそこの端で寝てるドワーフの事だよ」
と、テーブルに突っ伏して寝ている、ドワーフの女性を指さす。
「あの人ですか」
「キムは、階級は軍曹な。あんなだが強えぞ」
「でしょうね。脂肪じゃなくて筋肉が詰まってる感じがします」
と、センスがドワーフの女性の腕を見ながら言うと、
「見る目あるじゃん」
と、兵士がニコリと笑う。
「とりあえずセンスよ、飯食えよ」
と、他の兵士がセンスに言う。
そう、話ばかりで何も食べていなかったのだ。
「はい。いただきます」
そう言って、一切れの肉に、フォークを刺して口に運ぶセンス。
料理の味は、命の癒し亭譲りの、美味しいものであった。




