戦場にて2
「母さん! 応援に来たよ!」
セインスが母さんと呼んだ女性は、クローム騎士の妻であり、セインスの母親である。
金色で少しクセのある長い髪の毛を、夫と同じように纏めており、茶色い瞳をした美人だが、少し眼が鋭い。
女性の兵士は、この地域ではよく見かける。
「セインスッ! 最右翼がヤバイ! そっち行って!」
セインスの母親が、そう言うと、
「了解!」
と、言いながら走るセインス。
「応援に来たよ!」
と、最右翼に到着して言うと、
「坊っちゃん! ありがてぇ! 奴らどんどん右に展開していきやがる。頼みます!」
と、その場にいた兵士が言った。
「分かった! 行くぞ」
と、セインスが部下に言う。
「はい!」
と、部下の一人、エルフの女性が金色の長い髪を揺らしながら応えた。
「これ以上右に行かせるな!」
セインスがそう叫びながら、弓に矢をつがえる。
「了解でさぁ!」
中年の男の部下がそう言い、素早く矢をつがえて放つ。
セインスは自分の小隊と共に、一心不乱に矢を放った。
親の教育の賜物か、それとも元々の才能か、小さな体から放たれる矢は、敵兵にかなり当たっている。
敵も負けじと、矢を放ってくる。
セインス達はその矢を避けながら、ひたすら矢を放つだけであった。
最右翼はセインス達の応援もあってか、敵兵を徐々に減らしていたが、
「アルタァ!」
セインスが、敵の矢に倒れた部下の名を叫ぶ。
腹に命中した矢が、深く刺さっており、口から血を吐いて倒れたアルタは、あと数秒で息絶えるだろう。
戦争であるから、死は隣り合わせだ。
味方も数を減らしてはいるが、最右翼は優勢に戦えていた。
その時、
「中央が突破されたぞっ!」
と、戦線の中央から声がした。
「え? と、父さんっ⁉︎」
セインスが思わず声を漏らした。
中央を突破した敵軍が、左右に広がり両翼にいた兵士達を討ち取っていく。
形勢は完全に逆転、セインス達は左側から矢の攻撃を受け、後退するより道はない。
「姉御ぉお!」
そんな兵士の声が聞こえる。
敵兵の攻撃に、ジリジリ後退していくセインス達だが、後退する時ほど難しい戦いはない。
味方の兵が、さらに数を減らしていく。
セインスの部下が、さらに一人撃ち殺されていた。
クローム騎士軍は、300人の兵が居たはずなのに、今、目視で確認出来るのは、わずか40人ほど。
クローム騎士の騎士軍は、弓兵が多いため近接戦闘を得意としていなかったし、大多数が人族やエルフで構成されていたため、盾役となるような、屈強な兵士が少なかった。
本来なら、砦などで防衛する戦いが得意な騎士軍だ。
だが、侵攻してきた敵に、拠点が一番近い位置にあったのが、クローム騎士の騎士軍だったため、国軍の応援に駆けつけたが、その時すでに国軍は国境を突破されていたのだ。