やっぱりかぁああ!
「じゃあこっち来て、えっと……」
と、女兵士がセンスに声をかけてくる。
「センスであります」
と、名乗るセンス。
「ああ、センス上等兵だったわね。私はアイナ曹長よ。よろしくね。まあ、私はジュリア隊だけどね」
そう言って、手招きするアイナ曹長。
「ヴェガ様、失礼致します」
と、センスはヴェガに一礼する。
「うむ!」
と、顎を引いたヴェガ。
部屋の扉のところで、もう一度一礼してから、部屋を後にしたセンスは、
「アイナ曹長、よろしくお願いします。で、赤鼻隊というのは?」
と、歩きながらアイナ曹長に聞くセンス。
「赤鼻隊は通称よ。正式にはニッシェ隊というの。隊長のニッシェ少尉の鼻が赤いから、赤鼻隊よ」
と、教えられる。
「なるほど!」
と、頷いたセンスに、
「どこも同じだと思うけど、ウチは3つ隊があるわ。赤鼻ことニッシェ隊と、私のいるジュリア隊、それにデニス隊の3つよ。デニス隊は基本的にヴェガ騎士が指揮をされる。副長のデニス少尉の名前をとってるけどね。デニス少尉はヴェガ騎士の長男だから、それも把握しておいてね」
と、三つの隊を説明した、アイナ曹長。
「ところで今日、戦線に行っていない理由は、何かあるんですか?」
と、戦時中なのに、ヴェガ騎士軍が街に居る理由を尋ねるセンス。
「ああ、こっちはずっと戦闘状態だから、騎士軍は交代で戦場に行くことになってるのよ。明日からはまた戦場に戻るわよ」
と、アイナ曹長が説明すると、
「え? でもアウス騎士軍やバウ騎士軍が、兵士募集してましたけど?」
と、疑問を口にするセンスに、
「あそこは、募集用の人員だけが、街に滞在してるのよ。なにせ突っ込みたがる騎士軍だから」
と、アイナ曹長が説明して、
「ああ、やっぱりですか。募集人数が多いと思ったんですよ」
と、自分の予想が正しかった事を、確認出来たセンスだった。
一旦屋敷の外に出た2人は、屋敷の裏にまわると、
「こっちの建物が独身者用の寮よ。一階が男性、二階が女性の部屋になってるわ」
と、木造2階建ての大きな宿のような建物を、アイナ曹長が指差して言った。
「はい。ということは夫婦やカップルは、別の寮なんですか?」
と軽い気持ちで聞いた、センスだったのだが、
「そうよ。カップル用は寮というより、小さな小屋という方が正しいわね」
と、戸建てだと教えられる。
「小屋なんですね!」
と、少し驚いたセンスに、
「だって、アレしてる時の声聞こえたら、寮だと隣に迷惑じゃない? まあこっちでも似たようなもんだけどね!」
と、ウインクするアイナ曹長。
「え?」
と、声を漏らしたセンスに、
「うち女性多いでしょ? 何故だか分かる?」
と尋ねられて、
「女性の兵士を雇ったからでは?」
センスが聞き返すと、
「それもあるけどね。でも基本的にはカップルを雇うのよ? でも女性が多いのは、男性が一旗あげようと無茶をするからよ。残された女性はカップル小屋から、独身寮に移るわ。最初は部屋で泣いて、戦闘中も泣いて……でもね? 女って時が経てば、誰かに寄り添いたくなるのよね。独りは寂しいもの。でもカップルの男性に手を出すと、揉め事の原因になるからね。ではどうすると思う?」
と、少し微笑みながら聞かれて、
「まさか……」
と、言葉を詰まらせるセンス。
「そう、独身寮の男性は狙われるのよ。はい、ここで問題。独身寮の男性は現在何人いるでしょう?」
と、今度は悪い笑顔で聞かれ、
「えっと……独身寮の女性の数を聞いても?」
と、恐る恐る聞くセンスに、
「30人」
と、悔い気味に答えられる。
「20人くらい居て欲しいなぁ……」
と、願望を込めていったのだが、
「あなたを入れて6人よ。今晩襲われないように、気をつけてね? 鍵かけてない部屋には入って良い事になってるからね!」
と、爆弾発言が返ってきた。
「そんな馬鹿な! むちゃくちゃだ!」
と、思わず言うと、
「うちのルールだから! 大丈夫。子供に手を出す人は、あまり居ないから!」
「あまりって事は、居るってことじゃないですか!」
「うん……ウチにもエルフの女性が……いるからさ」
と、申し訳無さそうに言われ、
「なんでエルフの女は、少年好きのスキモノが多いんだろう……」
と、自分の過去を振り返って、センスが呟く。
「彼女達いわく、一瞬の輝を放つ無垢な少年を襲いたい欲求がっ! って言ってたわ。まあ死ぬ訳じゃないしさ」
と、励ましてくれた。
「そりゃ、死にませんけど……」
と、センスが言うと、とある部屋の前で立ち止まり、ドアを開けて、
「この部屋使って。狭いけど寝るだけだし問題無いでしょう? 一応ベットは広めのやつ置いてあるけど」
と、説明される。
「はい。寝る部屋があれば充分ですけど、わざわざ広めのベット置いてるあたりに、悪意を感じるのは、さっきの話のせいでしょうか?」
と、センスが尋ねると、
「だって、狭いと2人で寝れないでしょ?」
と、返され、
「やっぱりかぁああ!」
と、思わず叫ぶセンス。
「あ、地が出たわね。トイレは共同で、廊下の突き当たりにあるし、シャワーはその手前にあるからね」
笑いながら説明を受け、
「はぁ、了解です」
と、言うしかなかったセンス。
「じゃあ荷物置いてこっち来て。食堂があるから、そこで皆に紹介するわよ」
と促されて、荷物を床に置いて、
「はい……」
と、小さな声で返事をし、部屋を出るセンスは、
「大丈夫かな、ここ?」
と、首を傾げて呟いた。




