敬礼
「ふむ、門番のマデリンも言っていたが、礼儀はしっかりしているな。コズンから聞いているかも知れないが、一応名乗ろうか。私がドレン・ヴェガだ。えっと、センス君だったかな? 遠慮せずソファにかけなさい」
ヴェガ騎士が、センスに声をかける。
「はっ! 失礼致します」
センスはそう言ってから立ち上がり、ソファに浅く腰掛ける。
「お前がスカウトした中では、一番礼儀正しいな、コズン」
そう言って、上座に座るドレン。
「昨日言ったろ? 腕もなかなか見込みあるんだって!」
そう言って、センスから見て左のソファに座るコズン。
コズンは前日に来ており、段取りは終わっていたのだ。
「まあ、話は聞いたが、腕は鍛えればなんとかなるが、礼儀はなかなか身につくものではないからな。センス君、君の事は弟からだいたいは聞いたが、君の口から改めて聞きたい。騎士軍に入りたい理由の説明を」
と、ヴェガ騎士が聞いてきたので、
「はい。北のノードス伯爵領で騎士軍に入っていたのですが、その騎士軍がウェインライド国との戦で、壊滅いたしまして、気持ちを切り替えるために東へ参りました。」
と、ヴェガ騎士の眼を見て、センスが答える。
「入っていたのは、どこの騎士軍かな?」
ヴェガ騎士が、さらに聞いてきたので、
「クローム騎士軍です」
と、正直に答えるセンス。
「ほう、聞いた事がある。かなり優秀な騎士軍だと噂だったがな」
と、少し眼を見開いてヴェガ騎士が言うと、
「敵の数が多過ぎました。国境国軍が敗れた後に駆けつけましたが、援軍も来ず中央突破されて、持ち堪えられませんでした……」
少し眼を伏せてセンスが言うと、
「なるほど。ツライ事を聞いてしまったな。でだ、コズンからも聞いているかもしれんが、わたしには14になる娘がおる。名をミシェルというが、ミシェルに色目を使う奴はタダでは済まさんが、君は大丈夫かね?」
ヴェガ騎士はセンスに確かめる。
「私はまだ13歳です。戦場に居ればそっちの知識は有りますし、経験もあります。ですが今はそれよりも、生き延びて強くなる事を最優先としています。強くなって生き残りたいのに、ヴェガ様に殺されたくは無いので、私からミシェルお嬢様には、声すらかけないと誓います。まあ、ミシェルお嬢様に危険が及んでいる場合と、ミシェルお嬢様から、用事で話しかけられた時は、無視するのは失礼ですので、例外とさせて頂きたいですが」
と、センスが手を出したりしないと、宣言する。
「うむ! ミシェルを守るためなら仕方ないからな。よろしい! ウチに入る事を認める。ところで宿は?」
と、ヴェガ騎士が問いかけると、
「親父の宿に泊まってるよ」
と、コズンが横から言うと、
「親父のとこか。通うのはさすがに無理だろうし、金もかかるから、軍の宿舎を使いなさい。おい! 誰かいるか?」
と、ヴェガ騎士が部屋の外に向かって、声をかける。
「はい」
と、部屋の外に待機していたであろう、女兵士が入ってくる。
「この子を、独身の宿舎に連れていってやれ。部屋は空いてたろ?」
と、女兵士に問いかけるヴェガ騎士。
「はい、大丈夫です。誰の部隊に配属させますか?」
と、問い返す女兵士に、
「とりあえず、赤鼻の部隊でいいだろう」
とヴェガ騎士が答える。
「了解致しました」
と、女兵士が敬礼して応じた。
「では、えっと経験有りだったし、コズンの紹介だから、センス上等兵とするか、センス上等兵はこれよりヴェガ騎士軍、赤鼻隊の上等兵として、国防に励むよう!」
と、少し声を大きくして言ったヴェガ騎士に、
「はっ!」
と、起立して敬礼したセンスだった。




