おもい
「おじさん、終わったよ〜」
センスが御者に声をかけると、
「道を逃げた客が帰ってこないんだが、どうしようかと思ってね」
と、御者が言う。
「えっと、何人?」
と、センスが聞くと、
「1人だけ」
と、返ってくる。
「歩いて町まで戻るとしたら、どれくらいかかるの?」
「一昼夜歩けば帰れるかな?」
「じゃあ死なないでしょ。途中でゴブリンにでも襲われなければね」
と、ほっておけと提案するセンスに、
「金、貰っちゃってるんだけど」
と、律儀な御者。
「命を助けてあげた、代金ってことにしとこう」
「うーん、まあいいか。後から来る馬車もあるだろうし、空いてればそれに乗れるだろうし、荷物も持って逃げたからね」
と、御者が言う。
「はい決まり!」
そんなこんなで、馬車は再び走り出す。
乗客は一人減って、センスを抜いて4人。
馬車のスピードは少しだけ速くなった。
その後、問題無く到着した次の町で、センスは領兵の詰所に行く。盗賊に襲われたという証人として、御者と一緒に。
事情を説明し、布袋に入った首を取り出すと、
「おい、坊主! こんなとこで出すな!」
と、領兵に怒られてしまう。
「えっと、じゃあどこに出せばよいでしょう?」
センスが尋ねると、
「こっち来い」
と、裏に連れていかれる。
首を10人分取り出すと、
「ん? この男、ゴンザか⁉︎」
領兵が、頭の首を見て言う。
「ゴンザ? 名前は呼ばれてなかったので、知らないです。頭って呼ばれてましたけど」
とセンスが言うと、
「ちょっと待ってろ! 上官を呼んでくるから!」
領兵が慌てた様子で建物に入って行き、すぐに年配の男を連れて戻ってきた。
その男は、頭の首を見てすぐに、
「間違いない! ゴンザだ! コイツを坊主がヤったのか?」
と、センスを見て言った。
「はい。乗っていた馬車が襲われそうだったので、仕方なく」
センスが言うと、
「コイツ、ここいらでは有名な悪党でな。先日、強盗容疑で捕縛に向かった領兵2人を殺害し、逃亡中だったのだ。よく殺してくれた! 領軍を代表して礼を言う」
と、男に頭を下げられてしまう。
「いえいえ、頭を上げてください。地形を上手く活用して倒せただけですから」
「まだ若いのに、謙遜するな。体を見ても鍛えられていて、強いのが分かる。なんなら領軍に入るか?」
と、上官の男が言ったが、
「いえ、まだ13歳なので」
「ああ、残念だ。領軍入隊は、14歳からだからな。ああ、そうそうゴンザには懸賞金がかかっていたから、懸賞金を渡さねばな! ちょっと取ってくるから、そこで待っててくれな」
そう言って上官の男が建物に入ると、10分ほどで出てきた。
手に小さな布袋を持っている。
「銀貨50枚と、銅貨60枚入っている。内訳としては、盗賊1人につき銀貨1枚と、ゴンザの懸賞金が銀貨30枚。それに、この詰所の兵から銅貨を集めてたので、少なくてすまんが、仲間の仇を討ってくれたお礼だ」
そう言って、袋をセンスに渡す。
受け取ったセンスの手に、ズッシリとした重みが。
金だけでは無く、領兵達の思いも感じた。
「有り難く頂戴致します」
センスは、頭を下げてそう言った。
男は、受け取り書にサインするセンスを見ながら、
「14歳になって、領兵になるならいつでも来てくれ。君なら、試験無しで採用する事を約束する」
と、笑顔で言う。
「ありがとうございます。アストン国との戦を生き延びれば、そんな未来もあるかも知れません」
と、センスはニコリと笑う。
「騎士軍に入るのかい?」
「はい。自分を鍛えたいので」
「生きる事を最優先にだよ? まだまだ若いんだ、逃げる時は躊躇わずにね」
と、センスを思いやった言葉をかける上官。
「助言、有り難く心に刻みます」
そう言って、サインした受け取り書を渡したセンス。
受け取り書にサインされた、センスの名前を見て、
「君はしっかりしてるし、大丈夫だろう。また会おうセンス君」
と、右腕を出して握手を求める上官。
「はい」
センスはその右手を、しっかりと握った。




