当たるさ
「来たな……」
センスは小さく呟くと、弓に矢をつがえて、思いっきり弦を引いた。
「おい! あのガキこんな距離から、弓引いてやがるぜ! 当たるわけねぇのによ!」
盗賊達が、大声でそう言って笑っている。
その声は、センスの耳にも届いている。
「当たるさ……」
そう呟いたセンスが、シュッと矢を放った。
空気を切り裂き飛び行く矢は、笑っていた男の口の中に飛び込んだ。
男はそのまま前のめりに倒れて、もがき苦しんでいる。
それを見た盗賊達は、
「ポール!」
と、矢の刺さった男に、仲間が呼びかけるが、地面を転がって苦しんでいるだけで、声を出す事はできないようだ。
「あのガキ許さねぇ!」
「ぶっ殺す!」
と、口々に叫びながら盗賊達が、センスに向かって走り寄る。
センスの2射目が飛ぶと、まだ距離が有るため、盗賊達はそれを確認して狭い道端だが、なんとか避ける。
「遠いと避けられるか。ならば……」
そう言って、盗賊達との距離が近くなるのを、センスは待った。
距離が30メートル程度になった時、センスは先頭の盗賊目掛け矢を放つと、すぐに後ろに後退する。
矢を放っては、後退を繰り返すセンス。
放った矢は、盗賊の持つ剣で叩き落とされる事もあるが、当たる事もあるので盗賊の数を減らしていく。
馬車の位置までセンスが後退した時、盗賊の数は向かってきた数の半分、4人に減っていた。
だが、背中にある矢筒の中の矢が、尽きてしまっていた。
馬車から槍を取り出したセンスは、弓を置いてさらに後退して、角の大岩まで走る。
岩陰に身を隠し、地面に手を置くセンス。
走ってきた盗賊達が、大岩を曲がりきったとき、センスは掴んでいた地面の砂を、盗賊達の顔を目掛けて投げつける。
「うっ!」
「痛え!」
「卑怯だぞ!」
「目がああ! 目があああ!」
盗賊達が、眼を押さえて叫び声を上げる。
「盗賊が卑怯とか、よく言えたもんだ」
そう呟きながら、センスは素早く盗賊達の喉に槍を刺して回る。
吐き気がするが、そんな事言ってる場合ではない。
死んだ事を確認した後、センスは残り二人に向かって歩き出す。
途中で、盗賊の死体に刺さっている矢を回収し、馬車に置いていた弓を、左手に持っている。
槍も右手に持っている。
拾った矢は背中の矢筒に入れてある。その数たった4本。
もちろん、矢で貫いた盗賊達のトドメは、槍で喉を切り裂いてある。
「あとはお前達だけだ。大人しく捕まるか?」
センスが、頭と女に告げると、
「ガキが調子にノリやがって!」
盗賊の頭が、腰の大剣を抜いた。
女の方も、ナイフを構えている。
センスは槍を地面に投げ置き、背中の矢を手に取って弓につがえた。
「先ずは男からかな」
小さく呟いて、矢を放ったセンス。
頭はそれを、素早く左に避けて走り迫る。
一本目を放った後、すぐに2本目をつがえていたセンスは、避けた相手の左側に狙いをつけずに放っていた。
左に行きすぎると、矢が当たると思った頭は、一本目の矢が通った後にまた右に避けて、2本目の矢を避けたのだが、そこに3本目の矢が迫っていた。
「うぉっ!」
頭が剣で矢を叩き落とす。
「ガキがっ!」
頭がセンスを睨みつけようとした時、その場にセンスの姿は無かった。
道に投げ置いていた槍も無い。




