アルのダイナー
「ここを出て左に進めば、安くてそこそこの味の店があるよ。アルのダイナーって看板が出てる。ウチの鍵を見せたら、割り引きしてくれるよ」
宿の主人の言葉に、
「ありがとうございます」
と、返して宿を出て、通りを左に歩いていくと、確かに看板が出ていた。
ドアを開けると、
「いらっしゃい。1人かい?」
と、店の者が聞いてくる。
「はい、宿の鍵を見せると、割り引きしてくれると聞いて来たんですけど?」
センスは、宿の鍵を見せてそう言うと、
「ああ、兄貴の宿のお客さんかい。肉セットなら銅貨8枚、魚セットで7枚、パンとスープだけなら銅貨3枚。どれにする?」
と、聞いてきた。
「肉でお願いします」
そう言って、銅貨8枚を渡す。
「あいよ! どこでもいいから座ってくれ」
と、言われたセンスは、窓際のテーブルに座って、通りを眺める。
夕方の町は、人がそこそこ歩いている。
「寂れてもいないし、いい町だな」
センスが呟く。
センスは、ノードス伯爵の屋敷への道しか、旅をしたことがなかった。
その旅路では、賑やかな街と寂れた町、両方あったし、寂れた町は本当に人が少なく活気がない。
初めての町を眺めるのは、悪くない気持ちがした。
テーブルに置かれたメニューを見ると、肉セット銅貨9枚と書かれている。
銅貨1枚分、割り引きされているわけだ。
「へい、お待ち。今日は、兎のソテーと、豆スープにパンだよ」
店員がそう言って、肉セットなるものを持ってきた。
5ミリほどの厚さにスライスされた、手のひらほどの、おそらく一角兎という魔物の肉が2枚に、オレンジ色のソースがかかっている。
それと緑や茶色の豆が入ったスープに、拳大のパンが2つと、コップに入った水が一杯。
銅貨8枚にしては、良いほうだろう。
スープを一口飲むと、薄い塩味と何かで出汁がとってある。
「ほんのり鳥の風味がするな」
センスの独り言に、
「お! 良い舌してるね。鳥の骨でスープを作ってんだよ」
店主の声がすぐ近くでした。
「ご主人、どうしたんですか? わざわざ客のテーブルで感想待ちですか?」
センスが言うと、
「いや、兄貴の宿のお客さんだし、旅の人は地元の味との違いを、どう思うのかと思ってね」
と、笑う店主に、
「地元では、豚が多かったので、鳥はアッサリしてて美味しいですよ」
と、センスが答えた。
「お、それなら良かった。兄貴の宿の朝食はうちの料理だけど、素泊まりかい?」
「いえ、朝食付きにしましたので」
「なら、明日の朝のスープも楽しみにしててくれ」
そう言って店主がカウンターに戻っていく。
肉はというと、トマトとニンジン、香草でウサギの臭みを消していて、とても美味かった。
宿に戻ったセンスは、
「そこそこって言ってたけど、美味しかったよ?」
と、宿の主人に伝える。
「そりゃ良かった。弟の店なんだが、味が薄いって言う客も居るからさ」
そう言って主人は、少し嬉しそうな顔をした。
翌日の朝食は、鳥の出汁をとった野菜スープに、豚の腸詰めが2本浮かんでいた。それとパン1つだった。
センスは勿論、美味しく頂いた。




