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白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話  作者: 二本角
第五章 エリコの壁
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エリコの壁1

お久しぶりです。

リアルで資格試験とか新しい作業場とかで色々あったという言い訳・・・

資格試験は終わったけど、仕事はまだまだ面倒なので更新頻度はどうなるかワカリマセンが、エタだけは、エタだけはすまい!!

「おかしい、何かが変だ・・・」


 久路人たちが白竜庵に入った後のこと。

 学会より葛城山に派遣されたその男は、違和感に気付いた。


「霊脈が乱れている・・・」


 男は、以前に九尾によって操られていた霊能者の一族に代わって葛城山の管理を任されていた。

 その仕事には霊地を覆う結界の点検も含まれており、男は普段の業務の一環として山を歩き回っていたのだが、結界にわずかな揺らぎがあったのだ。

 葛城山に展開している結界は、内部で『穴』が発生するのを抑制するほか、妖怪の力を弱める効果や、外部からの霊能者の侵入を知らせる機能がある。

 その動力源は霊地にあふれ出る霊脈由来の霊力であり、結界の揺らぎは霊脈に原因があることはすぐにわかった。


「だが、原因がわからん。白流の方で霊脈に大きな異変があったのは知っているが、ここにまで影響があるはずがない」


 一か月ほど前、葛城山から県をいくつか隔てた白流にて、周辺の忘却界が崩壊するほどの異変が起きた。

 その真相は以前から学会が注目し、七賢三位の『巨匠』の保護下にあった神の血を引く青年によるものであったが、その影響で白流の霊脈は大ダメージを受けた。

 白流を霊的に治める巨匠によってすぐさま対応措置が取られた他、常世に常駐する七賢七位の『鬼門』を呼んで結界の補強を行ったことで被害は最小限に抑えられたが、それでもつい最近まで霊脈は安定していなかったようだ。

 しかし、その余波が葛城山まで届いているのならば、他の地域でも異変が起きているはずであるが、そんな話は聞いていない。

 今のところ、結界の揺らぎはわずかなモノであるが・・・


「念のため、霧間と白流に一報を入れておくか」


 この葛城山では、数年前に九尾が復活して大きな騒動を起こしたことがある。

 あの時は一般人には被害はなかったが、一歩間違えば多くの人間に異能の存在が発覚する可能性もあった。そうなれば、学会が最新の注意を払っている忘却界の維持にも悪影響を及ぼしていただろう。

 九尾は討伐されたが、この霊脈の異常に他の大妖怪が関わっている可能性もある。

 ならば、万が一のために備えはしておくべきだと男は判断した。

 そうして、ポケットにしまっていた携帯を取り出そうとした時だ。


「うおっ!?」


 ズドンッ!!という轟音が響くと同時に、大きな地震が起きた。

 強烈な揺れのせいで、電話を掛けるどころか立っていることすら難しくなり、男は地面にへたり込む。


「け、結界がっ!?」


 揺れとともに霊脈の流れが一気に洪水のように乱れ、荒れ狂う。

 その結果、葛城山の結界が崩壊した。


「こ、これはマズい!!一体何が起きたんだっ!?いや、とにかく報告を・・・っ!!」


 揺れはすぐに収まり、男も立てるようになったが、霊脈は荒れたままだ。

 当然、結界も壊れたままである。

 学会から派遣されてきただけあって男も優秀な霊能者ではあったが、これはどう考えても男にどうにかできるレベルを超えている。

 結界が崩壊した以上、霊地であるこの土地は常世との通り道である穴がいつ開いてもおかしくない。

 そのように慌てる男に次に襲い掛かってきたモノは、音だった。



--グォォオオオオオオオオオオオオッッ!!!!



「ひっ!?」


 身の毛のよだつような獣の咆哮。

 なぜか二重に聞こえる吠え声が聞こえた瞬間、男は完全に動けなくなった。

 再び地面に倒れ込んだ男の、さっきまで頭があった場所を、大きな何かが通り過ぎていく。


「あ、あれは・・・」


 へたり込んだまま茫然と上を見ることしかできない男の目に、その姿が映る。

 黒い髪の毛のような体毛に、人間の足を無理矢理据え付けたような四肢に、同じく人間の腕でできた九本の尻尾。

 そして・・・


--ガァアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!

 

 

 血の涙を流しながら吠える、男と女の首。


「きゅ、九尾、なのか・・・?」


 凄まじい勢いで山を駆け下りていく九尾のようなおぞましいナニカを見送ることしかできないまま、男はそう呟くのだった。



----



「遠隔召喚成功~っ!!」


 葛城山の麓に広がる街のさらに隣街。

 あるホテルの一室で、マリは画面に映る九尾を見ながらケラケラと笑った。

 映像は、葛城山に飛ばしたドローンから送られてくるもので、ドローンそのものには異能の力は何も込められていない。

 そして、妖怪は基本的に写真や映像に映っても霊能力のある人間にしか見えないのだが・・・


----

おい、なんだアレ!!


合成?CGじゃないの?


キモッ!?っていうか怖っ!?


マリネさん、いつもと動画の空気違いすぎない?


やらせか?


----


「ふふふっ!!よかったっ!!みんなにも見えてるねっ!!」


 動画に流れるコメントを見る限り、普通の人間にも見えているようだ。

 九尾という妖怪が規格外の力を暴走させているような状態であることや、普段妖怪の力を抑制する結界が崩壊している影響だ。


「これで、『エリコの壁』の第二段階は終わりだねっ!!それにしても、計画の名前がエリコの壁なら、さっきの吠え声はラッパの音の代わりかなっ!!」


 『エリコの壁』


 それは、聖書に記述される言葉だ。

 エリコという堅固な壁をもつ都市を、神の命を受けた男が攻略したエピソード。

 都市の外壁を周り、ラッパを鳴らしたのを合図に、神の加護によって壁が崩壊したという逸話だ。

 神という存在が実在こそすれど現世への干渉を望んでいない以上、この伝説が真実であるかは不明ではあるが、ヴェルズはその名を計画に刻んだ。

 そこには、ヴェルズなりの思惑があったのだろう。


「神様が世界を守るために造らせたっていう忘却界を壊すための計画が、エリコの壁。ヴェル君も皮肉な名前付けるな~。ま、どうでもいいけどさっ!!」


 忘却界の破壊。

 それが、旅団に所属する者たちの多くに共通する目的だ。

 強い者が現れるのを促すため。

 主の望みを叶えるため。

 良質な餌を求めるため。

 霊能力を持つ者こそが上に立つべきという理念のため。

 世界の危機に立ち上がるだろう者たちを呼び込むため。


 忘却界を壊した後の展望はバラバラだが、旅団はそのために行動してきた。

 まず第一段階として、忘却界内部での異能の存在の流布。

 これは主にマリが作成した術具を方々にばら撒き、人間の構成員が起動することで、各地で意図的に怪異を発生させた。

 これによって直接襲われた者はもちろん、その周囲の人間も怪異の存在を知ることになる。

 他にも、旅団がヴェルズにまとめ上げられる前から行ってきた忘却界内での異能を使った犯罪行為や、霊地における妖怪の襲撃も一役買っている。

 だが、それだけでは世界中の人間によって維持される忘却界を崩すことは難しい。


「そのための、この第二段階だけどねっ!!」


 第一段階で異能の存在を知る者を増やした後の作戦である第二段階。

 それこそが、今行われている人為的な霊脈の乱れによる結界の崩壊と、大妖怪クラスによる襲撃だ。

 霊脈の乱れについてはヴェルズがまとめ役となってから行われてきたが、つい最近の白流での霊脈異常により、常世のどの部分を刺激すれば現世に影響が出るか判明したのは望外の幸運であった。

 しばらくは月宮京への牽制のために白流に繋がる霊脈を荒らしたが、ヴェルズのアンデッドの調整に目途がついたために、本命である葛城山の霊脈を攻撃したのである。

 霊地としての格はもちろん、観光地として有名であり一般人のアクセスも簡単なこの山は、妖怪の脅威を知らしめるのに最適だったのだ。


「ただの妖怪が少し暴れたくらいじゃあ、簡単にもみ消されちゃうだろうけど・・・あの九尾相手じゃそうもいかないよねっ!!」


 そこで、マリは画面に向き直った。

 画面の中では、九尾が山を降り、街に踏み出そうというところだった。

 

「あれ~?山の中にいた連中には手を出さなかったんだっ!!ま、いっかっ!!」


 

--グォォオオオオオオオオオオオオッッ!!



 唖然とする街の住民の視線を受けながら、道に停まっていた車を踏みつぶし、九尾は吠えた。

 それを見て、マリは唇を歪める。


「すぐに、いっぱい死んじゃうだろうしねっ☆!!アッハッハッハハッハッ!!」


 自分の理想の世界が目前に来ていることを感じ、哄笑を上げ・・・


「アッハッハッハハッ・・・・・は?」


 そのまま九尾による虐殺を観戦しようとして、その笑みが固まった。

 スマホを放り投げ、ホテルの窓を開けて遠方を見やる。


「何、この霊力・・・」


 マリの見ている方向は、白流の地。

 そこから、目に見えるほど強大な黒と白の霊力が立ち上っていた。


『グルルル・・・』


 画面の中で、九尾もまた動きを止めて警戒しているのに、マリは気付くことがなかった。




----

 

「おじさんっ!!」

「メアっ!!この霊力は何事だっ!?」


 僕と雫の願いを改めて形にした直後、僕たちは強烈な霊力を感じた。

 それは、霊脈を動力源としているとはいえ、白竜庵にまで届くほどのモノ。

 しかも、僕たち2人にとって非常に因縁の深いモノのそれであったのだ。

 目的を達成したこともあり、若干名残惜しさを感じつつも、僕たちはすぐに外にいるおじさんたちに会いに行った。


「お前ら・・・その感じだと、ギリギリ間に合ったみてぇだな」

「ええ。ここでまだ至っていないようでしたら、苦戦は免れなかったでしょう」


 裏庭から飛び込んできた僕たちを見て、おじさんとメアさんはそう言った。

 どうやら、僕たちが『神格』に届いたのを察したようであるが、僕らの表情を見て、『まあ、それよか説明か』と知りたいことを教えてくれた。


「ついさっき、葛城山にいたヤツから連絡があった。それによると、九尾が出たらしい」

「九尾・・・確かにこの霊力はそうだ。しかし、ヤツは久路人と妾が・・・」

「いや、待った雫。確か、僕が人外になった日におじさんたちが死霊術師に会ったって」

「はい。私と京はアンデッドとなった九尾を目撃しています。今現れているのは、その個体でしょう。そして、あれほどのアンデッドを忘却界を通して運ぶ術を持つのは、旅団の死霊術師であるヴェルズのみ。まず間違いなく、旅団の仕業です」


 九尾。

 それは、僕と雫にとって忘れたくても忘れられない存在だ。

 僕と雫が結ばれるのを妨げた存在であり、僕たちが心の底から繋がるきっかけになった存在でもある。


「・・・・・」


 隣を見ると、雫が神妙な顔をしていた。

 つい最近作戦会議をしていた時もそうだったが、雫は九尾に対して僕以上に複雑な感情を抱いている気がある。


「それで、これからどうするの?」


 雫に代わって、僕が話を切り出した。

 こんな遠方の白流市まで届くような霊力をまき散らしている存在だ。

 まず間違いなく放っておけば大災害を超える被害になるだろう。

 絶対に止めねばならない。


「京・・・もし行くのならば、妾たちも連れて行け。お前が久路人のことを想って白流に留めておきたい気持ちはわかる。だが・・・」

「いいぞ」

「この件は、妾たちが・・・何?」

「え、いいの?」


 珍しく雫が真剣な顔でおじさんに頼み込んだが、あっさりと許可が得られた。


「神格に至っていないようならば、決して許可できませんでした。しかし、今の貴方たちならば問題ないでしょう」

「ここからでも分かるが、九尾は俺たち七賢並みだ。それに加えて、多分だが旅団の幹部もいるだろうからな。もしも黒狼がいるようなら、俺たちと朧たちだけじゃあ良くて五分五分だが、お前らがいれば勝算が出てくる」

「意外だな。妾たちが神格を得てから一時間も経っていないというに。てっきり訓練をしてからだと思ったぞ」

「陣は願いの具現化したものです。使い方は練習なぞしなくても理解できているでしょう?」

「それは、うん」

「問題ないな」


 メアさんに言われて、僕と雫はお互いの視線を交わして頷き合う。

 そう。今の僕たちには、この身体から溢れんばかりの力の使い方が手に取るように分かる。

 なぜなら、それは僕らの理想を叶える術だからだ。

 ソレがどのような力で、どのタイミングで使い、どのような結果をもたらすのか、すべてを把握できていた。


「よし、そうと決まれば行く準備だが、その前にだ。毛部、野間瑠!!あと物部姉妹っ!!」

「は、はいっ!!」

「何ですか、京さんっ!!」

「わわっ!?バレてたっ!?」

「最初からそんな気はしてましたけどね・・・」


 おじさんが手を叩くと、すぐ近くの物陰から黒い影が二つ跳んできた。

 もはや見慣れた光景ではあるが、本当に忍者のようである。

 そして、その後から物部姉妹が歩いて来る。

 物々しい雰囲気を感じて、おじさんたちを見ていたのだろう。


「話は聞いてただろうが、俺たちは今から白流を出る。ここの護りは任せたぞ。そこの色ボケどものせいで起きた霊脈異常にも対応できるように結界も造り替えてあるからな。大物も早々入っては来れねぇよ。お前らならできる」

「各小隊長にもご連絡をお願いいたします。白流警備隊合格試験に受かったのです。自信を持つように」

「「「「は、はいっ!!」」」」


 おじさんは、毛部君と野間瑠君を激励するかのように肩を叩くと、『お前らはそこで待ってろ』と言って、屋敷の方に歩いて行った。

 メアさんも、物部姉妹の目を見て語り掛ける。

 4人とも嬉しそうである。


「なんか、おじさんがあんな風に励ましてるところ、僕見たことないんだけど・・・」

「うん。私もメアが素直に『自信もちなさい』って言うとか軽く信じられないよ」


 ここ最近の修行がきつかったから、おじさんたちが優しいのに物凄い違和感を覚える。

 雫もなんか微妙な表情だ。

 そんな僕たちの方に、4人が駆け寄ってきた。


「月宮君たち、今からこのヤバい感じがする方に行くんだよな・・・?」

「俺たちは京さんに言われたようにこの街を守るよ。訓練もしてきたしね」

「水無月さんたちにこんなこと言うのもおかしいけど、気を付けてね」

「帰ってきたら、何があったか教えてくださいね!!」


 4人とも、心配そうな顔だった。

 普段の癖で、毛部君と野間瑠君は僕、物部姉妹は雫に話しかけているが、今はもう片方にもチラチラと視線を向けている。

 そんな顔を見ていたら、流石に微妙な気分も消えたが・・・


「「・・・・・」」


 一瞬、僕と雫はお互いの目を見やった。

 互いの霊力を確認し、その昂りをチェックして、パスを介して念話する。


(・・・これぐらいなら、大丈夫だね)

(うん。まあ、こいつらが私たちを心配してるのも本当だろうからね)


「月宮君?」

「水無月さん?」


 一瞬だけのつもりだったが、少し長く目を合わせていたらしい。

 4人が、怪訝そうな顔をしていた。


「いや、なんでもないよ。ごめんね・・・うん、行ってくるよ」

「誰に物を言っている。土産話は用意してやるから、お前たちも気を付けるのだぞ」


 僕らはそう言い合うと、4人は屋敷にある設備を確認しに戻っていく。

 その後ろ姿を見ながら、僕は呟いた。


「メアさんが言うように、使い方はわかるけど、抑える訓練はしなきゃいけないな」


 後少し、雫を見られていたら危なかったかもしれない。

 目覚めたばかりだからかもしれないが、己の中で荒れ狂う力が、今にも外に出そうな感覚がする。


「本当にね。後ちょっと久路人と話してたら、ここで使ってたかもしれない。そうなったら・・・」


 一拍置いて、雫は言った。


「あいつら、全員死んでたよ」


 

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(プリズン)


死霊術師や精霊術師と呼ばれる術者が使用する高等な術。

契約した死霊や精霊などは、常に術者から離れられない。

モノによっては非常に大型になるモノもいるため、術者はそれらの非戦闘時の扱いに苦労することになるのだが、高位の術者の場合はマヨイガのような専用の空間を構築し、そこに保管することでその問題を解決している。

そういった空間の中は時間が止まっており、劣化することもない。

術具に込めることも可能であり、術具を休眠状態にすれば短時間ならば忘却界の中でも保管可能。

ただし、保管できる数や期間、忘却界でのタイムリミットは、術者の力量と契約した存在の格に依存する。

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