白流怪奇譚8
まだまだスランプから抜け出せない・・・
というか、今回は軽い導入のつもりだったのに、それだけで一万字超えちまったぜ・・
「なんか、今年の夏休みは色々あったなぁ・・・」
「そりゃ、自分が霊能者になったって知ったらそうなるよ」
大学の食堂にて。
向かいの席に座った毛部君と野間瑠君が感慨深そうにしながら、注文した豚丼をかき込んでいた。
もうすぐ夏休みも終わるからか、前に来た時よりも食堂の中は少し混んでいる。
「僕もそうだよ。まさか、身近な知り合いに霊能者になれる人がいたなんて思わなかったし。他にも、人間やめたりしたしなぁ」
「私が言うのもなんだけど、こいつらが霊能者になったこととは比べ物にならないくらい重いことだと思うよ?」
「俺たちとしてもそこは驚きだよ。月宮君が昔からそっち側のヤツだったのは言われれば納得いくけど、人間じゃないってのはな・・・」
「こうしてる今も、月宮君人間にしか見えないし」
「それはまあ、今の僕は人化の術で人間の姿になってるからね。見た目は人間だもの」
僕も受け答えをしながら、頼んだカレーを零さないように細心の注意を払いながら口に運ぶ。
一滴の汁もこぼすまいと、全神経を集中だ。
「あ、久路人カレーにしたんだっけ?それじゃあ、今日の夕飯はカレーじゃなくてシチューにしよっか」
なぜなら、雫は今僕に膝枕された状態で寝っ転がっているからだ。
最初は僕の膝に腰掛けていたのだが、それでは食べにくかったのでこの体勢に変えてもらっている。
毛部君たちも会ったばかりの頃は面食らっていたが、今では雫と僕がべったりとくっつきながら行動していても何の反応もない。
むしろ、雫からのプレッシャーが減って安心したような顔をしている。
「月宮君もそうだけど、周りにこんなに色んな妖怪がいたってことはマジで驚いたな」
「だね。見えてなかっただけで、自分の部屋にまで入って来るのがいるとは思わなかったよ」
「二人の部屋に入って来るようなヤツは、本当にたまたま入ってきたのだと思うよ。力が弱いヤツなんかは、虫とあまり変わらないからね。蚊とかカメムシが紛れ込むのと変わらないよ」
「瘴気だっけ?ああいう小さいのからはほとんど嫌な感じしないし、そう言われると本当に虫みたいなもんだな」
「殺虫剤とかは効かないけどね~」
話しながら、食事を続ける。
それは普通の人から見ても、特段不思議な光景ではないだろう。
だが、その内容は非日常の世界。
そんな周りとは少しだけズレた会話を、僕らは続けていた。
とはいっても、ここで毛部君と野間瑠君に会ったのは偶然である。
最近は朝と夕の二回に分けて二人とは訓練をしていたが、今はたまたま課題をこなした帰りに、自炊するのが面倒で食堂を利用している二人と鉢合わせた結果だ。
「能天気な連中だな・・・比呂奈と比呂実はかなり取り乱していたと言うに」
和気あいあいと話す僕らを少しだけじっとりとした眼で見つつ、雫はポツリとこぼした。
なんだかんだ言って雫はあの姉妹のことはそれなりに気にかけてはいるらしい。
「まあ、物部さんたちは毛部君たちみたいに強い力は持ってなかったからね。そもそも、最初からこの二人は妖怪を襲う側だったし」
「あ、あのときは、その・・・最初は人間相手に目の前で踊ったりとかしたんだけど気付いてもらえなくてよ」
「なんかすごいハイになってて、無視されて腹が立ってたから、俺たちが見えるUMAみたいのならちょっとくらいはっちゃけてもいいかなって思って・・・」
「そこで顔に落書き程度で済ませる辺り、二人とも小市民的というか優しいよね」
毛部君と野間瑠君が最初に妖怪を襲っていた理由は、人間では自分たちに気が付いてくれなかったかららしい。
妖怪たちに嫌がらせをしていたのはその腹いせだったとか。
「そ、それより!!」
「その物部さんっていうのは誰なんだい!?名前的に女の子っぽかったけど!!」
あまり掘り起こされたくない話だったからか、それとも女の子の話の方が気になったのか、急に二人とも早口になっていた。
「二人が目覚める少し前くらいに会った人たちだよ。ただ、物部さんたちは二人みたいに後から目覚めたんじゃなくて生まれつきの霊能者だったけど」
「妾たちから見ればお前らも木っ端のようなものだが、比呂奈と比呂実は本当にただ『見える』程度の霊力しか持っておらん奴らだ。まあ、その分中々勘が鋭いようではあるが」
物部姉妹、物部比呂奈さんと物部比呂実さんも、最近僕らが出会った非霊能者家系出身の霊能者だ。
毛部君と野間瑠君に比べると大分力が弱いが、それは目の前の二人の方が珍しいくらいに力があるからで、物部姉妹の方がむしろ普通だとおじさんは言っていたが。
「そ、そうなのか・・・その、その子たちって」
「月宮君から見て、か、かわいい?」
二人は何かを期待するような顔でそう聞いてきた。
毛部君と野間瑠君の目的を考えれば、まあ予想できる質問であるが・・・
「・・・・・チッ」
「「!?」」
瞬間、雫から発される圧が強まり、毛部君と野間瑠君の顔が青ざめた。
雫の機嫌が悪くなり、毒気が垂れ流しになったのだ。
『ゴミ屑どもが』と言いたげな視線でテーブルの向こうをひと睨みした雫であったが、その視線はすぐに僕の方に飛んできた。
「・・・久路人?」
「え?いや、その・・・」
どうしよう、何も言えない。
僕の目から見て物部姉妹は顔立ちが整っている美人だと思うが、それを口に出したらこのテーブルの周りにいる人たちが病院に運ばれる事態になる気がする。
いっそ雫が説明すればいいのでは?と思うが、雫は僕が何と言うのか気になっているようで、僕の方を見てくるだけだ。
しかし、それならいっそ、ここは色んな意味で正直になった方がいいのかもしれない。
「し、雫の方が美人だよ」
「・・・まあ、よし」
どうやら雫の判定はクリアのようだ。
僕はホッと胸をなでおろす。
「いや、それは流石にわかってるって。水無月さんと比べたら」
「水無月さんレベルの美人とか早々いるもんじゃないでしょ・・・臭いのヤバさもだけど」
「・・・は?」
が、二人が雫の容姿のことを口に出した瞬間、僕の中で冷たい何かが沸き起こり・・・
「久路人久路人。さすがにここではやめようよ。気持ちは嬉しいけどさ」
「え?・・・ああっ!!ご、ごめん!!」
クイクイと雫に服を引っ張られて我に返る。
いつの間にか殺気を出して、霊力を昂らせていたようだ。
「い、いや、大丈夫」
「俺たちが迂闊だったよ・・・」
雫の毒気と僕の殺気に中てられて、二人はガクガクと体を震わせていた。
((ヤンデレって面倒くせぇ!!))
二人は引きつった顔をしながらも、目がそう言っていた。
一応二人が言ったことは雫に気があるとかそういうニュアンスはなく、普通の会話であったが、それでも一瞬で我慢ができなくなってしまっていた。
「はぁ・・・色々気を付けなきゃ」
「まあまあ。私としてはむしろ嬉しいくらいだからそんなに気にしなくてもいいんじゃない?」
「周りの人に迷惑かけるのはダメでしょ。殺気を抑える練習しなきゃな・・・」
((普通は彼女を美人って言われたくらいで殺気なんか出せねーよ))
周りを見回すが、殺気を出していたのは一瞬だけだったためか、特に体調を悪くした人はいないようだ。
僕はホッと安どのため息を吐き・・・
「あ」
そして、見知った顔が目に入った。
その声に、向こうもこちらに気が付いたのだろう。
「あれ、月宮君?」
「水無月さんと・・・誰?」
噂をすれば影。
物部比呂奈さんと物部比呂実さんが、そこに立っていた。
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「は、初めまして!!俺は毛部忠人って言います!!最近霊能者になりました!!特技はパルクール!!」
「お、俺は野間瑠波雄!!霊能者で特技はパル、いや、ナイフ投げです!!」
「「はぁ・・・」」
6人が囲むテーブルで、男二人組は新たに加わった美少女姉妹に張り切ってそう言った。
「えっと、私は物部比呂実です。一応霊能者らしいんですけど、ほとんど普通の人と変わらないです。あ、でも怖い話は好きです!!」
「物部比呂奈。こいつの姉よ。霊能力とかよくわかんないけど、妖怪は見える。怖い話は、まあ、嗜む程度」
それに対する物部姉妹の反応は淡白なものだった。
比呂実さんの方は怖い話の辺りで熱がこもっていたが、比呂奈さんの方は普通の自己紹介としか言いようがない。
「お、俺たちをしっかり見て話してくれてる!!」
「すごい!!合コンの時なんか自己紹介すらスルーされたのに!!」
もっとも、霊力のおかげか影の薄い二人をしっかり認識できているというだけで二人にとってはそんな反応などどうでもよくなるレベルだろう。
雫の言う通り、七不思議に感づいた時のように霊的な知覚能力が高いのかもしれない。
さすがに二人が術まで使って本気で気配を隠せば見つけられないとは思うが。
「怖い話好きなんですか!!なら、俺いい話知ってますよ!!妖怪の前に仮面を被った男が現れる話で・・・!!」
「ずるいぞ忠人!!それ、俺たちの話だろ!!」
だが、毛部君たちはそんな様子に怯みもせずガツガツとアタックを仕掛ける。
熱くなりすぎて仲たがいを始めているが。
「あの、水無月さん。この二人はお知り合いなんですか?」
「妾はただの顔見知りだ。こいつらは久路人の友人だな。一応」
「一応って・・・ちゃんと友達だよ」
「へぇ。月宮君友達いたんだ。意外」
「ね、姉さん!!失礼ですよ!!・・・気持ちはわからなくもないけど」
「久路人は人付き合いがあまり得意な方ではないからな。妾としては別に久路人に友達などいらんと思うが。妾とだけ仲が良ければそれでいいだろうに。まあ、こいつらと後二人のおかげで他の連中にちょっかいをかけられなくなるのに役には立ったがな」
「え、なんか僕ディスられてない?」
毛部君たちに話しかけても埒が明かないと思ったのか、物部姉妹は雫に話を聞くことにしたようだ。
その結果、なぜか僕がコミュ障とか言われているが・・・まあ、人に避けられやすいのは確かではあるけど。
「あの二人とは久路人が高校生になってからの付き合いだな。その時は普通の人間だったが、つい最近にこの街に流れ着いてきた術具が原因で眠っていた素質が目覚めたらしい。妾たちに比べれば大したことはないが、そこそこ、まあそこそこにはやる程度の実力だと久路人は言っていたぞ。ここしばらくは妾たちの家で霊能力の訓練をしているな」
「れ、霊能力の訓練!?どんなことしてるんですか!?」
「ちょっと比呂実・・・はぁ、また比呂実の面倒なところが」
怖い話やらオカルトに興味のある比呂実さんにとって、そういったトレーニングは食指をそそられる話のようだ。
「私たちにも霊力はあるんですよね!?私にもできますか!?」
「む。比呂実、前にも言ったが中途半端に鍛えるようなことは・・・」
「あ。ちょっと待った雫」
そこで、僕は雫を止めた。
おじさんから言われていたことを思い出したのだ。
「おじさんが言ってたんだけど、もしも二人にその気があるんなら霊力の扱いについて教えてもいいって」
「京が?なんで?」
「さあ?聞いたけど教えてくれなかったよ。ただ、『この先忙しくなるかもしれないから、人手が欲しい』って」
「ふぅん?京がそう言うのなら、そうするだけの事情があるわけか・・・そういうことらしいが、どうする?」
「やります!!やらせてください!!」
「ちょっと、比呂実!!よくわからないのに即決すんなって!!」
霊力の訓練。
素人が中途半端にやると妖怪を呼び寄せるだけで危ないだけのこともあるが、しっかりした指導者を付けた上で安全な月宮家で行うのならば問題はないだろう。
比呂奈さんは分からないが、比呂実さんは食い気味だ。
「それで、どんなことをするんですか!?」
「ああ、それなら・・・」
「雫、雫。せっかくなら・・・」
説明をしようとする雫だったが、そんな雫を僕は止める。
「えっと、二人とも、説明してもらっていいかな?」
「「よろこんで!!」」
ちょっと前から喧嘩を止めて、さりとて会話の輪に入ることもできず寂しそうな恨めしそうな顔をしていた毛部君と野間瑠君の顔が華やいだ。
そして、口々に自分たちがやっている訓練内容を話し始める。
「という訳で、月宮君と戦ったりするのがメインだけど、それ以外だと瞑想とかやって霊力を増やしたりしてますね!!」
「俺たち、結構強いって、月宮君にも言われてるんですよ!!術具って言う身体を強化したり姿を隠せる術が込められた道具で実戦やってます!!実際に弱い妖怪と戦ったこともありますよ!!」
「よ、妖怪と戦う・・・!!すごい!!本当に漫画みたい!!」
毛部君たちがやっているのは主に戦闘訓練なので、荒っぽい話になってしまったが、比呂実さんは興味津々だ。
「あたしはそんなのごめんよ。喧嘩なんかしたことないし、運動も得意じゃないし。それに、そんなことしてる時間ないでしょ。妖怪のせいでバイトもやめちゃったんだから、新しいところ探さなきゃいけないし」
「う・・・それは」
姉の比呂奈さんは嫌がっているが。
比呂実さんも苦そうな顔をしている辺り、金欠なのだろうか。
「その脳筋どもでは説明できんようだから捕捉してやるが、お前たちは多分戦闘の訓練はせんぞ。そいつらは身体を動かす適性があるからそうした修行をしてるだけだ。護身術程度なら教えるかもしれんが、やるなら補助的な術の修行だろうな。それか、術具の扱い方か。後、金も出るぞ」
そんな二人を見て雫は助け舟を出すことにしたのか、アルバイト代のことも絡めて二人に向けた内容を詳しく語る。
そして、そこを攻め時と見たのか、毛部君と野間瑠君も加わった。
「それに、かなり割りのいいバイトでもあるんですよ!!」
「そうそう!!なんと、日給で5万!!」
「はぁっ!?日給5万!?それ大丈夫なの!?」
「雇い主は久路人の養父と養母だ。変わり者ではあるが、悪い奴ではないことは保証してやる。金については、そいつらの言っているのは危険手当も込みだな。お前たちは戦う訳ではないからもう少し額が下がるかもしれんが・・・その辺りは交渉次第だ。まあ、よほど吹っかけん限りは聞いてくれると思うぞ」
「5、5万かぁ、日給5万・・・は、話を聞きに行くだけなら、行ってみようかな」
「なら決まりだね!!水無月さん!!私は今からでも行けますけど、どうですか!?」
バイト代のことで不安になったのは毛部君と野間瑠君と同じだが、やはりそこの誘惑には勝てなかったのか。
戦うことにはならなそうということもあり、比呂奈さんも陥落した。
「その辺りはまた京に聞いておくが、行くなら今日の夕方にこいつらと来るがいい。断りはせんだろう」
「は、はい!!」
こうして、物部姉妹も非日常の世界に足を踏み入れることになったのだった。
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「マジでか!?あの時のガイドさん九尾の狐だったの!?」
「修学旅行で突然体調不良で帰ったからおかしいとは思ってたけど・・・」
「あはは・・・あの時は僕も雫も死にかけたからね。本当に運が良かっただけだよ。朧さん・・・えっと、すごい強い吸血鬼みたいな人なんだけど、その人たちが来てくれなかったら今ここにいないだろうね」
あのススキ原での戦いを思い出し、僕はしみじみと偽らざる本音を口に出した。
「ああ。あのクソ狐は強かった。あいつお得意の幻術を封じられてなお、妾たち二人を負かしてのけたからな。久路人の言う通り、運が良かったのだ」
「九尾の狐に、別の世界を作る術、吸血鬼の侍・・・本当のことを言ってるんだとは思うけど、想像もできないわね」
「言葉だけじゃ物足りないですよ!!ああ、すっごく見てみたかったです!!」
あれからまた少し訓練の内容について話した後。
僕と毛部君たちのつながりから、高校時代の話になったのだが、随分と盛り上がっていた。
毛部君と野間瑠君はあの修学旅行にいたからもちろんだが、内容が濃いためか、物部姉妹も話題の映画を見た後のようにテンションが上がっている。
「いや、月宮君だから嘘じゃないんだろうけど、あのガイドさん・・・えっと、葛原さんだっけ?あの人が妖怪だったとか信じらんねぇや」
「本当だよね。どうみても人間にしか見えなかったよ。あの時俺たちが霊能力に目覚めてたら気付けたのかな?」
「う~ん、難しいと思うな。人化の術は幻術じゃなくて、本物の人間の肉体に変わる術だから見破ることができないんだよ。瘴気も大分薄くなるし。しかもあの九尾は霊力を隠すのもすごく上手かったから、向こうが襲ってくるまで完全に気付けなかったし」
毛部君と野間瑠君は九尾が化けた姿に出会っていたこともあり、驚きもひとしおなのだろう。
思えば、彼らに素質があった以上、あの場で目覚めていてもおかしくはなかったのかもしれない。
「え?それじゃあ今この街にも水無月さんたち以外にも人間に化けた妖怪がいるかもしんないの!?」
そう言って不安げな表情をするのは比呂奈さんだ。
彼女は妹の比呂実さんに比べると慎重というか、怖がりらしい。
「さすがにそれはない。人化の術は見破ることはできんが、非常に高度な術だ。そのレベルが使える妖怪は、どんなに隠していても魂の中に膨大な霊力を秘めているから、ここの結界が必ず反応する」
「霊力を隠せるって言っても、限界はあるからね。それ専用の術具を使えば、妖怪や霊能者かどうかくらいは分かるはずだよ。まあ、あの九尾はそもそも疑うことすらできなかったんだけどね・・・」
「普通は極限まで抑えても、大物妖怪ならば多少の瘴気は出るのだがな。妾も、普段はかなり抑えているのだぞ?」
「「え、アレで?」」
「あ゛?」
「「すみませんでした!!」」
雫の台詞に反応した男二人組に、氷の視線が突き刺さる。
二人はすぐに平謝りした。
「あはは・・・雫は霊力抑えるのが昔から下手だったから」
「まあそれもあるが・・・それ以前に、妾は久路人以外の全てにとって存在そのものが毒だからな。どんなに誤魔化そうとも、本質を変えることはできん。妾としては一向に構わんがな。むしろウェルカムだ」
「「「「ええ・・・」」」」
『ふふん!!』ととんでもないことを胸を張りながらどや顔で言う雫に、僕以外の全員が軽く引いていた。
僕からすれば嬉しさしか沸かないが。
「あれ?でも今は月宮君も人外なんだよね?月宮君からは全然嫌な感じがしないけど・・・」
そんな風にウンウンと頷く僕を見て、野間瑠君が不思議そうな顔をする。
「僕の霊力の性質かな。雫が毒なら、僕は薬らしいから。後は、僕が元人間だからだね。人間が元の意識を保ったまま人外になった場合は、あまり瘴気が出ないらしいんだ。他にも、仙人みたいに特殊な術を使うとか、おじさんみたいに改造で人間やめても純粋な妖怪に比べると大分少ないんだって」
「薄々思ってたけど、京さんも人間じゃないんだ・・・」
「っていうか、改造って。仮〇ライダーかよ・・・」
「・・・ねぇ、水無月さん。本当にそのバイト大丈夫なの?改造人間にされたりとか、人体実験の素材にされるとかないよね?」
「安心しろ。京はカタギに手を出すようなヤツではない。昔は嫁のパーツのために霊能者の内臓を集めて回っていたようだが、もうソイツは完成しているしな」
「それのどこに安心できる要素があるの!?」
「フランケンシュタインの怪物までいるんですか・・・」
そうして、比呂奈さんが『やっぱバイトの話受けるの止めようかな・・・』と青い顔をして呟くのを比呂実さんと、美人との出会いを減らしたくないのがヒシヒシと伝わってくる野郎二人によって説得されたり、今後必要になりそうなので物部姉妹と連絡先を交換したら、感情のタガが外れて『よっしゃぁっ!!!女子の連絡先ゲットぉぉおおお!!!』『霊能力者万歳!!ありがとう京さん!!』と、毛部君と野間瑠君が狂喜乱舞したりと色々あったのだが・・・
「それにしても、意外ですね」
「何がだ?」
それからまた中学時代や、先日の七不思議つながりで小学校のころの話をしてひと段落付いた頃だった。
比呂実さんがポツリと呟いた。
「いえ、確か私たちが初めて会った時、霊能者の家系じゃないのに霊力を持っているのは珍しいって言ってましたよね?それなのに、私たち以外にも二人もいるなんて」
「そういえばそうね。案外そこらの人にも毛部君たちみたいに素質があったりするの?」
ここにいる6人の内、4人はつい最近になって非日常の世界を知った人間だ。
こうやって集まって話すうちにその辺りが気になったということか。
二人の言う通り、いくら白流市の結界が歪んでいたからと言って、4人も霊能者が見つかるのは相当珍しいことだ。
「先天的か後天的かでかなり違うがな。お前たちのように先天的なヤツらは相当にレアだ。そして後天的に覚醒するヤツらは何がしかかなり尖った才能を持ってるやつがなりやすいらしいから、潜在的にはそれなりに数がいるのかもしれん。そいつらの子供に霊能力が受け継がれるかはわからんがな」
「おじさんが言ってたけど、素質があっても覚醒するのにはきっかけがいるらしいけどね。ちょっと瘴気をや霊力を浴びたくらいじゃ簡単には目覚めないって」
「妾が封じられる前は現世に大穴があちこちで開いていた。瘴気の濃度も高かったから、今よりもずっと霊能者は多かったな」
「へぇ~・・・」
「そういや尖った才能って言ってたけど、アンタたちってどんな才能があったの?」
「「え!?」」
自分たちに急に水を向けられ、毛部君と野間瑠君は固まった。
あまり注目を浴びるということになれていないのかもしれない。
いや、それよりも質問の内容か。
「お、俺らの才能か・・・」
「えっと、その・・・身体能力かな?パルクールやってたし」
「そうなの?それなら、トップアスリートは全員素質があるってことじゃない?」
それまでのがっついた様子から打って変わって、しどろもどろになって話す二人。
まあ、確かに二人は自分の才能のことをコンプレックスに思っているようだが・・・
「二人とも。物部さんたちは気づいてないのかもしれないけど、すぐバレる嘘はあまりつかない方がいいと思うよ?」
「「う゛」」
今後、物部姉妹と行動することもあるだろうし、隠していてもすぐにわかってしまうだろう。
ならさっさと明かした方がいいと思い、僕は二人を急かすと、二人が『痛い所突かれた!!』みたいな顔をした。
「・・・ま、まあ、コンビニとか行ったらすぐわかっちまうか」
「そうだね・・・あ~、俺たちの才能は、その、影が薄いこと、です」
「「へ?」」
それでも、結局は言うことにしたらしい。
そうして野間瑠君の台詞を聞いた瞬間、物部姉妹の目が点になった。
「影が薄い?いや、確かにあんまり印象に残らない感じだけど」
「言うほどですか?そのくらいで霊能者になれるのなら、もっとたくさんいてもいいんじゃ・・・」
物部姉妹の反応は微妙だった。
しかし・・・
「うっ、うっ・・・!!」
「い、生きててよかった、よかったよぉ・・・!!」
毛部君と野間瑠君は、まさに滝のように涙を流して泣いていた。
これまで多くの人に気付かれなかった二人にとって、そこを否定してくれた物部姉妹の言葉は福音だろう。
「「ええ・・・」」
肝心の姉妹は少し引いていたが。
「お前たち二人は、恐らく感知能力が鋭い方なのだろう。だから、そいつらに気付けるのだ」
「この二人、高校の頃とか毎日出席してたのに、先生に気付かれなかったせいで出席日数足りなくなりそうだったから」
「確かにそこまで影が薄いと、もう超能力みたいなもんね・・・」
「あんまり羨ましいとは思いませんけど・・・」
話を聞いて少し同情するような視線を向ける姉妹に、影の薄い二人組は女神を拝むように頭を下げる。
「ありがとう、ありがとう・・・!!!」
「俺たちに気付いてくれて・・・一時は、俺らが写った写真が心霊写真と間違えられたことだってあって」
「それで映研にスカウトされたけど、そこでも気づいてもらえなくてさぁ・・・!!」
「ありがとう。本当にありがとう!!」
「そ、そう、大変だったのね」
「ちょっと前にあった映研の心霊写真の噂って、毛部さんたちのことだったんだ・・・なんかショック」
そんな二人に、やっぱり姉妹は引いていた。
いや、比呂実さんの方は噂がガセだったことにガッカリしているようだったが。
そうして、男泣きをしていた二人が落ち着いた後。
「「映研か・・・」」
ハンカチで目元をぬぐった毛部君と野間瑠君は、遠い目をしていた。
「二人とも?」
「ああ、いや。最近あんまり向こうに顔出してないって思ってさ」
「元々幽霊部員みたいなもんだったけど、ここしばらくは月宮君家で訓練してるから、行くタイミング逃した感じだなって」
「フェードアウトは部長に悪い気がするから、挨拶はしに行った方がいいよな」
「だよね」
「二人とも真面目だねぇ」
「そうか?」
「まあ、部長には結構よくしてもらったからね」
二人は映研に所属していたが、そこでは件の部長以外からはあまりいい扱いをうけていなかったようで、前々から辞めることを考えたいた。
そこにあの仮面での暴走事件があって間が開いてしまい、その上で霊能力に覚醒したり訓練だったりと色々なことが立て続けに起こったため、もう大分部員に会っていない。
けど、誘いをかけてくれた部長への義理を通しに挨拶には行くのだとか。
「映研の部長さんですか・・・確か、かなりのオカルト好きでしたね。行動力がありすぎて、山奥の心霊スポットにもしょっちゅう足を運ぶとか」
「前に部室の前で騒いでるのに出くわしたことがあったわね。『本物の心霊写真を撮るんだ!!』とか言ってたっけ。そういや比呂実は映研入ろうとしたことなかったけ?」
「入ろうとは思ったんだけど、あそこはちょっと・・・部長さんはともかく、周りの子が・・・」
「わかる!!わかるよ比呂実さん!!」
「あいつら、圧が半端ないんだよね!!普段俺らを無視するのに、部長に誘われた時だけ露骨に牽制してくるし!!」
どうやら、僕と雫以外は映研のことを知っていたみたいだ。
そして、毛部君と野間瑠君は映研で大分ひどい目に遭ったのだろう。
物部姉妹に迫る時以上に声に籠っているエネルギーが熱かった。
(う~ん、おじさんが少し調べたみたいだけど、僕も一度会っておこうかな?)
つい先日の毛部君と野間瑠君の身に起きた事件。
あれの原因は、その部長が集めていたオカルトグッズの中に紛れ込んでいた本物の術具だった。
術具はすべておじさんが回収したが、霊能力を持っていないという部長が、どうやってそんなに術具を手に入れることができたのかは興味がある。
確かオークションを利用したと小耳にはさんだが。
「ん?あれ、メールだ」
「あ、俺もだ。ちょっとごめん」
と、そこで毛部君たちの携帯が震えた。
二人は僕らに断りを入れると、スマホをいじり始め・・・
「「え?」」
二人同時に声を上げた。
「どうしたの?」
「いや、えっと・・・」
「タイムリーというか、何と言うか・・・」
二人は、僕らにスマホの画面を見せてくる。
僕と雫は毛部君の、物部姉妹は野間瑠君のスマホを覗き込んだ。
「久路人・・・」
「これって・・・」
僕と雫は、思わず顔を見合わせる。
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From 映研部長
お疲れ。
最近あまり見かけないが、元気かな?
突然なんだが、君と野間瑠君は白流高校の出身だったな?
なら、月宮という生徒を知らないか?
彼に関する噂でもいい。
知っていたら、教えてくれ。
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スマホの画面には、こんなメールが浮かんでいたのだった。
4章の感想について、話が遅いとかつまらないとかでもいいので感想くれると嬉しいです!!
モチベアップのためにも何卒!!
瘴気
常世に漂う霊力。もしくは妖怪の発する霊力のこと。
他種族の霊力を取り込むことができる妖怪の霊力は、人間の魂に入るとその霊力と癒着しようとする。
霊力が汚染させれれば霊力が循環する魂も歪み、魂が歪めば存在そのものが消滅する可能性もある。
人間は本能的に瘴気に危機感を覚え、妖怪が人間に嫌悪される理由の最たる部分でもある。
血を取り込むことによって人外化が進むのは、血には瘴気が豊富に含まれているから。
ただし、ごくまれに魂の強度が常人とは比べ物にならないほど強い人間が生まれることがあり、そうした人間は瘴気に耐性を持つため妖怪を恐れない。
なお、雫の毒気は『龍の血』によって瘴気がさらに変質したものであり、これに耐性があるのは久路人のみである。




