表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話  作者: 二本角
第四章 白流怪奇譚
59/74

白流怪奇譚6

生存報告も兼ねて投稿。

ちょっと半端なところで終わりますがご勘弁を・・・

「はぁ・・・俺たち、なんでここに入ったんだっけ?」

「女の子にモテたいから・・・ここは女の子多いし。それが叶わくても、出会いだけでも欲しかったから」

「だよなぁ・・・なあ、そう考えると俺たちの目的って」

「言うな。俺だって薄々自覚してるんだから」


 白流市に建つとある大学の部室棟にて、二人の男がため息を吐いていた。

 二人の周りは陰鬱とした雰囲気で、キノコでも生えそうなほどだ。

 そのじっとりとした空気を感じ取れば、大抵の者はその場を離れたくなるほどの。

 しかし・・・


「部長、その服どこで買ったんですか?すごく部長にしっくりきてる感じですよ!!」

「ん?ああ、適当に安い服をネットで探してたら見つけたんだ。特にこだわりがあるわけじゃないよ」

「部長部長!!今度の土曜日に一緒にケーキバイキング行きませんか?最近キャンペーンやってるみたいなんです!!」

「済まないが行けないな。気持ちだけ受け取っておこう。その日はまたこの辺りを探してみようと思っていてね・・・」

「え~!!またUMA探しですか?もうあの噂から結構経ってますし、どこかに逃げちゃったんじゃないですか?」

「確かに例のUMAはいなくなったのかもしれん!!だが、この街には今様々な噂が溢れている!!もしかしたら、まったく新しい未知と出会えるかもしれないじゃないか!!そう考えたら、居ても立っても居られなくてね・・・」

「ちぇ~、せっかく一緒に買い物行けると思ったのに・・・」

「あんたにばっか抜け駆けはさせないわよ。部長とは今度、あたしが撮影に付き合う予定なんだから」

「あ~!!ずるい!!私も行きたい!!」

「ん?なんだ、君も行きたいのかい?ならば来るといい。他にもあと3人ほど来る予定だからな。あと一人増えたところで変わりはないさ」

「行く!!行きます行きます!!そんなチャンス逃せないって!!」

「え~!!あんたも来るの?これ以上ライバル増えて欲しくないんだけど・・・」


 まるで二人がまったく視界に入っていないかのように、二人のすぐ前で、数名の女子と一人の男が和気あいあいと話し込んでいた。

 その雰囲気はまるで太陽に照らされたビーチのよう。

 ジメジメとした日陰のナメクジには到底入っていけないフィールドが構築されていた。


「くそっ・・・女子がたくさんいるって噂だから入ったけど、全員部長狙いとか聞いてないぜ」

「合コンも、結局部長の独壇場だったからね・・・っていうか、あの時俺らって誰かと話したっけ?」

「お前、さすがの俺たちでも一言くらいは挨拶しただろ・・・したよな?少なくとも、部長とは話した記憶あるぞ」

「合コン言って男と話した記憶しかないって時点で失敗確定じゃんか・・・」


 『はぁ・・・』と、二人そろってため息を吐く。

 ・・・彼らは毛部 忠人(もうぶ ただひと)野間瑠 波雄(のまる なみお)

 久路人が高校生の時に知り合った友人であり、なぜか他人から異様なまでに認識されずらいという特技?を持っている。久路人と仲良くなったのも、気配に鋭い久路人が二人のことをしっかり察知することができたからで、今現在周りの女子たちが二人に気付いていないのもその特技によるものだ。

 そして、そんな彼らがなぜこんな状況にいるかと言えば・・・


「その話にしたって、俺たちが偶々映った動画を心霊動画と勘違いしてたってことだったしな」

「『まさか幽霊が大学生として人間社会に溶け込んでいるとは思わなかったぞ!!ぜひ出演を!!・・・って、幽霊じゃないのかい?』って言われた時は流石にショックだったよ・・・」

「今思えば、あの合コンって餌だったんだろうな・・・俺らを確実に来させるための。考えたのは周りのヤツだと思うけどさ」

「だよね・・・」


 この二人、実は人間だったころの久路人に匹敵するくらいの身体能力を持っているのだが、かつてはその能力を生かしてパルクールで派手なパフォーマンスをして目立とうと思っていたことがあった。

 しかし、まるで呪いのような影の薄さはそれでも払拭できず、一時期は『高速で街の中を動き回る何かがいる』と噂になるのが関の山だった。

 そして、その噂に引き付けられた映画研究部の部長が撮影していた映像に二人が写り込み、その画像から特定され、勧誘を受けたという訳である。

 『女の子がたくさん所属している』という噂に釣られて入部してみたら、実は変人だがイケメンの部長のハーレムだったというオチが付いてしまったが。


「あ、すまない君たち。俺はこれから日課の散策があるんだ。今日はこれで失礼するよ」

「あ!!だったらあたしも行きます!!」

「わ、私も!!」

「ウチも!!ちょうど身体動かしたかったんだ~」

「まあ別に構わないが・・・ああ、そうだ」


 二人が『どうしてこうなった』と嘆いている内に陽キャたちのお喋りは進んでいた。

 この部長は未知なるものを探し、映像に収めることを生きがいとしているらしいのだが、昔から様々な噂があり、最近ではさらに多くの怪奇現象が起きるこの街で探検をするのが日課なのだという。

 今日も今日とてその日課に赴こうとしているところで、そんな彼に周りの取り巻きが付いていきたがるのはいつものことだった。


「君たちはどうする?来るかい?」

「えっ?」

「お、俺たちですか?」


 そして、部長はジメッとした雰囲気を纏っていた二人にも声をかけてきた。


(部長って、無自覚にモテて女侍らしてるし、変人だし、たまに暴走するけど嫌な人じゃないんだよね・・・)

(そこがなんというか、ここを離れにくいっていうか・・・俺たちにも気づいてくれるし)


 この部長、色々とおかしい所がある人物なのだが、気取った性格でもなく、大抵の人間に分け隔てなく接することができる。

 動画や写真の撮影のために常に目を光らせているせいか、久路人ほどではないが影の薄い二人にも気づいてくれる稀有な人間だ。

 なんだかんだ言って二人もこの部長のことは気に入っているのだが・・・


「「「・・・・・」」」」

((ヒィッ!?))


 部長の後ろから、刺すような視線が飛んでくる。


(((お前らが来ると邪魔!!)))

((なんでこんな時には俺らに気付くんだよ!!っていうか、俺らが付いて行ってもあんたら気付かないだろ!!))


 普段は自分たちのことなど視界に入っても認識できない癖に、部長に誘われた時には取り巻きから牽制が来るのだ。

 最初は女子目当てで入った二人であったが、今では男の部長の方が癒しになっているくらいには、脈なしであった。


「い、いや、俺らはいいですよ」

「は、はい。俺ら、課題やんなきゃいけないんで・・・」

「そうか・・・なら、次に来たいと思ったときには声をかけてくれ。いつもタイミングが合わなくて、悪いね」


 二人に軽く謝罪をすると、部長とその取り巻きは部室を去っていった。


「「はぁ・・・」」


 野郎二人だけになった部屋で、二人は気だるげにため息を吐いた。


「俺ら、いつまでこんな感じなんだろうな・・・」

「言わないでよ。そんなの俺にだってわかんないし・・・」

「「はぁ・・・」」


 再びため息。

 ここしばらく、二人はずっとこのような感じだった。

 女子に釣られて入ってきてみれば、自分たちは眼中になし。

 さりとて出ていくのはそれはそれで勿体ないような気もするし、自分たちを見つけて興味を持ってくれている部長に悪いような気だってする。

 どうにも出口が見えず、二人の気分は底辺を這っていた。

 そんな時だった。



--カタン



「ん?」

「あれ?なんか動いた?」


 不意に物音が部室の中に響いた。

 その音は、二人で沈んでいた部屋の中では意外なほどに大きく、二人はつい音の鳴った方に目を向ける。

 そこは映画研究部の備品が収まった棚であり、今では部長が方々から集めた珍品が所狭しと並んでいる。

 その辺りのどこかで、何かが落ちたような音が聞こえた。


「この辺からしたよね?」

「何が落ちたんだ?・・・これか?」


 棚の近くまで寄って見てみると、棚の中で古めかしい薄い桐の箱が横倒しになっていた。

 元々不安定な場所に積まれていたのが、今になってバランスが崩れて倒れてしまったのだろう。

 倒れた衝撃のせいか、箱の蓋が開いて中身がはっきりと見えていた。


「なにこれ?お面?」

「うわっ、不気味なお面だな・・・でも、なんか見たことあるような」

「金剛力士像じゃない?中学の頃歴史の教科書で見たやつ」

「あ~、それだ」


 箱からこぼれそうになっていたのは、2枚の仮面だった。

 一枚は厳めしい顔の男が口を開けて怒りを露にしたような表情で、もう一枚は同じような顔の男が口を閉じて怒りを押し殺したような形相をしている。

 ただのお面だというのに凄まじい迫力であり、思わず触れるのをためらってしまうほどだ。


「でも、このまま放っておくのもな・・・」

「だよね。箱から転がって割れたら嫌だし」


 あまりいじりたくないモノではあるが、それでも放置するのは気が引ける。

 そう思った二人は、箱を取り出して近くの机に置き、仮面をきちんと箱に仕舞うことにした。


「なんで部長はこんなもの持ってるんだろうな?」

「さあ?なんか不思議なモノを見るのが生きがいとか言ってるし、これもそんな感じのアイテムなんじゃない?」


 そうして二人は蓋を開け、位置がズレてしまっている仮面を元に戻そうと仮面に手を触れ・・・



--汝らが秘めたる怒り、我らに捧げよ



「え?」

「野間瑠?」


 口を閉じた面に野間瑠が触れた瞬間、そんな声がどこからか聞こえた。

 辺りを見回してみるが、自分たち以外に人影はない。

 毛部が怪訝な顔で野間瑠を見ているだけだ。


「どうした?」

「いや、なんか声が聞こえなかった?」

「声?全然?」

「そ、そう?」


 毛部に聞いてみても、彼はそんなものは聞こえていないという。

 野間瑠に不思議そうな視線を向けながらも、毛部も仮面に手を伸ばす。


「変なこと言ってないで、さっさと戻そうぜ。もし部長たちが帰ってきたら変な誤解を・・・」



--汝らが怒り、我らが晴らそう



「は?」

「毛部君?」


 今度は、毛部の頭の中に声が響いた。


「お、おい、今声が・・・」

「毛部君にも聞こえたの?でも、そっちの声は聞こえなかったけど・・・」


 仮面を手に持ったまま、二人は顔を見合わせた。

 その顔には汗が滲んでおり、顔色も悪い。

 二人には、部屋の中の空気が一気に冷え込んだように感じられた。


「は、早く片付けようぜ!!」

「う、うん!!」


 『何かがおかしい』。

 二人の本能が警鐘を鳴らしていた。

 一刻も早くその場を離れるべきだと。

 その警告に従うように、二人は仮面を箱の中に戻そうとした。


「え?て、手が離れない?」

「う、嘘だろ!?」


 だが、二人の手は仮面を離すことができなかった。

 否、仮面が二人の手から離れようとしていないかのようだった。

 腕を振って、果ては壁に叩きつけても、仮面は手から離れない。

 それどころか・・・


「か、身体が勝手に・・・!?」

「ど、どうなってんだよ!?」


 二人の腕が、その意思に反して動いていた。

 手に持った仮面が、ゆっくりと顔に近づいて来る。


「や、やめろ!!」

「なんだよこれ!?なんなんだよ!?」


 自分の理解を超えた現象に、二人は顔を恐怖に染めて叫ぶが、体の動きは止まらない。

 ついには、その場から動こうとする脚すら立ち止まってしまい、ただ腕だけが別の生き物のように持ち上がって来る。

 そして・・・


「「う゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!?」」


 部室の中に、二人の叫びがこだました。



-----


「ありゃあ、ヤバい奴らッス!!跳ねただけで、空にいるオイラのとこまで手が届きそうで怖かったッス!!でも、瘴気は感じなかったッス!!」

「仮面を被った男二人なのデスが、叫びながら追いかけてキテ・・・それがまた速いのナンノ。追いつかれたら何をされるか考えるのも恐ろしいのデス・・・デスから、申し訳ありまセンが追跡はできませんデシタ」

「あっしも川の中から見ただけですが、とんでもねぇ身のこなしでやした。ぱっと見は人間に見えたんですが、ありゃあ、力は人外に両足突っ込んでますぜ・・・」


 白流市の住宅街にある公園の、川の畔に設けられたベンチの前。

 人型にして錫杖を持たせたような烏と、尻尾が二股になった二足歩行の猫、そして緑色の肌に頭に皿を乗せた生き物が興奮冷めやらぬといった風に、そう報告してきた。


「そうか・・・ありがとう。山坊(やまぼう)、ミィ、三郎」


 沈む夕陽に照らされる三匹に、僕は労いの言葉をかける。


「そ、そんな、礼なんて受け取れないッスよ、兄貴!!」

「その通りデス、ミスター久路人。ミーたちは結局あの男たちの根城を掴めなかったのデスから・・・」

「旦那、それに奥方様、申し開きのしようもありやせん。白流警備隊の名折れでさぁ」


 しかし、三匹は恐縮したように頭を下げる。

 だが、僕としては相手の情報が少しでも手に入った時点でありがたいのだが、この3匹にとっては不甲斐ない結果のようだ。


「久路人がいいと言っておるのだ。そんなにへりくだるな。それは久路人の厚意を無下にするのと変わらんぞ?」

「あ、姉御、ですが・・」

「ミセス水無月、ミーたちは・・・」

「奥方様、やはりあっしたちも、もう少しお役に・・・」

「充分役に立ってるよ。僕にとって一番嫌なのは、君たちがやられて相手の情報が分からないことと、これからこの街を守るための手が足りなくなることなんだから。気持ちはありがたいけど、そこは分かって欲しいかな」

「己の力量を悔やむのはいいが、ここでクヨクヨしているくらいなら、訓練の一つでもしていた方がよほどいいぞ。お前たちはまだまだ未熟もいいところだが、それだけ伸びしろがあるということでもある。まずは命を守れ。力を付けるのはそれからだ」

「「「・・・はいっ!!!」」」


 そんな彼らも、僕と雫が言葉をかけると落ち着いていった。

 だが、その眼はさきほどの悲嘆にくれたものではなく、メラメラと燃えるような熱い闘志が感じられる。


「じゃあ、白流警備隊、解散っ!!何かあれば、術具で報告するようにっ!!くれぐれも、命を無駄にしないこと!!」

「「「はっ!!!」」」


 そうして、僕が号令をかけると、首に下げた黒い鎖を揺らしながらそれぞれ散っていった。

 山坊は空へはばたき、ミィは道路を駆けていき、三郎は川の中に潜っていく。


「あいつらも、大分様になって来たね」

「うん。白流警備隊・・・最初はちょっとした仕事をあげるだけのつもりだったけど、いい感じだよ」


 去っていった三匹を見送りながら、僕と雫は呟いた。


 『白流警備隊』

 それは、常世から逃げてきたり、現世で妖怪になったばかりの力の弱い個体で結成された白流市の哨戒部隊だ。

 これは三郎の件があった後に、彼が現世で生きていくための仕事を考えている時に思いついたもので、水中での機動力に優れる三郎に街を流れる川を使って僕らのパトロール範囲をカバーしてもらうことにしたのだ。

 だが、当初は僕らがパトロールをしていない間も警戒をしてくれるようにするのが目的だったのだが、弱い妖怪は彼らどうしで繋がりを作りやすいらしく、いつの間にか白流市に入り込んできた力の弱い妖怪による一大ネットワークが出来上がっていた。

 そこから入手できる情報は玉石混交であるが、常世からいつどんな妖怪が入ってきたか、どんな奴は暴れているのか分かるのはありがたい。加えて常世から来たばかりの妖怪は混乱しているモノも多く、そこに力の強い僕らがいくと怯えて逃げてしまったり、パニックを起こしてしまうこともあるのだが、彼らならばそんな心配もない。

 僕らの、そしておじさんたちの予想よりも優秀な受け皿として、彼らは機能していた。

 そして、学会の面々も彼らには興味を持っているらしく、彼らが現世で生きていくための物資やら何やらはおじさんを介して学会が支給してくれている。


「陸海空、全域カバーできるのは本当に便利だしね」

「街の入り組んだ路地とか、狭い隙間とかもあいつらなら詳しく知ってるもんね」


 妖怪には様々な種類があり、住む場所も多様。

 それ故に、白流警備隊は街のあらゆる場所を見回ることができるのだ。

 さっきの山坊は常世から勢力争いに負けて逃げてきた烏天狗であり、街を空から見回す空挺部隊の代表。

 ミィは最近猫又になった元飼い猫で、住宅街の隙間を熟知した隠密部隊隊長。

 三郎は一番の古株にして、川や池の多いこの街の水中に目を光らせる潜水部隊隊長だ。

 ちなみに、警備隊に所属する妖怪は僕が作った黒鉄の鎖を身に着けており、鎖には簡易的な通信の術式を刻んである。隊長の鎖には装飾も付けるようにしており、今ではこの街の妖怪の間で立派な鎖を付けるのはステータスなのだとか。


「ともかく、彼らのおかげで推測はできるようになった。『夜中に街の中を大声で叫びながら踊る影』・・・通称ナイト・シャドウズ。正体は多分人間だ。それも、すごい高レベルの身体強化系の術が使えるのが二人」


 僕と雫はベンチに腰かけたまま顔を突き合わせ、話を聞いて分かったことを整理する。


「ナイト・シャドウズねぇ・・・なんかダサい名前」


 雫は、中学二年生の男子を見る同学年の女子のような顔でそう言った。

 なんとも微妙な表情で、『あんまり関わりたくないなぁ』と書いてあるようだった。


「まあまあ。確かに名前はアレだけど、妖怪たちにはかなり恐れられているみたいだよ?」


 ナイト・シャドウズ

 それはこの街の妖怪たちの間で囁かれるようになった新しい噂だ。

 さっき隊長三匹をこの場に呼んだのも、この噂について詳しく知るためである。

 僕も警備隊の面々に通信で聞いたばかりなのだが・・・彼ら曰く。


『夜に街を歩いていると、どこからか高笑いが聞こえてくる』

『不気味に思って逃げ出そうとしても、もう遅い』

『声が聞こえた次の瞬間には、ものすごい速さでやって来る』

『目の前で不可思議な踊りを舞いながら、奴らは問いかけてくる』

 

 そこで、僕は一呼吸おいて・・・


「『俺たちの名前をしっているか?』ってね」

「・・・・・」


 僕の語りを、雫はゴクリと唾をのみながら聞いていた。

 さっきまであまりやる気の見えない顔つきであったが、話が進むにつれて雫に緊張が走っていく。

 僕の口調が上手いのか、それとも雫が聞き上手なのか、段々とその場の空気が冷えて重くなってくるようにも感じられた。

 そして、雫は意を決したように聞いて来る。

 

「もし、答えられなかったら?」

「その時は・・・」


 そんな雫に、僕は続きを語る。

 雫は顔を引き締め、どんな凄惨な内容でも受け止めると言わんばかりの表情で僕を見ていて・・・


「気絶させられた後に顔中に『ナイト・シャドウズ見参!!』って落書きされて放置されるらしい」

「・・・・は?」


 それまでの張り詰めていた雰囲気が、一気に白けた。


「これまでに警備隊の中で奴らの餌食になったのは10匹以上・・・犠牲者たちは本当はもっと早く報告したかったらしいんだけど、恥ずかしくて中々言い出せなかったみたいなんだ。それで、今も刻一刻と被害が広がってるところで」

「いや、無駄にシリアスな空気にしようとしなくていいから。もう無理だって。っていうか、何?その地味な被害。しかもなんで妖怪しか襲われてないの?人間は?」


 とうとう雫からツッコミが入った。

 なんとなく面白かったのでホラー映画風に説明していた僕だったが、そこでやめることにする。


「コホンっ・・・広報でも不審者が出たなんて話は聞いてないし、夜中にパトカーも走ってないから、人間を襲わないのは確かだと思うよ。妖怪しか被害に遭ってない理由は、正直分からないけど・・・もしかしたら、僕たちみたいにパトロールをしてるのかも」

「それにしてはやることが地味すぎでしょ。会った妖怪を殺すのならまだわかるけど顔に落書きって」


 僕は自分でも苦しいと思うような推測をしてみるが、雫にばっさりと斬られた。

 まあ無理もない。

 どんな理由でそんなことをしているのかは知らないが、あまりにもやっていることがショボすぎる。


「っていうか、どうして急にそんな人間が出てきたんだろう?比呂実たちみたいに、外から来た天然の霊能者?」

「それか、最近結界が不安定なせいで、この街で新しく目覚めた人かもしれないね。霊能力の抑制も機能してないみたいだし・・・まあ、どんな人にしたって今日の内に分かると思うよ」

「・・・!!」


 そこで、僕はベンチから立ち上がって黒いマントを羽織った。

 一拍遅れて、気の抜けた雫も表情を一気に険しくすると、立ち上がって水鉄砲を取り出す。


「もう、すぐ近くにいるみたいだから」


 僕たちが話していたのは、住宅街の中にある自然公園。

 警備隊の面々が集まるのに都合がいいというのもあったが、一番の理由は、そここそが奴らの出現ポイントの一つだったからだ。

 僕らの耳と霊力知覚に、こちらに向かって高速で移動してくる気配が引っかかる。

 

「何?この気配・・・そこそこ強そうなのに、ものすごい感じ取りにくい」


 身構える雫であるが、その声はさっきと打って変わって強い警戒心が滲んでいた。

 そしてそれは、僕も同じだ。

 

(雫の言う通りだ。気配を殺すのが上手い。まるで暗殺者みたいだ・・・)


 自分でもいうのもなんだが、僕は気配を察知するのが得意だ。

 霊力の探知は霊力の制御と関りがあって、雫よりも僕の方が霊力を感じ取るセンスは優れており、雫より先に気付けたのもそのおかげだ。

 だが、そんな僕にも今近づいて来る連中を捕捉するのにかなり時間がかかった。

 どれほど綺麗な身のこなしをしているのか、足音は針を落とした程度にしか聞こえず、霊力の扱いもうまいのか、無駄に放出している力がほとんどない。

 間違いなく、相当な手練れである。


(ショボいことしかしていなくても、気の抜ける相手じゃない。そして、どんな相手であろうと雫に何かするつもりなら・・・)


 僕は、刀を作り出して正眼に構える。


(久路人に少しでも妙な真似をするようなら・・・)


 僕の隣で、雫も静かに霊力を高めている。

 辺りには黒い砂嵐と白い粉雪が舞い始めているが、それは僕らの闘気の象徴だ。


((容赦はしない!!))


 気配がする方向に向かって武器を向けつつ、殺気すら迸らせる僕たちの目の前で、暗い木々が揺れる。

 一瞬ののち、黒い影が二つ、忍者の投擲した刃のような勢いで飛び出してきて・・・


「「ウェェェェェェエエイィィィイイイイ!!!」」

「え・・・?」

「は・・・?」


 茫然とする僕らの前で、二つの影が奇声を上げながらキレキレの動きで片手を顔にかざし、もう片方の手を腰をかき抱くように回した香ばしいポーズを決める。

 二人の動きはまるで鏡合わせのように左右対称で、背中合わせになりながらも、その顔はキッチリと僕らの方に向けていた。

 だが、その顔には・・・


「何あれ・・・?」

「金剛力士像?いや、っていうか・・・」


 なぜか、金剛力士像の顔をそのまま貼り付けたような仮面が嵌っていたが。

 だが、それよりも僕には気にかかることがあった。


「闇に輝く二つ星!!見上げて流れるほうき星!!」


 顔に金剛力士像(阿形)の面を付けた男が唐突に、腰に当てていた指をビシッと空に向けて叫ぶ。


「駆けるぜ一瞬!!逃すな青春!!」


 同じく金剛力士像(吽形)の顔を貼りつけた男が、ピッと素早い動きで顔に片手を当てたままこちらを指差す。


「俺を見ろ!コイツを見ろ!見逃せるならやってみろ!」

「来たぜ何しに?刻むぜ記憶に!俺らの名前を魂に!」


 忙しなく、それでいて見せつけるようにどうにもビシッとした動きで、彼らはお互いを指刺し、僕らをその厳つい仮面ごしに見つめてくる。


「聞いて驚け!!見てビビレ!!三回回ってワンと鳴け!!」

「晴らすぜイライラ!!かますぜ鬱憤!!教えてやるぜ、俺らの怒り!!」


 『それどこで買ったの?』と聞きたくなるような、妙にボロボロな黒い革ジャンがはためき、ダメージジーンズに包まれた足は残像が見えるほどのスピードでステップを刻んでいた。


「・・・うわぁ」


 僕の隣で、雫がうめき声にも似た声を出しながら一歩後ずさる。


(雫がツッコミを放棄するなんて・・・)


 何気にツッコミ気質な雫をドン引きさせて何も言わせないなど、早々できることではない。

 僕は違う意味で彼ら二人のことを上方修正する。

 そんな僕らの様子に気付いているのかいないのか、やたらとキレキレの二人は今も絶賛ダンス中だ。


「「俺ら夜型!!俺ら花形!!今宵の主役は俺たちだ!!そうさ、俺らは・・・」」


 二人の指先が、コンマ一秒の違いもなく同時に僕らを指差して・・・


「「俺たち二人がナイト・シャドウズ!!二人そろってナイト・シャドウズ!!イェェェェエエエエエエエエエっ!!!!」」


 最後にクルクルと高速で回転しながら天を指して、二人は高らかに自己紹介をする。

 そんな二人に、僕は言う。


「何やってんの、毛部君に野間瑠君」



-----


「「な・・・!!」」


 僕の目の前で、金剛力士像が二人固まってる。

 仮面を被っているのに自分の正体を見破られたことが衝撃だったのだろうか。


「え。久路人、あいつらって、あのモブっぽい二人なの?」


 雫は雫で、向こうの正体に気付かなかったのか、こちらも驚いてはいるようだ。


「見覚えのある綺麗な身のこなしに、聞き覚えのある声と息の合ったコンビネーション。なにより、僕でもちょっと注意しなきゃ見逃しちゃいそうなくらいの存在感・・・これであの二人じゃないなら、世界は広いんだなって思うよ」


 声を聞いた時にまず違和感を覚え、目の前に現れた時の存在感の薄さで僕はほぼ確信した。

 だが気になるのは、どうして異能の力に関係のなかったあの二人がこんな妙な事態を引き起こしたのかということだが・・・

 それを問いかける前に、向こうから反応があった。


「い、否!!否だ否!!断じて否!!」

「我らはナイト・シャドウズ!!俺がTADAHITOで、こっちはNAMIOだ!!断じて毛部や野間瑠ではない!!」

「いや、それ二人の下の名前じゃん」

「あの二人、下の名前はそんなんだったんだ」


 何やら二人が慌てて自分たちはナイト・シャドウズだと言っているが、口から出ているのは二人の下の名前である。


「くっ!!おいTADAHITO!!やるぞ!!こちらが名前を問う前にフライングなど、様式美というものが分かっていないヤツにはお仕置きだ!!」

「ああ、わかったNAMIO!!しかもソイツは我々をトンチンカンな別人だと勘違いしている!!我らの存在をガン無視したかのようなその振る舞い!!断じて許せん!!」

「我らの名を、その身に刻んでやろう!!」

「なんか結構好戦的だな・・・そこはあの二人らしくないや」

「久路人、どうする?」

「「っ!?」」


 どこからかマジックペンを取り出してナイフのように構える二人を見ながら、雫が冷気を纏う。

 それまでとは比較にならないほどの瘴気に、二人は身をすくませているが、退く気はないらしい。

 初めて雫の毒に触れたというのに戦意を絶やさないとは、かなりのものだ。もしかしたらあの妙な仮面にそういった効果があるのかもしれない。


「うーん・・・」


 少しだけ悩む。

 霊能者として見て、あの二人はお見合い会場にいた久雷の取り巻き程度の力量。あれであいつらは月宮の精鋭だったようだし、それと同等ということはそれなりに強いということだ。万全を期すなら二人で戦ったほうがいいだろうが・・・


「雫は手を出さないで。多分、こういうのは僕の方が向いてる」

「うん、わかった」


 相手は人間だ。雫では手を抜いても何かのはずみで殺しかねない。ならば、僕だけの方がいいだろう。

 雫も答えを予想していたのか、すんなりと戦意を抑えて後ろに下がる。

 もしかしたら、雫なりに僕とあの二人に気を遣ったのかもしれない。

 

「さっきから何を二人で仲良さげに話している!!」

「彼女いたのか月宮君!!この裏切者!!いや、好きな子がいたのは知っていたけど!!」

「僕のこと知ってるんなら、やっぱり毛部君と野間瑠君の二人で確定じゃん・・・その話したの君たちだけだし」

「黙れぇっ!!彼女持ちの君に、合コンで男と話したことしか記憶にない俺らの悲しみの何が分かる!!」

「普段は女子から見てもらえないのに、邪険にされる時だけ認識される辛さ、たっぷり教え込んでくれる!!」


 雫と話していたことが、何やら逆鱗に触れたらしい。

 僕としては普通のやり取りだったのだが、二人はえらくご立腹だ。

 雫が瘴気を消したことで、プレッシャーがなくなったこともあるのだろう。二人は言葉の端々にジメッとした闇が感じられる台詞を吐きながら、僕の方に駆けだしてきた。


(速い・・・)


 向かってくる二人を見て、僕は素直にそう思った。

 大声で会話するような間合いを、二人はたった一回の踏み込みで縮め、一瞬で僕の目の前に現れていた。

 まだ人間だったころの僕が『雷起』で強化した状態に匹敵するかもしれない。

 だが、予想通り術による遠距離攻撃は持っていないようだ。


「くらえぇぇえええ!!」


 二人同時に突っ込んできたが、ほんのわずかに速度に差をつけていたのか、最初に僕に攻撃してきたのは毛部君だった。

 手にしたマジックを鋭く振って、僕めがけて突きを撃ちだしてくる。

 仮面と違って持っているのはただのマジックのようだが、それでも軽く僕らの間を舞っていた木の葉がスッパリと切れるほどの速さで突き出されれば、今の僕でも痛みを感じるくらいはするかもしれない。

 白流警備隊の妖怪が、あっという間に気絶させられたのも頷ける。


「よっと」

「くっ!?」


 まあ、むざむざと当たってあげるつもりはない。

 僕の正面からほんのわずか右から来た攻撃を、僕は左に動くことで避ける。

 これまでこの攻撃を避けられたことがなかったのか、毛部君は驚いたような顔をする。


「だがっ!!」


 しかし、その眼には『かかった!!』とでも言いたげな光が宿っていた。


「もらったぁぁああ!!」

(息が合ってる。すごいコンビネーションだ)

 

 避けられたことはなくとも、避けられる可能性は考えていたのだろう。

 わずかに遅く走ることで毛部君の邪魔になるのを避けていた野間瑠君が、左に避けた僕を待ち構えるように迫っていた。

 毛部君の背中に半身を隠すように走っていたのか、存在感のなさと相まって、まるで瞬間移動でもしたのかと思えるほどにその動きは洗練されていた。打ち合わせはしていたのかもしれないが、ここまでピッタリと合わせて行動できるのはこの二人ならではだ。

 そうして、野間瑠君の持つマジックが僕の顎をめがけて突き出され・・・


「捕まえたよ、二人とも」

「「な!?」」


 僕は、二人の手首をがっしりと掴んでいた。

 野間瑠君の攻撃を避けながらその手首を掴み、ついでに近くにいた毛部君も僕の手が届く範囲にいたので捕まえる。


「まさか二人にこんなに霊能者の才能があるなんて思わなかった・・・」


 確かに二人は速かった。

 確かに二人の息は合っていた。

 彼らの持っていた武器が霊力の籠ったナイフであれば、中規模の穴から出てきた妖怪でもあっさりと倒せたに違いない。


「けどね・・・」


 だが、二人が相手をしているのは、この僕なのだ。

 幼いころから妖怪と戦うべく鍛え上げ、ついこの間とはいえ人間を止めたこの僕だ。

 ちょっとくらい速かろうが、連携が上手かろうが、そんな動きも余裕で目で追える。

 そして、そんな僕相手に接近戦を挑んだのだ。


「さすがに素人には負けられないんだ」

「「んぉおおおおおおおっ!?」」


 掴んだ手から、死なない程度に電流を流す。

 この二人はそこそこの霊力を持っているようなので、多少コントロールがブレても大事にはならない。

 雫の瘴気にもほんのわずかとはいえ抵抗してみせた仮面もつけていることだし、まず問題にはならないという確信があった。

 そして・・・


「「む、無念・・・」」


 シュゥゥウウと煙を立てながら、二人は前のめりに地面に倒れたのだった。


四章に入ってからあんまり反応がないので、感想プリーズ!!


後、ここから設定をちょこちょこ後書きに書いてこうと思います!!




設定


霊能者の覚醒


人間はだれしも霊力を持っているが、妖怪を認識できるレベルの者を区別して霊能者、異能者と呼ぶ。

霊能者には久路人のように先天的に霊力の生成量が多い者と、瘴気を受けて魂が変質することで霊力生成量が増える者がいる。

後者については何らかの尖った才能があるものほど覚醒しやすく、その才能に関わりのある術が使えるようになる者もいる。

毛部君と野間瑠君も後天的に覚醒したタイプであり、気配隠ぺいと身体強化の術をかなり高レベルで無意識に使用している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ