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白蛇病恋譚~拾った妖怪に惚れて人間やめた話  作者: 二本角
第三.五章 拾った妖怪に惚れて人間やめた日
46/74

初デート 前編

はい、無能作者です。

デートが一回で終わりませんでした!!

 月宮家の自室。

 時刻は8時を少し回ったころだ。

 今日は休日なので、いつもならもう少し遅くまでゴロゴロとしているのだが、今日だけは違った。


「よし・・・!!」


 僕は鏡を見ながら、口に出して確認する。

 そこに映っているのは、いつもの自分と同じ顔。

 けれども、いつもよりもずっとキリリと気合が入ってると自分でも思った。


「寝ぐせはなし、顔に何か付いてるとかもない。服もシワとかないし、襟もしっかりしてる・・・」


 確認する。チェックする。評価する。

 自分の姿のすべてを。

 これから行くのは、僕にとって、一世一代の舞台だ。

 自分の恰好におかしなところがないか、いくら確認してもしすぎるということはない。

 この確認ももう3回目だが、これで問題ないはずである。


「行くか」


 機は熟した。

 僕は昨日服と一緒に買ったボディバッグを背負って、部屋を出て・・・


「・・・・・」


 目を閉じる。

 部屋を出て、僕はまず最初に全力で聴覚に感覚を集中させ・・・


「・・・いないね」


 廊下を歩く音がしないのに、僕は一安心した。

 こんなところでいきなりエンカウントなど、ムードも何もない。

 ホゥとため息を吐いて、そのままゆっくりと静かに歩き、階段を下りていく。


「おっ、おはようさん。休みのお前にしちゃ、かなり早いな」

「うん、おはよう・・・今日は特別な日だからね。それと、昨日はありがとう」


 居間に着くと、おじさんがコーヒーを片手に新聞を読んでいた。

 そんなおじさんに、僕はお礼を言う。

 昨日の夜、というか日付的には今日までずっと『あるもの』を作る手伝いをお願いしたのだ。


「気にすんな。実際に手を動かしたのはほとんどお前だけだったからな」

「それでもだよ。遅くまで付き合わせちゃったし」

「あのくらいまで起きてるなんざ、俺にとっちゃいつものことだ・・・というか、お前こそ大丈夫かよ?ただでさえ朝弱いのに」

「大丈夫。部屋に戻った後で首に手刀打って落としたから。アラームも10個同時に鳴るようにセットしたし」

「・・・まあ、お前がそれでいいなら別にいいけどな」


 自慢でないが、僕は朝が弱い。

 しかし、今日という日だけは絶対に朝寝坊は許されなかったのだ。

 なので、昨日はすぐに意識を強制的にシャットダウンさせ、朝に起きられるように鼓膜が破れるんじゃないかというレベルの音量になるようにアラームをセットしていたのだ。

 僕の部屋は防音もしっかりしているので、外に漏れることもないというのは昔から知っていたことである。


「それじゃあ、僕は先に待ってるから、もう出るよ」

「おう・・・ああ、そうだ」

「何?」


 昨日買っておいたパンを片手に居間を出ようとする僕を、おじさんは引き止めた。


「今日なんだが、俺とメア、あと朧たちも隣街に行く用事ができたから、帰ってこねぇぞ」

「え?そうなの?」

「ああ。お前らが暴れた後の後始末だけどな」

「う・・・ご、ごめんなさい」

「別に結界の補修ぐらい大したことじゃねぇよ。メインは、久雷のジジイが開いた門や、狂冥の野郎がなにかしでかしてなかったか調べることだからな・・・そういうわけで、俺ら全員今日は帰らねぇ」

「うん、わかった」

「・・・・・」


 僕らが龍となったことが原因で、現在、隣街まで展開されていた忘却界には穴が空いている。

 応急処置はおじさんたちがしてくれたらしいのだが、あの場所の調査も兼ねて、帰りは遅くなるとのことだった。

 事情も分かったので、僕が頷くと、おじさんは何か言いたげな視線を向けていたが、結局何も言わずに新聞に目を落とした。


「それじゃ」

「ああ・・・頑張れよ、久路人」


 居間を出る直前に、おじさんはそう言って僕を応援してくれた。


「・・・うん」


 返事をしつつ、僕は思う。


「今日は、人生で最高の日になるようにしないとね」


 僕は力強く、玄関に向かって歩いて行ったのだった。



-------


「・・・少し、早く起きすぎたかもな」


 月宮家の玄関の前。時刻は9時ジャスト。

 家の壁にもたれながら、持ってきたパンを食べ終えて、僕はそんな独り言を漏らした。


「スタート地点は家で、一緒に出るんだから、もう少し遅くなってもよかったよな・・・というか、デートする相手と一緒に住んでるって時点で色々事前知識とズレがあるというか」


 昨日は夕方に雫とすぐに分かれたが、ざっくりとした予定についてはJAIN(ジャイン)で教えている。

 送信するや否や、一秒以内に既読マークが付き、『わかった!!』と返ってきているので雫も今日の9時半に玄関前に来て欲しいというのは知っているはずである。

 

(本当は、街の中にある噴水前とかにしたいって気持ちもあったけど・・・)


 デートといえば、有名スポット前で待ち合わせというのは王道だろう。

 雫としても理想のシチュエーションの中にそういったものがあるとは思うが・・・


(一緒に住んでてわざわざ違うところを集合場所にするのも変だし、僕たちの性質的に、世の中何が起こるか分からないからなぁ・・・)


 修学旅行では九尾の狐に襲われ、安全なはずの結界内で吸血鬼に奇襲を受け、見合い話に乗ったら体を乗っ取られかけた上に人間やめたり天使が襲来してくるような僕らである。今更家の中以外で別行動をするなど、1分でも嫌だった。まあ、それを言ったらそもそもデートなどするなという話かもしれないが。


「なんにせよ、もう少しかかるだろうし、ちょっとの間だけでも寝ておこうかな」


 おじさんには大丈夫と言ったが、実を言うと少し眠気があった。

 まさかデートの最中に寝るわけにもいかないし、体が頑丈なおかげで、僕は立ったままでも眠ることができる。ここはほんの少しでも寝ておこうかと、壁に深く体重を預けたその時だった。



--ドゴンっ!!!



「うおっ!?」


 爆薬に火でもつけたのかと思うような音と衝撃とともに、玄関が凄まじい勢いで開いた。

 そのショックでわずかにあった眠気が吹き飛び・・・


「はぁっ、はぁっ・・・ゴメン!!久路人、待ったっ!?」

「・・・・・」



 気絶するかと思った。



「ごめんね!!私、朝かなり早く起きてから二度寝しちゃって・・・メアから久路人がもう待ってるって聞いたんだけど・・・久路人?」

「・・・・・」


 目の前に、天使がいた。

 その顔は、これまで毎日見てきたはずなのに、その恰好が普段とまるで違うために、ただでさえ綺麗な顔が言葉にできない美しさを含んで昇華されていた。

 そのあまりの美のオーラに、危うく去っていった眠気の代わりに意識を刈られるところだった。


「久路人?」

「雫・・・」


 天使の名が、こぼれるように口から出てきた。

 意識をしっかりと保ちながら、僕は改めて雫の姿を目に焼き付ける。

 その上半身は黒いブラウスの上から白黒チェックのシャツを、襟をぐっと後ろに下げて纏っている。下は薄茶のロングスカートに、白いロングソックスと黒いショートブーツ。なにより目を引くのは、頭に被ったグレーのキャスケットだった。彼女は、これまで帽子をかぶることはあまりなかったから目立って見えるのだろう。

 服は全体的に暗い色が多いのだが、それによってその抜けるような肌の白さと艶やかな銀髪の美しさがよく引き立てられていた。


「久路人?どうしたの?さっきから何も言わないけど・・・もしかして、その、怒って・・・」

「綺麗です」

「へ?」


 気が付けば、僕の口が勝手に開いていた。


「今日はものすごく綺麗に見え・・・いや、いつもスゴイ美少女だとは思ってたけど、今日はいつもよりもずっと綺麗に見える」

「・・・・!!!」


 雫は普段から美少女だ。その彫像のように美しく整った顔が、ボンッと紅く染まる。シュウシュウと白い湯気すら見えそうだった。


「それにしても・・・」


 それにしても雫とデートをしたいとは思っていたが、正直恰好は何を着ても似合うだろうから、あまり気にしていなかった。しかし、現実はどうだ。『デートのための服を着ている』というだけで、これほどの衝撃を受けるとは・・・


(いや、これまでも雫が服を変えてることはあったけど・・・その時はまだ血のことがあったから、そのせいでしっかり見れてなかったのかな)


 思い返せば、雫はちょくちょくいつもの白い着物から別の服に変えていることがあった。しかし、その時の僕は、それが偽りの感情がさせた格好だろうと思って、よく見ていなかったのだろう。


「クソッ!!あの時の僕が目の前にいたら斬り殺してやるのにっ!!雫の衣装違いバージョンをしっかり見てなかったとか、なんて勿体ないことを・・・っ!!!」

「く、久路人!!いきなり頭を壁に打ち付けてどうしたのっ!?怪我しちゃうからやめようよ!!」

「はぁっ、はぁっ・・・、ゴメン、雫があんまりにも綺麗だったから、気が動転してた」

「きれっ!?・・・そ、そういうのをストレートにいきなり言われると、私も困るっていうか、心臓が爆発しそうになるっていうか・・・え、えっと!!久路人の服もよく似合ってるよ!!にの腕がセクシーっ!!エロいっ!!細マッチョ最高!!」

「え?あ、うん。ありがとう・・・ああ、そうだ」

「?」


 これまでの度し難い愚行に、家の壁に頭を打ち付けて反省していると、雫に止められた。

 その冷たくも柔らかい感触と、薄い花の香りのような心地よい匂いで、スッと頭を落ち着く。天使に触れられているというだけで多幸感で頭がおかしくなるかもと思ったが、一周回って逆に冷静になれたらしい。

 そのおかげで、僕は大事なセリフを言い忘れていたのを思い出した。

 雫が物語のお姫様に憧れているというのなら、この台詞は定番だろう。

 

「ずいぶん慌ててたけど、大丈夫だよ・・・僕も、今来たところだったから」

「・・・うんっ!!」


 雫に手を差し出しつつそう言えば、雫は嬉しそうに僕の手を取って笑うのだった。



-------



「行ったか・・・」

「ええ」


 雫を自転車の荷台に乗せて、まるでどこかの青春映画のように華麗に二人乗りをしていく二人を見送る影があった。


「いいか、お前ら」

「「「・・・・・」」」


 カーテンが閉め切られた部屋で、一人の男が発した掛け声に、残る3人は沈黙で答えた。



--早く先に進め!!



 そう、彼らの雰囲気が物語っていた。

 それを感じ取ったのか、男はフッとニヒルに笑うと、懐からリモコンを取り出し、ポチッとボタンを押す。


「これより、久路人人外化計画、最終段階に移行する・・・デート監視ショーの始まりや」


 なぜか、最後だけ関西弁だった。



--パチパチパチパチ・・・・



 どこからともなく降りてきたモニターに、自転車で駆けていく二人が映った瞬間、部屋に静かな拍手が響き渡るのだった。

 

 

-------


「わぁ~~!!白流市にこんな場所あったんだ・・・」

「うん。僕も少し調べるまで知らなかったよ」


 僕ら二人の前に、天井まで届く大きな水槽がいくつも並んでいた。

 水槽の中には様々な種類の魚たちが躍るように泳いでいる。


「これ、全部川の魚なんだねぇ」

「白流市が内陸だからね」


 僕らがいるのは、白流湧水ノ水族館。

 この白流市は名前に流れとあるように、大きな川や池がたくさんあり、小さな湖すらある。

 そのせいか、この街には市立の水族館があるのである。

 雫は水属性の霊力を宿し、水の近くでは調子が特によくなる。さらに言うと人ごみも苦手であり、遊園地やショッピングモールのような場所よりは合っていると思ったのだ。

 雫を初デートに連れて行くのならば、この街でここ以上の場所はないだろう。


「なんていうか、こうやってじっくり魚を見るって新鮮だな。昔は泳いでる時に横を通り過ぎてくことはあったけど」

「水の中で魚と泳ぐか・・・」


 僕と繋いでいる手とは逆の手のひらで水槽をペタリと触る雫を見つつ、僕は想像する。

 水の中で、雫とともに龍となって広い蒼の世界を進んでいく光景を。

 

「いつか、泳いでみたいな」

「できるよ」

「え?」

「もうすぐできるよ」


 いつの間にか、雫が水槽から視線を外して、僕の顔を見つめていた。


「だって、もうすぐ久路人は私と同じになるんだよ?だったら、水の中でも空の上でも、どこだって行けるよ。私と一緒に」

「雫・・・」


 やや薄暗い水族館の中、僕の方を向く雫はスポットライトに照らされていた。

 無数の魚たちが泳ぐ水槽を背に、光に照らされながらほほ笑む雫は神秘的で、幻想的で、まるでこの世の者ではないようで・・・


(そりゃそうか、雫は妖怪だもんね。そして、僕ももうすぐ同じ存在になる・・・それなら)

「・・・久路人?」


 名前を返すだけで、反応の薄い僕を不思議に思ったのだろう。

 雫が少し近寄って、僕の顔を覗き込んでくる。


「ねえ、雫」

「うん」


 そんな雫に、僕は一つ頼みごとをすることにした。


「雫、他の人たちにも姿を見せるようにできる?」

「え?できるけど・・・なんで?」


 雫は不思議そうな顔をしていた。

 これまでの僕は、どちらかと言えば、いや、間違いなく雫を他の誰にも見られたくないと思っていたからだ。

 しかし・・・


「今日は、僕が人間でいる時の最初のデートだからさ。ほら、今だって僕が何もない所に話しかけてるように見えてるだろうし。僕も人外になって他の人から見えなくなるならいいけど、そうじゃないなら、『変な奴』って目で見られながらデートはしたくないなって思ったんだ。普通の人間らしいデートをしてみたいかなって・・・ダメかな?」

「あ・・・ゴメンね!!私すっかり気が付かなかった!!確かに今のままじゃ久路人が不審者みたいになっちゃう!!えぇっと・・・これでいいかな?」

「うん、大丈夫だよ」


 普段、雫は腕に術具を着けており、その効果で姿が見えない影響の違和感が軽減されるようになっている。しかし、一昨日の騒ぎのせいでいつのまにか術具が壊れており、その機能が使えなくなっていたのだ。

 まあ、おじさんに頼めばすぐにでも作り直してくれただろうが・・・


(初デートは、『普通』、いや『王道』のデートの方が雫は喜びそうな気がするんだよね)


 術具で姿を誤魔化すのではなく、ありのままの二人で普通にデートをする。

 なんとなく、そっちの方がいいような気がしたのだ。


(けど、まあ・・・)


 僕らの隣を通りかかった家族連れが、雫を見て驚いたような、いや、見惚れたような顔をするのを見て思った。


(次は、僕も人外になった後は、絶対に他の人の目に触れさせないけど!!)

「久路人?本当に大丈夫?すごい怖い顔してるけど・・・」

「い、いや!!大丈夫だよ!!ははは・・・」


 自分の器の小ささに軽く自己嫌悪に浸りながらも、僕らは周りの目を引きつつ手を繋いで水族館の中を回るのだった。



-------


「おいおい、あいつ大丈夫かよ・・・」

「なんのかんの言って、これまでの久路人様は雫様が一般人から見えないことを喜んでいましたからね。大方普通のデートをしてみたいと言ったところでしょうが・・・」


 月宮家の一室で、ソファに腰掛けた男女がモニターに映る映像を見ながら口を開く。

 その声音は、思わぬ一手に出た久路人を心配するようだった。


「それ、アタシとしては悪手だと思うけど。雫からすると、久路人が無理してるように見える方があんまりよくないわ」

「・・・自分も同感です。そもそも、久路人君が水無月さんを衆目に晒したくないと思っているように、水無月さんも久路人君が一般の方々に関わるのをよく思っていないように思えます」

「お~!!お前も中々よく見てるじゃねぇか。まあ、雫のヤツは、『自分と久路人以外の人間と妖怪が滅ぼうが知ったことじゃない』みたいなこと考えてるだろうからな。自分に構う時間が減るくらいなら、関わる人間を殺し始めてもおかしくないぞ」

「・・・やはりそうでしたか。昔のリリスもそうだったので」

「あら、表に出してないだけで今もそう思ってるけど?ここ最近朧に仕事を吹っかけてきた霧間の連中が滅んで清々してるわよ、アタシ」


 色々と物騒な発言が飛び交っているが、その分析は的確であった。

 映像越しでも分かるくらい、久路人の顔が引くついている。


「でもまあ、今からはそんなに気にしなくていいんじゃない?あの子たちが通ってるルートの先に・・・」


 そうこうしている内に、久路人と雫は水族館を回り終えたらしい。

 再び自転車に乗って、街の中を移動中だ。

 なお、二人乗りは交通ルール違反なので、雫はまた見えなくなり、久路人の表情が安らいでいた。

 ともかく、二人の向かう先は・・・


「・・・デートの定番。映画館ですか」

「ああ。メアの持っていたチケットを渡してある」

「突然のことで予約が取れず、映画館はスルーする予定だったようですが、この私に死角はありません。京に仕込まれたクラッキング技術を自動人形たる私が使えば、映画館のシステムなどちょちょいのちょいです」

「普通に犯罪よね、それ。まあ、アタシでも同じ立場なら似たようなことをするけど・・・って、あら?」


 映像の中で、持っていた封筒を開けた久路人は、少し驚いたような顔をしていたのだ。

 

「そういえば、お前何のチケット渡したんだ?」

「そこは、王道を往くラブロマンスモノに決まっているでしょう?デートといえばそれが定番・・・」

「ちょっと!!なんかアニメ始まったわよ!!」

「・・・これは」


 二人並んでシートに腰掛ける久路人と雫の前で、映画館のスクリーンには額にあざのある少年の剣士が雪の中を駆けていくシーンが映っていた。


「お前、これ〇滅の刃じゃね?」

「・・・今話題の、無限列車編ですね」

「・・・・・」

「ちょっとメア!!アンタ何渡してんのよ!!これ完全にアンタの趣味でしょうが!!」

「・・・・・どうやら、最近の霊力欠乏のせいで一部機能にエラーが出ていたようです」


 様子を見るに、メアはとって来るチケットに自分の趣味が混ざってしまったらしい。


「どうすんのよ!!ムード大丈夫なの、これ!?」

「いや、待て」

「・・・落ち着け、リリス。久路人君の周りを見てみれば、カップルも多い。デートで見ても、おかしいものではないようだ」

「結果オーライですね」

「アンタはもうちょっと反省したような顔をしなさいよ!!まったく・・・」


 そうして、そのまま映画は始まった。



-------


「うう・・煉〇さん」

「私も、刀使ってみようかな・・・」


 映画館から出ると、僕は熱くなった目頭を押さえた。

 映画館の中でも何度か涙ぐんでしまったが、余韻だけで、この場でも泣いてしまいそうだった。

 おじさんから渡されたチケットの封を切って、アニメだった時には驚いたが・・・なるほど、これは薦めるのも分かる。

 見れば、雫も持っていたチュロスを振り回して素振りをしていた。

 雫が美少女であるということを差し引いても注目を浴びていたが、今の僕らにはそんなに気にならなかった。

 なぜか頭の中で、『・・・見事な散り様でした』、『くぅっ!!吾輩があの中に飛び込んでいければ!!あんな縞々にむざむざ殺させずにすんだものをっ!!』、『評判には聞いていましたが、ストーリーは勿論のこと、音響や作画もこれまでのアニメ映画と一線を画している・・・日本のアニメ史に残る名作ですね』、『ああ、今の日本で、アニメだからって軽く見ていいもんじゃねぇな。いくつもの技術の結晶だぜ、こりゃあ』と、4人の男女が今の僕らのように涙ぐんでいる様子が浮かんできたが、頭を振ってそのイメージをかき消す。

 そうだ、いつまでもここにいるわけにはいかないのだ。


「そろそろお昼だよね。雫、近くのレストランに電話して・・・」

「あ!!それなんだけど!!」


 もうすぐお昼だと思い、近くにあるレストランに空きがないか確認しようとした時、雫が僕を止めた。


「実はね、昨日、久路人が寝た後なんだけど・・・」

「!!」


 僕は思わずビクッと震えた。


(まさか・・・バレた?)


 昨日の夕方以降、僕はずっとおじさんに見てもらいながら作業をしていたのだが、雫には『寝ている』と言っていた。もしや、それがバレたのではないかと、ばつの悪い顔をしていると・・・


「実はね!!お弁当作ってきたの!!」

「え?」


 そう言うと、雫は今まで背負っていたリュックを開けて、中身を僕に見せてきた。

 その中には、確かに大きめの弁当箱が二つ積み重なっている。


「だから、お昼はお店じゃなくて、こっちを食べて欲しいかなって・・・」

「それは、むしろ嬉しいけど・・・朝に二度寝したって言っていたのは、お弁当作ってたからか」

「その・・・うん」


 僕としては、こっそりと温めている企みがバレていなくてホッとした気分だ。

 いや、他にも胸の奥から温かいモノが湧き上がって来る。


(初デートで、彼女の手作り弁当を食べられる・・・明日、僕死ぬかもな)


 ただでさえ、雫レベルの彼女ができただけでもこれから先の運をすべて使ってしまったのかと不安になるほどなのだ。

 ここで、男の理想ともいうべきものを前に出されては、こう思うのもやむなしだろう。


「それじゃ、行こ?確かこの近くに、広い公園があったよね?」

「ああ、うん・・・そうだね」


 今いる場所は、白流市の中央付近だ。水族館も近くにあったが、雫の言っているのは、この街の中央公園の事だろう。中央と名前は付いているが、実際には少し郊外に近い住宅街の方にある。ならば、都合がいい。


(次に行きたい場所も、郊外の方だからね)


 僕の予定では、午前中から正午の昼食の時まで、王道のデートをするつもりだった。

 そこから、僕と雫だから意味のあるコースを往くのに、雫の提案はちょうどいいものだったのだ。


(ここまでは順調・・・でも、本番はこれからだ)


 ボディバッグの底に沈めた『あるもの』の感触を確かめながら、僕らはまた二人乗りで街の中を駆けていくのだった。

来週の平日中に、後編を上げられればと思っております。

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