Higher Ground【1/7】
上半身を起こす。
「牢屋の中だ……」
牢屋の中のベッドに寝ていたわたし、夢野壊色である。
確か往来で鈍器のようなもので後頭部を殴られたはずだ。
痛みがじわじわ蘇る。
「拉致られた……」
鉄檻の中。
トイレとベッドだけがある四畳半くらいの、牢屋。
窓はない。
さっきから、蒸気機関で動かしているタービンの音だけが響いている。
あたりをきょろきょろ見ていると、壁の一面が電脳スクリーンになって、トーキー付きの映像を流しだした。
「嘘だろ? ……悪趣味な映画か?」
身体がかたまって、動けなくなる。
スクリーンに映し出されたのは、政府の総理大臣・羊飼が銃で射殺される映像だった。
羊飼首相が、殺された?
映像はズームバックして、あたりを映し出す。
バックしてあたりを映し出したその画面には、死体の束が所狭しと転がっていた。
死体の束が広がる総理官邸。
羊飼首相の亡骸を踏みつけて喜んでいる狐面を斜めに被った女の子がいた。
この娘、見たことがある。
「白梅……春葉、か」
十羅刹女、白梅春葉。
十羅刹女の力を持つこの少女が、羊飼の暗殺を成功させた、のか?
今、わたしが観ている映像は、あきらかに〈人域〉と〈神域〉を越境していた。
つまり。
和の庭の〈箱庭宇宙〉を溶解させてしまっている。
この映像が現実だとすれば、和の庭は、溶けてしまったと言える。
なんでこんなことに。
スクリーンに釘付けになっていると、檻の格子の外に、ひとが立っていて。
「これは現実ですよ、壊色姉さん」
屈託ない邪悪な笑顔を浮かべて、格子の外に立つ女性は言った。
「……折鶴ッ!」
檻の外でわたしを眺めているのは〈折鶴旅団〉首魁、折鶴千代だった。
これは現実だ、と折鶴は確かにそう言った。
映像は続く。
高級官僚や財界の要人たちが暗殺されていく様を、移し続ける。
そのなかには、十王堂女学校に通う生徒の親たちも含まれている。
例えば、空美野涙子の親である空美野財閥の総帥などだ。
「政府が大杉幸に夢中になっている間に、クーデターを起こさせていただきました。軍部の青年将校たちは、わたくしの味方がほとんどとなりました」
「クーデター?」
動こうとしたら、足枷がベッドに繋がってある。
トイレ、使えない仕様じゃないか。
わたしは舌打ちする。
「仕組んでいた計画を発動させたのです」
「〈まつろわぬ者〉……土蜘蛛と呼ばれても仕方がない所業ね」
「姉さん。腐敗したこの社会をどうにかするには、こうするしかなかったのです」
「なぜ、政府に盾突く?」
「盾突いてなどいません。腐敗した政治を行う国賊を討っているだけなのですよ。まつろわぬのでは、ない。これは、我々の〈まつりごと〉の方法なのですよ」
「……気に食わないわ、その遣り口」