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Spirit Rejoice【3/3】




 カフェー〈苺屋キッチン〉に入ると、店内にいた長良川鵜飼がわたしに飛びついてきた。


「壊色先輩ぃぃぃー!」

 抱き着く鵜飼を引きはがすわたし。


「なに? どーしたの、鵜飼。こんな場所に来るなんて珍しいわね」

「ボク、先輩が魔性にさらわれたっていうから気が気じゃなかったのにみんな『酒でも飲んでろ』としか言わないしィ」

「ああ。誰も心配してないのがうかがわれるわね……」

「無事で良かったぁぁぁぁ!」

「あー、もう。心配してくれてありがとね、鵜飼。でも、飲み過ぎよ、あんた」


 店の奥から苺屋かぷりこが現れる。

「角瓶のボトル一本開けちまったんだぜ、こいつ。それで、帰りもしねぇ」


 ああ。朧車に連れていかれてから、何時間くらい経過したんだろう。

 まだ、夜は明けていない。

 そう時間は経っていない。


 それに、魔性だということが最初からわかっていた?

 わたしはわからなかったのに。


「園田乙女だよ。警察が絡んでいる。憲兵隊も別に動いている」

 かぷりこは言う。

「あ、園田刑事、か」

「折鶴旅団、だろ? そうじゃなくても無政府主義や大怪盗やらがいろいろなところで〈和の庭〉を荒らしているってのに、今度は〈天狗サマ〉だよ。参ったねぇ」

 そう言ってかぷりこは笑う。




 斜陽地区の方で、天狗と称する土蜘蛛の一団がなにやら画策している。

 それは、折鶴旅団、なのか。



「筒抜けらしいね」

 わたしは肩をすくめる。

「鴉坂つばめの索敵能力を使ったんだろうな。近頃は『大衆消費社会』だなんて言うけれど、それもどこまで続くか、わかんねーな」


 ここに逃げ場はない。

 最初からわかっていたことだ。


「壊色。鵜飼のこと、江館まで送っていってやれよ」


 鵜飼は浴びるように酒をラッパ飲みしている。


「わたし、まだなにも飲んでないんだけど」

「珈琲を出すよ。鵜飼といちゃついて待ってな」

「…………」



 鵜飼がまたわたしに抱き着く。

「先輩」

「なに、鵜飼」

「笑顔」

「笑顔?」

「みんなが笑顔になれる社会が来ると良いですね」


「笑顔、か」


 本当に、心からの笑顔を向けること。

 それが出来る社会なら、どんなに良いだろう。


 でも、笑顔の向こうでは、いつも誰かが泣いている。


「鵜飼」

「わっ!」


 わたしは鵜飼を抱きしめ返した。


 ちょっと泣きそうになったけど、その理由を考えるのはやめよう。


 いつだってバカやって過ごしたいのだ、わたしは。

 バカやることを妨げる、こんな状況は打破したい。


 笑顔のために、わたしは戦いたい。

 みんなの笑顔。

 知ってるひとたちの笑顔くらい、勝ち取りたい。


 それって、普通のことじゃない?




〈了〉

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