表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/64

Spirit Rejoice【2/3】




 円タクに乗った。

 円タクとは、一円均一で市内特定地域を走るタクシーのことである。

 浅草まで乗ろうと思って乗ったのだが、円タクは〈斜陽地区〉までまっすぐ向かっていく。

 わたしもわたしで、スキットルでちびちび飲んでいたウィスキーで酔っていたので、なにも言わなかったのが悪かったのかもしれない。


「霊界タクシーが人を誘拐し、そのまま彼岸の果てまで連れていってしまう」

 という、都市伝説があるのを忘れていた。


 途中、うとうとして眠ってしまったわたしは、斜陽地区からさらに北の、葦穂山まで連れていかれてしまった。


 あ、葦穂山……。

 和の庭の外部じゃないか……。


「〈朧車おぼろぐるま〉ね」

 と、わたしは運転手に言った。


 朧車。

 鳥山石燕による江戸時代の妖怪画集にある日本の妖怪の一つで、牛車の妖怪。


 そして、朧車は、〈おぼろ〉であり、わたしが運転手に声をかけると、消えてしまった。



 葦穂山のふもとに独りで、今、立っている。


 葦穂山は、風土記に出てくる地名で、油置売命あぶらおきめのみことという女神の岩屋があった場所だ。

 霊験あらたか、ではある。

 が、深夜帯に、こんなところに来たくない。

 帰りたい。

 女神の岩屋でも探すか。

 いやいや、待て待て。

 女性一人で山のふもとにいる。

 ヤバくないか?


 考えるまでもなく、さっきの朧車という魔性は、土蜘蛛が使役したものだ。

「わたしをここまで連れてきた理由が、ある……のかな」



「ありますよ」



 ペンで横に一直線に線を描いたようなほそい目に、にやついた笑みを浮かべ、和装をした女性が、後ろの方から声をだした。


 振り向く。


「ようこそ、〈折鶴旅団〉の地へ」


「お、折鶴旅団?」


「あなた方がお探しであろう〈天狗を名乗る土蜘蛛〉ですよ。我々は、構成員を、天狗と呼称していますから」


 待て。

 聞いたことがある。

 うーん。

 あ。

 思い出した。


「〈国本主義〉結社ね」


「そうです。国本、及び、招魂会の者たちです」


「国本主義は国粋。なぜ、政府に盾突く土蜘蛛に?」


「『国賊は殺す』。一人一殺ですよ」


「国賊……?」


「そう。例えば、〈黎明派〉などです。夢野さん。吉野ヶ里咲だけでなく、あなたのお友達の、鏑木盛夏も、ですよ」


「…………」


「ああ、申し遅れました。わたくし、国本主義結社・折鶴旅団の折鶴千代です。以後、お見知りおきを」


「わたしに、なにか用なわけ?」


「いえ、顔合わせ、ですかね。わたくしとあなたは、『こうして出逢った』という〈事実〉が欲しかっただけです」


「なぜ、わたしに」


「あなたが旅で得たなにか、知りたかっただけです」


「嘘ね」


「そうとも言える」


「どういうことよ」


「我々の本分は〈招魂〉にあります。あなた方の師である灰澤瑠歌も、わたくしたちが祀る英霊の一人です」


「余計とわからない」


「本当の敵が誰か、ということを、考えて。なぁに、あなたならばわかりますよ。そう信じています」


「まるでカルトね」


「ふふ。我々は幻魔術も魔性の使役もするということを、お忘れなく」


「これは、……脅し?」


「違いますよ、〈壊色姉さん〉」


「!」


 目の前の人物、折鶴千代は、声音を変えて、わたしを〈姉さん〉と、呼んだ。

 その声は。


「……折鶴千代。あなた、もしかして」


「そうですよ。生き別れのあなたの〈弟〉が、わたくしです」


「だって、あなた、女性……」


「性転換くらい、したってどうということないでしょう」


「性転換?」


 あはは、と笑う折鶴。


「嘘ですよ。わたくしは生まれたときから女性ですよ。母があなたの〈弟〉として育てただけの話です。海外に遊学に行くのに、女性では、なかなか行かせてくれませんからね」


 折鶴が指を鳴らすと、また朧車が湧きあがり、形を成す。

 指を鳴らすだけで幻魔術を使えるというのは、相当の手練れだ。


「さ。また帰ってください。言ったでしょう。会うという事実が欲しかっただけです」


「なんの狙いよ」


「また〈えにし〉が出来た、という、それだけです」




 ……えにし、か。

 そもそも姉妹なのにね。

 いまさら縁もなにも、ないとは思うけれども。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ