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Spirit Rejoice【1/3】

 もうすぐ土蜘蛛騒動で壊れた高等女学校の寄宿舎の修築工事が終わるらしい。

 最近、だらだらしていたせいか、わたし、夢野壊色はいつも眠い。

 緊張が解けたのだろう。

 ここは鏑木水館の講堂。

 教壇に立つ鏑木盛夏が、塾生に水兎学の講義を行っている。

 一番後ろの机に突っ伏し、ぐでーっとしながら耳を傾けていた。

 ああ、夏が来るのも、近い。

 今年は旅から帰ってきて〈和の庭〉にいるから、海水浴も一味違いそう。

 楽しみだなぁ、なんて。



「にゃーにゃー、塾長さんにょぉ。水戸学派は退魔士。水兎っていうくらいにゃから藩校で生まれたっていうけどにゃ、退魔はメシマノウマヤで生まれたって言う。矛盾にゃぞ」


 塾長・鏑木盛夏が教鞭を自分の掌にあてぴしぴし音を立てさせ、喜ぶ。

「ラピスさん。良いところを突くわね。わたしたちはどうしても藩で考えてしまいがちだけど、そのずっと前の律令国だった頃に話は遡るわ」

「にゃー。律令国?」

「『学問』としての水兎学は、〈那賀郡なかぐん〉のあったところがルーツ。藩になった頃、花開いたけどね。でも、それと別に。メシマノウマヤのある〈多賀郡たがぐん〉の山岳信仰や修験道が、土蜘蛛討伐の『退魔』の系譜の、最初期の段階にある」

「にゃ? 修験道? じゃあ、土蜘蛛討伐と天狗は関係性がある、ということかにゃ」

「鋭いわね。そうよ。天狗を山の神とするか、魔界の天狗道に堕ちた〈魔性〉とするか。水兎学は、土蜘蛛が〈外法〉、つまり〈幻魔術〉の使いすぎによる〈幻魔作用〉で自ら〈魔性〉化するのを、天狗道のそれとなぞらえているわ」

「土蜘蛛は天狗でもあるのにゃな」

「用語の統一が、未だされていない、という部分があって、すまないと思っているわ。それが水兎学が〈体系なき体系〉、つまり体系の体を成していない、という指摘を受けることの一因にもなってるのは事実」



 わたしは講堂の後ろで、

「天狗……なぁ」

 と、呟いた。

 斜陽地区の方で、天狗と称する土蜘蛛の一団がなにやら画策している、と園田乙女刑事から、聞いているからだ。

 その何某天狗という土蜘蛛の一団と衝突するとなると、駆り出されるのは退魔士だろう。




 対魔性治安維持組織としての、退魔士が、きっと呼ばれる。




 ぼーっと突っ伏していると、ひんやりしたグラスを、おでこにあてられる。

 顔を上げると、それは麦茶の入ったコップで、差し出した人物は盛夏の小さな恋人、雛見風花だった。


「自傷系クズのあなたにも差し入れよ。さぁ、起きて塾生たちに麦茶配るの、手伝って」

「うえー」

「ほら、立ちなさい、オトコオンナ」

「わーったって」


 わたしは、重い腰をあげる。

 腰痛っぽくて、起き上がるとき、ちょい腰が痛かった。


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