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Let Love Rule【4/5】





 鏑木水館の近くにある汁粉屋〈キャラメル善哉〉。

 ここで、同人雑誌『新白日』のメンバーは集まって、あれでもない、これでもない、と唸っていた。

 そこには用務員先生こと夢野壊色と、編集者・獅子戸雨樋も着席している。


 コノコは、テーブルの上に、自分の原稿を広げた。

「蒸気タイプライターで打った文章なのだ」


 その場のみんなが、原稿を覗き込む。

 原稿には、こう、書かれていた。




「みな、独裁を夢見ている」


「みな、その敵の合法的虐殺を夢見ている」


「みな、この独裁者のあとに革命から生まれ出る『建物の冠』として、代議政治を夢見ている」


「みな、独裁者のつくった法律に対する絶対的服従を教えている」


「みな、個人や民衆の発意心を殺すことを夢見ている。革命家という名を僭称している百人中九十九人の夢なのだ」


「昨日は機関銃の餌食となり、明日は機関銃の主人となる。民衆は、それ以上、前に出てはいけない」



「『革命家』にとっては」




 一同、しばし沈黙。

 空美野涙子が言う。

「コノコ。政治色が強すぎるんじゃねーの」


 一方で笑って褒めるのは獅子戸雨樋だ。

「いいでし、いいでし。『文芸江館』はゲーム性を重んじるでし。それとはっきり区別出来て、いいでし」



 コノコは思い出す。

 ある日、大杉幸は、流浪の政客だった頃の吉野ヶ里咲と、地方で討論会を行ったことがある。

 そこには大衆が押し寄せた。

 ひとで討論会場は埋め尽くされ、コノコは目を丸くする。

 そのとき、幸はこう言ったのだ。


「真の〈魔性〉は、書物そのものなのだよ。ただし、例えば水兎学とわたしのような無政府主義のスタンスの書物が向いてるベクトルは、まるで反対方向さ」

 と。


 そう。

 書物は〈人を喰らう鬼〉だ。

 それを飼い慣らせないと、幻魔作用によって、ひとは心に巣食う〈土蜘蛛〉に支配される。


 だが同時に、書物でないと出来ないことも、ある。


「革命の時に、どんな奴がどんなことをするかは、よく知っていなければならないことなのだ」

 コノコは言う。

 まるで、〈先の革命がまだ完成していない〉と言わんばかりに。


 佐原メダカは、

「コノコ姉さん、どうしちゃったんですかぁ。どこか頭でも打ったのですかぁ」

 と心配するが、他の面々は、腕を組んで、この言説を吟味していた。

 雨樋は一人、店自慢のキャラメル善哉をスプーンで食べながら、

「いいねぇ」

 とだけ、言った。



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