Beats Knockin【4/6】
☆
小間使いに通された寝室には、政治結社・黎明派の首領、吉野ヶ里咲が畳の上に敷いた布団の中で呻いていた。
園田乙女に頼まれた次の日。
さっそくやってきたわたしと盛夏だった。
「失礼致します」
盛夏が先に寝室に入る。
続いて、わたし。
氷枕をどかして、吉野ヶ里咲は、
「鏑木先生、それに夢野くんも。ありがとう。くだけた調子で良いよ。我々の仲じゃないですか」
夢野くん、か。
偉くなったものね、吉野ヶ里咲。
「鏑木先生だなんて。退魔士は時代遅れの人斬りですよ。それよりも吉野ヶ里先生、激しい頭痛が止まらないと耳に挟みましたが、それは本当のことなのでしょうか」
「本当なのですよ、鏑木先生」
「探知はした、壊色?」
「なにかの〈抜け殻〉を感じる。生命が尽きたあとの残滓が、〈視える〉わ」
「なるほど、ね」
吉野ヶ里咲は、驚く。
「これだけで、なにかお分かりになられたのですか、鏑木先生。夢野くんも、なにかを掴んだのですか」
わたしは答える。
「わたしはちっともわからない。解釈をするのは盛夏だから。わたしは、こいつの〈瞳〉を代行しただけよ」
「コノコさん。ちょっとこっちに入ってらっしゃい」
盛夏は、寝室の外で待機している朽葉コノコの名前を呼ぶ。
コノコが入ってくると、吉野ヶ里咲は満面の笑みを浮かべる。
「ああ、この娘が、朽葉コノコさんですか。過去のことは、忘却しました。今はあなたに期待しています。いえ、もとからあなたには期待していたのですよ」
わたしがくん付けなのに対して、コノコちゃんはさん付け、か。
それがなにを指し示すのか、わたしにはわからないけれども。
「そんな話、聞きたくないのだ!」
「ええ。忘れましょうとも。では、鏑木先生」
「鏑木盛夏で、結構です」
「それでは、改めて。鏑木さん。わたしは頭痛がし始めてから、悪夢にうなされています。〈土蜘蛛〉からの妨害だ、と考えておりますが、実際はどうなのでしょうか」
「壊色とコノコさんはここ、黎明地区のどこかで同じく激しい頭痛を起こして寝込んでいるひとがいるから、探してきて。その家は壊色の〈銀色の瞳〉のセンサーにひっかかるから、すぐわかるはずよ」
「鏑木さん。土蜘蛛は危険なのです。長らく魔性を使役していると、幻魔作用により自らも魔性の者となる……」
「お気になさらず、今はゆっくりお休みください、吉野ヶ里先生」
「それじゃ、行くのだ、用務員先生!」
「もう、用務員先生っての、やめて。コノコちゃん」