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Beats Knockin【3/6】




 カフェー〈苺屋キッチン〉の重いドアを開ける。

 女給さんが、いらっしゃいませー、と行って、席まで案内してくれる。


 席に座ると、看板娘でありこのカフェーの経営者の娘である女給、苺屋かぷりこが注文を取りにやってきた。

「こんばんは、かぷりこ」

 わたしが言うと、かぷりこはため息をついた。

「こんばんは、じゃないぜ、ったく。自分の席から後ろのボックス席を振り返ってみなよ」

 振り向くと、そこには十王堂高等女学校の〈保健室登校〉生徒である金糸雀ラピスと、十王堂高等女学校の生徒会長、御陵初命みささぎはつめが座って談笑していた。

「生徒が素行不良なのは大丈夫なのか、〈用務員先生〉さんよ」

「酒は?」

「いや、珈琲だけだ。でも、この時間帯にカフェーにいるのは、よくないんじゃないか」

「停学モノだよ、夜、カフェーで喫茶してるなんて。かぷりこ、ありがとう。注意するよ」

 人差し指を立てて「しーっ!」と言うかぷりこ。

 黙って談笑を聞いてみろ、ということだろう。

 仕方ないなぁ。

「じゃ、とりあえずビール、パイントで持ってきてね」

「はいよ」

 奥のビールサーバーまで移動するかぷりこ。

 席にわたしは残された。


 聞き耳立てるのは好きじゃないけど、聞いてみるか。

 ラピスちゃんは水館の門下生でもあり、一方の生徒会長の御陵さんは長良川江館の門下でもあるのだ。

 どんな話をするのかに、興味はある。




「こにょまえは大変にゃったのにゃ、御陵ぃ」


「わちきに言われても困るわ。〈絵葉書屋〉の武久現、飛んだ食わせ物だったわね。それはわちきにもわかるけれども」


「にゃたしたちは難しい立場にいるのにゃ。電脳遊戯をたしなむ者でありにゃがら、〈水兎学派〉でもある」


「先の〈革命〉では、浪士が主に活躍したはず。……主家を離れ、禄を失った武士。また、仕える主家をもたない武士。それが〈浪士〉なのは知っての通り」


「革命での水兎学派の〈退魔士〉のほとんどは浪士だった、という説があるのは、にゃたしも知ってるのにゃ。水兎学派は〈仕える身でなくても戦える〉のは確かにゃ」


「そうねぇ。わちきも、水兎学派で重要なのは〈退魔士〉であるという〈事実〉だと思っているわ」


「『対魔性治安維持組織』が退魔士にゃのにゃー!」


「対魔性だったものが、いつの間にかまつろわぬもの、すなわち〈土蜘蛛〉も〈魔性〉に含めてしまう、という政府の方針に、わちきは納得いかないけれども、ね」


「『対魔性治安維持組織』が『人間』を『反乱分子』だから殺す時代になってしまったのにゃ。退魔士は、人殺しの組織ににゃってしまったにゃ」


「『電脳は悪』と、学校では習うわね。でも、電脳遊戯をいつかはクリエイトしたいわちきたち。スタンスが決まる前に土蜘蛛討伐の責務が今後生じてくるかもしれない」


「困ったにゃぁ」




 かぷりこが運んできたビールを飲みながら、わたしは、電脳のゲームを開発したいと望んでいるらしいこの二人の言っている内容に耳を傾けてしまっていた。

 言葉に、引き込まれたのだ。

 そして、彼女らの難しい立場も、垣間見た気がした。


 そう。

 退魔士は、土蜘蛛を討伐する組織となった。

 それは、革命後の話であり、もとは、魔性を討つ任務を課せられていたのが水兎学派の退魔士たちであって、それがいつのまにかアヤカシではなく人間であるまつろわぬものの〈調伏〉も行うことになった。


『調伏』とは、調和制伏という意味の仏教用語だ。

 内には己の心身を制し修め、外からの敵や悪を教化して、成道に至る障害を取り除くこと。

 及びそのための修法、と辞書にはある。


〈教化〉。

 水兎学派を学ぶ理由だ。

 そして、実践がある。

 今の退魔士が行う調伏は、革命を達成した〈現政権〉を〈成道〉と見做さないと、出てこない発想でもある。



「あいつら、いろいろ考えてるじゃんか」

 わたしはビールを一気飲みする。

 おかわりを注文し、しばし、ラピスちゃんと御陵さんの会話を、席の後ろから聞くことにした。


「酔うわぁ」


 言った途端、かぷりこにトレンチで叩かれたのは言うまでもない。


「酔うのもいい加減にしろ。自分に酔ってるんじゃないか、壊色?」

「確かに、ね」




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