表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/64

Long Season【3/6】





 黎明地区。十王堂高等女学校、寄宿舎。

 わたしはこの寄宿舎で働いている。

 鏑木盛夏が用意してくれた職でもある。

「あ。用務員先生、おはようなのだー」

「え? 先生? あー、うん。えっと。おはよう、朽葉コノコさん」

 生徒から挨拶されたりも、するようになってきた。

「嬉しいのだ! 用務員先生から名前を憶えてもらえたのだ!」

「よかったですね、コノコ姉さん」

「メダカちゃんも早く覚えてもらえるようになるといいのだ!」

「えー。恥ずかしいなぁ。わたしはいいですよぉ」

 笑顔を貼り付けた顔で、わたしは朽葉さんと一緒にいる生徒の名前を呼ぶ。

「大丈夫。覚えてますよ、佐原メダカさん」

 佐原メダカさんは、

「きゃあああああああ! 名前覚えてもらえたあああぁぁ!」

 と、嬌声を上げて、飛び跳ねた。

「えっと。わたしに名前、憶えてもらえて……嬉しい?」

 一寸、不安になる。

「嬉しいですよぉ」

「やったのだ、メダカちゃん! わたしも鼻が高いのだ!」

「わぁい! 名前覚えてもらえた! わたし、名前覚えてもらえたぁ」

 わたしは、

「あはは……」

 と、空笑いする。

 それに、用務員は〈先生〉じゃないんだよなぁ?

「おっす。おはよう、用務員先生」

「おはよう、空美野涙子さん」

「朝っぱらから廊下のモップ掛けか。用務員先生ってのは、大変なんだな」

「……まあ、ね」

 いいとこのご息女が住む寄宿舎だ。廊下もピカピカにしとけよ、って話だ。

 さもなきゃ親御さんにしばかれるのは、間違いない。

 そのうえで盛夏から、なにされるかわかったもんじゃない。

 仕事には励むわよね、そりゃ。

 生徒は朝食を取って学校に向かう時間だ。

 通学してからの時間じゃ間に合わないので、こうやって朝っぱらからモップ掛けしてるってわけ。

 わたしの作業、邪魔っぽいと思うのだが、意外に慕ってくれる生徒さんもいる。

 高等女学校……、たぶん、わたしより勉学ができる生徒ばかりなのだろうけどね。

 それでも、慕ってくれるのは、素直にわたしも嬉しい。


 通学の時間が来て、生徒さんが出払ったところで、わたしは食堂へ行く。

 遅い朝食を、わたしも取る。

 調理師さんに頼んで、朝からカツレツを食べるわたし、……と、もうひとり。

 もう一人の人物は、魚取漁子うおとりりょうこ

 学校お抱えのタイピストだ。

 文章系の清書は、だいたいこの漁子に一任されている。


 漁子は、黙々とカツレツを食べる。

 その真向かいで、わたしもスプーンとフォークを動かしている。


「かぷりこから聞いたわ」

 スプーンの手を止め、いきなり、話しかけてくる魚取漁子。

「鏑木と痴話喧嘩してるんだってね」

「ぶっは!」

 吹き出しそうになる。

「違う違う! わたしと盛夏は、そんな関係じゃないから!」

「なるほど。……それと、大杉幸には近づくな。危険すぎる」

「…………ご忠告、ありがとう」

 魚取漁子もまた、苺屋かぷりこと同様、〈幼年学校〉出身の人間だ。

 かぷりこ、漁子、そして大杉幸。

 この三人の間には、昔、なにかあったのだろうか。

 確か、〈幼年三妖〉と呼ばれる人物たちがいた話は聞いているが、まさか、ね。

「壊色。話は変わるが、最近、生徒の間で電子の机上ロールプレイ遊戯が流行っているのだが」

「電子の遊戯? ああ。コンピュータ・ゲームね」

「蒸気計算機にゲーム基盤を接続してプレイするゲームなのだが。彼女らがゲームで使うため、学校の蒸気計算機の演算処理能力が、落ちている」

「処理速度が落ちてるのかぁ。わかった。寄宿舎に戻ってきたら注意しておくわ」

「悪いな、壊色」

「どーいたしまして」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ