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Nuthin' but a G thang【4/7】




 御当主が伏した寝室へ行ったひとたちのすすり泣きがあたりを覆う。

 こういうことだった。

 この村では、家の者が亡くなるときは、完全に息を引き取る間が真夜中である場合は、朝になるまで〈家を空ける〉らしい。

 完全に息を引き取るそのときがわかるのか、という質問には、

「それは、わかるのです」

 と、女中さんは答えた。

 真夜中じゃない場合は、というと、それが、

「多くは真夜中なのです」

 としか、答えられないそうだ。

 そして、この集落では、僧侶を呼ばない。

 亡くなる前に集まって、会食をして、〈邪気を払う〉のだそうだ。

 わたしに言わせると、会食は邪気を払うどころか、〈引き寄せる〉ことになるのだが。

 でも、この集落では、そうなっているのだから、仕方がない。

 集まった人々は雑多で、亡くなりになる御当主の知り合いたちだそうで、〈まつろわぬもの〉である〈土蜘蛛〉の集まりではなさそうだ。

 いや、仮にまつろわぬものたちであったとしても、今は戦意もなく、弔いの場に集まっただけで会合などではなさそうだ。

 故に、安全だ、とわたしは思った。

 鏑木盛夏がどう思っているかは、教えてくれないのでわからないが。



 そして、真夜中になった。

 人々は、去っていく。

 村を離れて、どこへ行くのやら。

 ついていこうとしたところ、盛夏が、

「食事の片づけ、手伝いましょう」

 と、提案する。

 女中さん、嫌がるかな、と思ったら、人手が足りないので助かる、と言う。

 そんなわけで、流元ながしもとで、皿洗いをするわたしと、鏑木盛夏。


 洗い物も終わり、わたしはお勝手口から外に出て、涼みながら紙巻煙草をふかす。

 そこに、女中さんが現れる。

「あたくしも集落を出ます。明日の朝、帰ってきます」

「は? ええ。それじゃわたしたちも」

 女中さんは、くすくすと口に手をやって笑う。

「いいんですよ、隠さなくても。〈退魔士〉さま」

 思わず目を丸くしてしまう。

 それに構わず、女中さんは、言う。

「村の風習に構わずとも……いえ、退魔士さまだからこそ、ここにお残り下さりますと……。供え物と供養はすでに捧げてあります故、ご覧になってくださいまし」

「ご覧に? なにか、あるのですか」

「ここが、帝都にとって、無害な辺境の地である、という事実だけがおわかりになるのでございます」


 含みのある言葉だった。


 お勝手口から、盛夏が顔をのぞかせる。

「そこにいたのね、壊色。煙草は身体に害よ。ほどほどにしなさい」

「わかったわよ、盛夏」


 女中さんは、

「それでは、あたくしはこれで」

 と、頭を下げて、屋敷を出るため、一度、お勝手口から中に入る。

 そして、愉快そうに、尋ねてくる。

「お二人は、どういうお関係なのですか」


「うーん。わからないな。戦友?」

 わたしは声を濁す。


「興味本位で聞いてしまいましたが、とてもお似合いの、恋人にも見えます。あ、いえ、淫靡な意味ではございませんので、お気になさらず。お二人が、男女だったらよかったのにな、と思っただけにございます。姉妹でもなく、恋人同士のような……失礼いたしました!」


「…………」


「……恋人だそうよ、壊色?」


 女中さんは顔を真っ赤にして屋敷を出ていく。


 わたしは、女中さんから聞いたことを、盛夏に話した。


 わたしたちは、屋敷に残ることにしたのだった。


 無害さがわかる、ねぇ。

 意味がわからないけど。

 どういうことかしら。


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