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Nuthin' but a G thang【3/7】




 お集りのみなさんは、黙々と食事をしている。

 これで喪服を着ていたら、お葬式だ。

 そういう空気が流れている、大広間だった。


 わたしと盛夏は、大広間の隅の方へ、用意してくれた座布団に座る。

 ほどなくして料理が運ばれてきた。

 女中さんにお辞儀すると、お辞儀を返して、料理を置いていった。

 わたしは盛夏に耳打ちする。

「宴って感じでもないし、なんだろう、この空気。誰かに訊こうにも聞きづらいのよね」

 いつもの調子で、普通の音量で盛夏は言う。

「もしも土蜘蛛ならば『〈銀色の瞳〉を使って霊視できる』のでは?」

 わたしは苦笑する。

「庵室の尼さん。ちょっと勘違いしてるわよね。それを盛夏ったら『さすがですね、伊達に禅の修行をしてきたわけではない、ということですね』なんて〈ヨイショ〉しちゃってさぁ」

「噓も方便。失礼のないようにしたまでのことよ」

「『夢野壊色は、土蜘蛛特有の邪気を感じ取ることができます。〈銀色の瞳〉の術式を使って』ってさぁ。間違いではないんだけど」

「じゃあ、いいじゃない」

「はぁ。盛夏、あんたは相変わらず、はぐらかしてばかりいるのね。わたしの術式は〈魔性アヤカシ〉を探知できるの。だから、〈魔性〉としての、要するに妖怪変化としての〈土蜘蛛〉がわかるだけよ」

「あちし、素晴らしいと思うわよ、その能力」

「天帝の御国みくにの、叛逆の徒としての奴らと妖怪変化は、イコールでは結ばれないわよ。人間に貴賓はないわ。そんなことになったら最近流行りの、水平な方々の運動の邪魔をするだけで、現実とは乖離し過ぎだわ。この戦いでは、国側か、それに叛逆しているかの差しかないのよ。敵の多くは普通に人間です。ただし、ひとは〈魔性〉も〈使役〉するけどね」

「ご高説ありがとう、壊色」

「どーいたしまして。尼さんに失礼ないようにしたのはわかったけどさ」

「探知、してみなさいな。〈魔性〉、いるかもしれないわ」

「盛夏。どこまでバカにしてるわけ? とっくに調べてるわよ」

「で。どうだった?」

「余裕ね、盛夏。確かに、この大広間のひとたちのなかには魔性はいない。でも」

「でも?」

「微弱な、消え入りそうなほど小さく、〈土蜘蛛〉の気配がするわ」

「ふぅん。どこにいるか、わかるかしら」

「わからない。山中にいる、野生の妖怪かもしれないわ。ここの葬式じみた集まりの波動が、〈あちら側〉と〈こちら側〉を、つなげてしまっているようにも思うのよ。そうしたら、〈あちら側〉から妖怪の〈土蜘蛛〉が出てきても、おかしくない」

「要するに、場所はわからないし、この集まり自体が〈引き寄せている〉可能性があるのね」

「そーいうことよ」

「じゃ、食べましょうか、お食事」

「食べちゃって、大丈夫かな」

「毒見の話かしら」

「それもあるけど、さっきから、この大広間、食事中なのにひとの出入りが多い。その中だから〈関係者〉とやらと勘違いされてるみたいだけど……、一体なんの関係者の集まりなのかしら」



 わたしたちが話を長くしていると、女中さんが戻ってきて、心配そうな顔をしてわたしたちのところまで来た。

「お料理、お気に召しませんでしたか」

「いえ、そんなことは」

 わたしが首を左右に振る。

「御当主さまがお亡くなりになられるのですから、仕方がございませんよね」

「は? え? あぁ? ええ、うん。……そう! そうね! そうですよね!」

 わたしはいきなりの女中さんの言葉に、うろたえる。

「いつまで経っても嘘が下手ね、壊色。それでよく全国を旅してき……モゴモゴ」

 わたしは盛夏の口をわたしの右掌で押さえて喋れなくした。

「お亡くなりになる、というのは、これから、確実に、みたいなニュアンスですが?」

 女中さんは、こくりと頷く。

「お客様は、初めてなのですね、この集落の〈葬送〉は」

「ええ。お恥ずかしながら」

 喪服は着ていないが、そういうことだったのか。

 まだ生きてるから喪服は違うわね。



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