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Run Like Hell【6/7】




 街灯。

 瓦斯ランプの電柱の真下に、狐の面を被った人物が、出刃包丁を右手に持って、直立不動にしていた。

 体格からすると、女性、しかも、少女だ。

 狐の面の少女は、動かない。


「関わらず、立ち去るべきね」


 出刃包丁を持った狐面の少女が、スポットに照らされている。

 花屋敷に似合いそう。

 興味がないわけじゃないけど、興味を持つと、破滅する予感がした。


 わたしは、少女を横切る。

 すると、

「春葉は、壊色お姉ちゃんを殺さないとならないんだよ。『ミサキ』である〈八咫烏〉は今や、あの退魔士と壊色お姉ちゃんに憑いている。春葉は、許せないな」

 と、かなり説明的なことを言った。


 思わず立ち止まる。

 わたしを、殺すと、この娘は言っていなかったか?


 わたしを、殺す?


 なんで?


「なんでって、それは八咫烏に先導させて、たどり着いた先で〈調伏〉を行うのは、お門違いだからだよっ」


「意味がわからないな」


 返答してしまった。

 会話を、この危ない少女と、してしまった。


「水兎学は、〈調伏〉を行う。でも、それは帝都の理屈なんだよっ。土蜘蛛には、土蜘蛛の世界があって、それを壊すのは、いけないことなんだよっ」


「土蜘蛛は、国を乱す者たちだ」


「違うよ。今の国の〈体制〉が、狂っているんだよ? わからないか。わからないよねっ? じゃあ、死んじゃえ!」



 出刃包丁を横に払う春葉というこの少女の攻撃を、バックステップでかわす。

 今のは避けられたけど、わたしは戦闘に向いてない。


 どうする?


 春葉は走りながら出刃包丁を振り回す。


 この戦い方は、剣術のそれではない。


 わたしは迫ってきた春葉の軸足を薙ぎ払う。


 盛大に転ぶ春葉。


 起き上がり、狐面を脱ぎ去り、八重歯を出して、春葉は言った。


「春葉はねぇ、『十羅刹女じゅうらせつにょ』なんだよっ」



 誰かが現れた。

 その誰かは、春葉の背後の暗闇から、飛び蹴りを当てて、春葉を吹き飛ばす。

「痛いよっ?」

 また転がって、手で身体を支え、起き上がりながら、春葉は飛び蹴りの人物の方を見る。


 わたしも、見る。

 飛び蹴りをしたのは鏑木盛夏で、その脇には、西洋の魔女の帽子をかぶった黒いローブ姿の女の子がいた。


 わたしは喜色の笑みを浮かべた。

「盛夏と、それにつばめちゃん……」



 つばめ。

 鴉坂つばめ。

 下宿・西山荘で、わたしの隣の部屋に住んでいる女の子だ。


「出たねっ! 八咫烏!」


 つばめちゃんに向けて、春葉は言った。


 飛び蹴りで自分も転んだ鏑木盛夏も起き上がり、転んで汚れた袴をはたいて、埃を落とす。


 ここにいる全員に向けるように大きな声でしゃべる盛夏。

「確かに。八咫烏は『ミサキ』よ。高位の神霊が現れるときにその予兆となる役割を果たす、神霊。それが『ミサキ』」


「…………」

 わたしは黙って、盛夏の話を聞く。


「ミサキは、憑物でもあり、今は水兎学派に〈憑いて〉いる。それが八咫烏である、鴉坂つばめという神霊よ」


 ……黒いローブ姿で、魔女かと思ってたわ。


「〈魔法少女結社・八咫烏〉のメンバーの一人が、つばめなのよ、壊色」


「さっぱりわからない」


「八咫烏は、高位の〈退魔する者〉を先導することもある。つまり〈索敵能力〉を有した、レーダーとナビゲーションの役割を果たす神霊よ」


 うーん、外来語がよくわからない。


 意味が通じたのであろう。

 取り払った狐面を自ら踏み潰した春葉は、出刃包丁を握り締め、叫ぶ。


「なにが退魔よ! 水兎学も、それを精神的主柱にした先の〈革命〉も、間違っているのっ! あるべき場所にあるものは、そっとそこに置いてあるべきなのっ! 土蜘蛛と呼ばれるわたしたちは、〈追われている〉だけ! 被害者なの!」




 退魔士・鏑木盛夏は詠唱する。




 ……生老病死。

 ……善人なほもて往生をとぐ、いわんや悪人をや。


 …………〈悪人正機〉!

 …………〈狂業信証〉ッッッッ!



 短刀・蜘蛛切の刃は、春葉の心臓にぐっさりと刺さった。

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