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Run Like Hell【1/7】

 木造平屋建ての、門構えが立派な建物。

 そこが、〈和の庭・黎明地区〉の多賀郡お屋敷通りに面して建っている私塾。

 私塾の名を鏑木水館と言い、塾長は退魔士・鏑木盛夏である。

 今ではオールドな思想になりつつある『水兎学』を教える私塾が、鏑木水館だ。

 水館は、同じく『水兎学』の学び舎である〈和の庭・夜間地区〉にある長良川江館と〈対〉の関係になっている。

 水館と江館のどちらとも少なからぬ関係があるわたし、夢野壊色である。

 どっちつかず、とも言う。




「明日は仕事休みだし」

 言い訳をつくり。

 わたしは鏑木水館の講義が終わったあとを見計らって、下宿・西山荘から石畳の道を通って、日が傾くなか、とぼとぼと歩いていく。


 門前までやってきて、やっぱり引き返そうかな、と考える。

 だが、それは一瞬のことで、家飲みとしてタダ酒を飲ませてくれる鏑木盛夏は今日もお酒をわたしに飲ませてくれるだろう、と仮定して、門戸を叩く。


 叩いたのに反応して出てきたのは、使用人ではなく、雛見風花だった。


「はぁ、壊色かぁ。風花、壊色のこと、嫌いよ」


ギィッと重そうな音がして半分開いた邸宅の黒塗りの門だったが、出てきた風花はうんざりした様子で、すぐにその門を閉めた。


「…………はい?」

 わたしは認識できなかった。

 だって、邸宅を門前払いされる筋合いはないからだ。


「ちょっと、開けなさいよ、雛見風花!」

 門を何回も強い力でノックする。

 無反応だ。

 何回門を叩いても、無反応だった。



「あー、もう。これだからガキは!」



 雛見風花とは、こういう奴なんだってこと、失念していたわ。


 かんぬきが外される音。

 次いでゆっくりと門を開ける音が、響く。



「自傷行為をしたばかりの阿呆に用はないわ。あと、背が低いだけで、風花は、ガキじゃないわ」


 ガキって言葉に反応して出てきたわね。


「ふふ。強がり屋さんめ。ガキでしょ、あんたは」

「いいかしら、夢野壊色。あなたは飛んだ阿呆よ。自傷行為を繰り返しているだなんて。命の大切さを、学んでこなかったのかしら」

「ひとは死ぬ。ひとは、自分での選択肢はなく生まれてきて、生きて、そしてあっけなく死ぬ」

「あっけなく死ぬから、風花はひとがあっけなく死なないように医学を学んだわ」



 今でも医学の話をする雛見風花は、途中で医学校を辞めてしまった。

 それもまた、わたしは知っていることではある。

 でも、今、それをあげつらうのはフェアじゃない。


 最近流行の運動、庭球も、やってみたらフェアプレーフェアプレーうるさいのでやめてしまったわたし。

 会話の球の打ち合いにフェアプレー精神は必要か。

 いや、くだらないな、そんな話。

 両者の間にフェアプレー精神がなければ、そんなもの成り立たず、そしてわたしたちは、正攻法の戦いも生き方も、していないんだから。



 風花はわたしの目を見る。

 目が合う。



「夢野壊色。あなたは本当に『水兎学』を学んだの?」



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