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Without A Doubt【2/3】




「清掃ははかどっているかしら」

「廊下の雑巾がけ大変なのだー。なんなのだ、この長い廊下は!」

 にやりと笑って、障子の格子の隙に指をすっと擦り付ける鏑木盛夏。

「おやおや、障子の掃除すらできないのかしら、女学生さんというのは?」

「むぅ。塾長に言われると悔しいのだ!」

「じゃ、とっとと雑巾がけ終わらせて、障子の掃除、丁寧にやり直してね」


 どたどたどたと、コノコとメダカが雑巾をかけながら廊下を往復している。



 わたしは、

「若さが溢れているわね」

 と、女学生のお嬢さんたちの行う清掃とやらがどのくらいの精度で行われるのか、じーっと見ていた。


「盛夏。刑事さんがお見えよ」

 雛見風花が廊下まで来て、盛夏にそう告げた。

「ここに通してちょうだい、風花」

「わかったわ。……ところでそこの死にぞこない。この風花にお礼はないのかしら。胃洗浄より幾分マシだったでしょ、みぞおちへの攻撃」

「死にぞこないとはわたしのことかしら。雛見風花?」

「あなた以外、ここで自傷行為を行う人間はいません。断言はできないけれど、一番心が荒んでるのはここでは夢野壊色。あなたよ」

「……ありがとね、心配かけたかしら」

「医学に脚を突っ込んだことのある者なら、みんな同じように患者を助けるわ。風花はそれをしただけだもん。勘違いはしないでね」

「ふーん」



「あちしの可愛い風花を怒らせないで、壊色。あちしの可愛い風花はあなたの命を助けたのよ」

 盛夏がわたしにそう言っていると、雛見風花は刑事を連れてきた。



 おもちゃの行商、または興行師が売っていそうなヨーヨーをしゅるしゅるる、と伸ばしたり引っ込めたりしながら、真面目な顔つきの女性の刑事がやってきた。

 変な女、とわたしは思う。


「鏑木盛夏。武久現が逃走したわ」

「それを伝えに来たの、園田乙女刑事」

「政治が絡んでいるから、仕方なく」

「あなたが好んでここに来るとは考えづらいわ。誰の差し金かしら」

「わたしは政治家の駒じゃないわ」

「わかってるわよ、園田。……吉野ヶ里咲の差し金、ね」

「ご名答。吉野ヶ里咲は今、ご満悦よ、ここ〈鏑木水館〉でも同人雑誌を創刊したから」

「吉野ヶ里が文芸に興味があるなんてね」

「いろいろあるのよ。中でも夢野壊色と、朽葉コノコが執筆陣に入っているのが、特に吉野ヶ里の興味をそそったようなのよ」

「ふぅん」

「教育機関を狙って攻撃したやり口を見ると、土蜘蛛の一人である武久現は、大杉幸とつるんでいる可能性が出てきたわ」

「大杉幸……」

「アナーキズム……無政府主義者。婦人雑誌の編集長が本業だけど、大杉幸はロビーイングをする活動家。憲兵隊が狙っている要注意人物の中でも、大物の一人よ」

「憲兵隊ねぇ。そういえば大杉幸は先の〈震災〉で憲兵隊に殺されたって聞いたけど」

「眉唾な情報ね。そう易々と、どさくさに紛れて殺さるたまじゃないわ」

「ふぅん」

「浮かない顔ね」

「なんでもないわ」

「土蜘蛛の〈調伏〉、期待してるわ。わたしも、警察も」

「それはありがとう」

「では、わたしはこれで」

「風花。お見送りしなさい」

「わかったわ、盛夏」

 帽子を脱いでお辞儀をしてから、帽子をかぶりなおし、園田乙女は帰っていく。


 わたしはその様子を見ながら、ミルクキャラメルを口に含んで舐めていた。

 武久現に、吉野ヶ里咲、か。



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