表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/64

Structure【5/6】




「糸が……張り巡らされているのだ…………ッ」

 腐食が始まった木材と、カビの生えたコンクリート。

 ここが本当に、今までいた寄宿舎と同じ建物なのか、コノコは一瞬、戸惑った。

 だが、わかる。

 思い出したのだった。

「そう……だったのだ。蜘蛛と言えば、〈土蜘蛛〉のことなのだ。〈まつろわぬ人々〉……」

 天帝にすら逆らう者。

 ……そして、〈星を墜とす者〉に統率されているという……あの、叛逆の徒である〈土蜘蛛〉!



「瘴気よ、これ。強力な奴。どうする、盛夏」

「ふゆぅ。壊色。邪眼を開きなさい。〈索敵〉するわよ」

「はいよ。……仕方ないな」



 用務員先生こと夢野壊色と鏑木水館塾長・鏑木盛夏の声に、朽葉コノコは〈近づいて〉いく。


 蜘蛛の糸に引っかからないように。

 今度は、引っかからないように……。

 瘴気の中、一歩一歩、重くなった足を進める。



 図書室の中は、蒸気計算機が〈お化け〉のようになっていた。

 妖怪。

 あやかし。

 蜘蛛の糸を吐き、その体躯を増殖する、自律機械。

 それが、今の蒸気計算機だった。



 声が聞こえる。

 外から。

 反響して。

 まるで、〈ここにいる〉かのように。

 電脳網は、まだコノコの中で機能している。



 鏑木盛夏が、夢野壊色に、言う。

「この糸。遠隔操作ウィルスみたいなものよ。生徒たちは操られて、今頃、夢の世界で遊んでいることでしょうよ。それより壊色。もう一度言うわ。邪眼を開きなさい」

 壊色が言葉を返す。

「邪眼じゃないっつーの。そうやってひとを漫画の人物に自分を重ねてるような人間に仕立て上げようとするんだから」

「いいから、早く」

「わかったわ」




 夢野壊色は唱える。



 …………………。

 …………。

 ……。



 南無釈迦牟尼仏なむしゃかむにぶつ


 南無高祖承陽なむこうそじょうよう


 南無太祖常済なむたいそじょうさい



 …………正法〈眼〉藏!!


 ……。

 …………。

 …………………。



 息をのんだコノコは、呟く。

「用務員先生、格好いいのだ……」



 よくわからない。

 だが、眼が銀色に輝いた夢野壊色は、確かに格好良かった。

 コノコにとっては、だが。



「見えるわ」

「どう見えるの、壊色」

「不可視の糸は寄宿舎図書室を中心にして、張り巡らされている。図書室を叩けば、おーけーね!」


「じゃ。あちしがやるべきことは」

 緋牡丹の脇差を鞘から引き抜く盛夏。

「短刀〈蜘蛛切〉の出番ね」


 盛夏は〈蜘蛛切〉で十字に空を斬った。

 瘴気が弱まる。

 千筋通っている糸の一部が断線する。

 断糸というより、断線。

 ワイヤーの比じゃない心的硬度。



 ……それを、断ち切るのを。

 その様を、コノコは図書室にいながら〈見つめていた〉。


 そう、遠隔操作のウィルスの感度が高まった今の寄宿舎では。

 銀幕のスクリーンに投影したようなかたちで、〈襲撃者〉のモニタリングがされているのであった。

 それは、脳内にも映し出されている。

 接続された身体が〈観ている〉のだ。

 それが、絡まりあう千筋の糸なのである。



「見ぃつけた!」


 図書室に入り込むことに成功した鏑木盛夏は、ニヤリと笑んで、蒸気計算機に向かって、そう言った。


 今度は本物の二人が、コノコの目の前に現れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ