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いもうと×どらごん  作者: は
2/22

第一話 いもうととドラゴンのよくある登校風景

多少加筆してあります。




 風紀委員の憂鬱は、だいたい午前8時25分ごろに始まる。


 比較的自由な校風で知られ生徒の自主性を重んじる学園として認知され早五十年。学生運動がどうでもいい場所にまで血なまぐさいものをまき散らしていた頃に、とにかく勉強したい・学校に行きたいと訴えた者たちを受け容れて始まったという私塾は今では県内有数の進学校のひとつに挙げられる。


 学校指定の制服はあるが、着用は生徒の判断に任される。

 見苦しくない範囲での制服改造や私服が認められ、生徒教師の人種が雑多である以上は髪型の規定など無意味に等しい。

 とまあ、そのような学び舎における風紀委員の仕事というのはおおよそ限られたものとなる。ふた昔前の学園物に出てきた高圧的で陰湿な権力者然とした風紀委員など、黒髪ロングで清楚かつ生娘で美しい女子高生を探しだすよりも難しい。


 ──朝のHR開始を告げる予鈴まで、あと1分。


 校門に立つ風紀委員たちが固唾をのみ、変質者対策の刺股棒を握りしめる。

 グラスファイバーとカーボン繊維を組み合わせて作られたそれは自転車レースの王者や世界の釣り名人たちが勿体ないと叫ぶほどの素材を贅沢に使用した代物で、軽く丈夫かつしなやかだ。


 過去において変質者3名、他校からの襲撃者8名、その他23名を血祭りもとい捕縛してきた文字通りの業物である。


「来るぞ」


 年代物の鉄道時計を手にした当番の風紀委員が警告を発する。


「総員、対衝撃防御姿勢!」


「なぎはらえー!」


 角刈りの生真面目な風紀委員が叫ぶのと同時に、空の彼方より甘ったるい少女の声が響き渡る。

 次の瞬間。

 翼端20メートルに達する巨大な(ドラゴン)が、上空よりほぼ自由落下の勢いで着陸した。

 衝突こそしていないものの地面寸前で羽ばたき勢いを止めた結果、竜より放たれた烈風が、少女の声がそうしたように構えていた風紀委員たちを薙ぎ払うように転がし倒した。傍にあった用務員さんの軽トラも横転しかけたが、竜が『よいしょっ』の掛け声で支えて事なきを得た。


 歓声が上がる。

 それは並の曲芸師では真似できない竜の急降下ショーを間近に見た興奮と、普段はやや高圧的に生徒達に接している風紀委員会タカ派がなすすべもなく無力さを晒していることへの喝さいであった。少なくとも竜の姿と力に対する恐怖や嫌悪を示すものの姿は無い……なぎ倒された風紀委員側にもだ。

 転がった一般の風紀委員達も「やられたー」「いや今日は三回転で済んだし進歩したんじゃね?」などと言いながら立ち上がっており、角刈りの風紀委員も制服についた土埃を黙って叩き落としていた。


「皆さん、お勤め御苦労様です!」

『お疲れ様です。先に教室行ってきますね』


 風紀委員たちの見ている前で全長3メートル程度にまで縮んだドラゴンが会釈し、その背にまたがったピンク色の髪の少女が気取ったポーズで敬礼する。

 ドラゴンはアスファルトを傷つけないように足の鉤爪を引っ込め、翼を器用に折りたたみながら校門をえっちらと潜り抜ける。


「待てい、鈴木ドラゴン京一郎!」

『なんでしょうか週番さん』

「貴様の背中で勝ち誇っている鈴木花子を生徒指導室に連行したいのだが」


 花子という名に、ピンク髪の少女が強張った顔になる。


「は、花子なんて知りませんわ。私の名はフローラ! 気高く可憐な一輪の花、フローラ・D・ウッドベルですわ!!」

『花ちゃん、もう高校生なんだから訳わかんない通名(ソウルネーム)を使っちゃだめだよ』

「訳わかんなくありませんの! エレガンテの国から輿入れしたのに納豆と鯵の開きを朝食に欠かせないお母様の方が訳わかんないですの!」

『とにかく生徒指導室に連れて行きますねー』

「お兄様の、ばかー! あほー! おたんこなすー!」


 背の上でぎゃあぎゃあ叫ぶ花子をなだめつつ、ドラゴンはいつものように校舎に消えていった。

 その後ろ姿を見届け、角刈りの風紀委員は深くため息をついた後に校門の閉鎖を指示した。




 これが学園における鈴木ドラゴン兄妹のよくある光景の一つである。

【登場人物紹介】

・鈴木ドラゴン京一郎

十七歳。高校生(普通科)。県内有数の進学校に通う。二年生。磨くと鱗が輝くのだが、眩しいと苦情が出るのであまり掃除させてもらえない。飛行能力があるが非行はあまりしない。

風紀委員とは割と仲が良い。

・鈴木花子

鈴木ドラゴン京一郎の妹。たぶん年下。人類。どうすれば兄と結婚できるのか日夜研究している重度のブラコンであり、兄をイケメンであると心底信じている美少女。淫乱ピンク。ドラゴンカー〇ックスという語句をネットで知って以降、兄を乗用車に近付けないように苦労している。



・風紀委員の皆さん

 信じられないけど作中でも屈指の常識集団。学園生徒が非常識な振る舞いをするたびに尻拭いさせられている。

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