淹れたての珈琲
詩織がいつも通り仕事終えて帰ろうとしたその時、珍しくマスターの市井が厨房から出てきた。
「詩織ちゃん、ちょっといいか?」
「えぇ、私は構いませんけど、、マスターが出てくるなんて珍しい!」
詩織は少し驚いた。と言うのも、普段は仕込みの手を止めずに「お疲れ様」と声だけで挨拶するのが常であったからだ。
「実は、昨日の夜、ちょっと面白いお客さんが来てね。それ、何か小説のヒントになるんじゃないか、と思ってさ。」
「有難うございます。是非聞きたい!」
「じゃ、新しい珈琲淹れるからちょっと待ってて。」
「やったぁ~嬉しい。」
席に戻って待つ事にする。
少しして、市井がカップを2つ運んできて、向かいの席に座った。
詩織は淹れたての珈琲の香りにほっとする。
「いつ飲んでも~イッチーのshionブレンドは最高です!」
マスターと呼んだり愛称であるイッチーと呼んだり、その時々で使い分けている。今日は、これから何かわくわくする話が聞けそうなので、友達に倣ってそう呼ぶ事にした。
「詩織ちゃんに褒めて貰うと一日の疲れが取れるよ。」
そう言って優しく微笑む。
「イッチー、面白いお客さんって、、一体どんな人だったんですか?」
「勿論初めての客なんだけど、それがね、ちょっと変わってさ、、。昨日の閉店間際にきて、どうしても今、shionブレンドが飲みたいけど良いか?って頼まれて、まぁ、ブレンド1杯くらいならっと思ってOKしたんだよ。で、美味しい美味しいって言いながら飲んでくれたんだけど、、それが、そのまま立て続けにお代わり3杯!」
「えっ?4杯飲んだって事ですか?」
「そうなんだよ。喜んでもらえて嬉しいけど、、時間にして15分位かな?4杯だよ4杯!でね、時計見て、本当ならもう一杯飲みたいけど、行かないといけないって言って、、お釣りも置いて帰ったんだ。他愛のない話かもしれないけど、5杯飲みたいって言ったお客さん、このカフェshion開いて8年になるけど、初めてだったからちょっと吃驚してさ。」
「5杯!凄いですね、それっ!勿論、shionブレンド超美味しいから~何杯でも飲みたい気持ちは分かります。ただほんの15分で4杯、時間が許せばもう1杯って、、なかなかね。確かに面白いと言うか、不思議と言うか、、。」
「この話、ちょっとどうかな?っと思って。」
「マスター、有難うございます。是非使わせていただきます。美味しい珈琲も頂いた事だし、早速家に帰って頭捻ってみます。」
「少しは役に立ったかな?珈琲4杯の男の話、楽しみにしてるよ!」
詩織は~この話をちょっと現実離れした物語に仕上げてみようと思った。