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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
1章 目覚めの島
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7話 初対面

戦闘シーンは書いてると楽しい。

「こんにちは。昨日ぶりと、一昨日ぶりですね。島から出るまでよろしくお願いします」


 太陽が中天を通り抜けた頃、一度自力で歩き回ったおかげか以前よりも浅く感じる森を抜けて、事前に聞いていた平原に到着した。

 エルフは全身を覆うローブを改造したような、動きやすそうな軽装備に木製の杖。猫系獣人のほうは、事前に聞かされていなければ不信に思うほど何もつけていなかった。胸元と腰回りに布を纏わせ、手にはガントレットを身に着けていた。戦闘スタイルの関係でそうなったらしく疑問に思わないようだが、前世の記憶があるアレットから見ると二人とも露出度がかなり高い。年齢が一桁なので、欲情するようなことはないが。


 ちなみにアレットも元々水中で戦うことを想定し鍛えられ、防御力よりも動きやすさを重視しているため、分厚い鎧の類は装備していない。武器らしい武器は攻防に使える頑強さが取り柄のガントレットと背中の弓だけであり、他には薄着の衣服に海の魔物の繊維を編み込み高い対物対魔性能を付与されているくらいだ。


「よろしく。モアナでいい」

「ええ。こんにちは。改めて私はソフィアよ。早速だけど模擬戦をしましょう」


そういって言葉を返したソフィアは手にしていた杖をこちらに向け、呪文を唱え始めた。アレットは咄嗟に【怪力】で腕力を引き上げ、拳で腹部を破壊し殺そうとするが、モアナが獣人の俊敏性を生かし蹴りかかって来るのが目に入り、慌てて距離をとる。


「風の力よ、我が手に集いて我が敵を切り裂け【風刃】」

「【飛斬脚】」


 ソフィアが風の刃を放ち胴体を切断するべく地面に水平に放たれ、モアナが足を払う様に蹴りで斬撃を飛ばしてくる。


「【身体活性】【流拳】」


それに対しアレットは格闘術の武技で対抗する。魔力を呼び水に身体能力を上昇させ、流れるような動きで風の刃と蹴りの斬撃を回避し、その勢いのまま魔術師であると思われるソフィアに拳撃をたたきこむ。


「【身体活性】【流拳】」


アレットの反撃に対し獣人の少女モアナは、なんとアレットと全く同じ武技を使い迎えうつ。

攻撃を回避しカウンターを仕掛けたアレットよりも、蹴りの飛ぶ斬撃が回避されたのを確認してから格闘術の武技を使用したモアナのほうが初動は遅い。にもかかわらず、アレットがソフィアにたどり着くより早く、モアナの拳はアレットの拳を正確かつ正面から殴り壊した。

もしもアレットが【物理耐性】スキルを習得していなければ、アレットの拳は拉げ肩にかけて骨が砕けていたと直観できるほど重く鋭い一撃だ。


「っ!」


 骨が砕けるような激痛に顔を歪めながら即座に認識を改めた。目の前の獣人の少女は、少なくとも格闘術の技量は自分よりも上だと。


同じ武技をぶつけ合った場合、スキルレベルが同じ場合は相殺される。にもかかわらず自分が押し負けたのは、能力値か技量によほどの差があるということだ。自分よりも遅く動き出したにもかかわらず自分と同じ武技を発動させ、それが自分よりも早く威力のある一撃なのだから。

加えて彼女は獣人であるが、猫系獣人という殴り合いよりも爪などを用いた戦い方のほうが得意のはずなのだ。


 女性であるとか、種族的に身体能力に優れている獣人だからとか、アレットとの生物としての違いはあるが、なんにせよ格闘術スキルでは勝てないだろう。


 アレットは近接戦は避けようと後ろに跳ね飛ぶ。


 「【剛拳】」


しかしモアナはそれに追撃するべく張り付き、首を粉砕する勢いで拳を放つ。


「【鉄壁】【鉄体】そして【剛拳】!」


 しかしその寸前でアレットは、体を強引に捻りお返しとばかりに同じ武技で迎え撃つ。格闘術だけでは負けると理解しているため盾術と鎧術の武技も同時に発動する。ガントレットを盾にように使い、盾術でガントレットの耐久性を向上させ、鎧術で自身の防御力を向上させ、格闘術でかかる負荷を無視して魔力を過剰に使い武技を通常以上の威力で放った。

加えて装備の性能の違いもある。アレットのガントレットはランクの高い魔物を素材にした、特筆できる取り柄がないが、その代わり頑強さには特別優れている。対してモアナのガントレットは黒曜鉄を素材にした頑丈なものであるが、何年も取り換えることができずに消耗している装備だ。


 結果、今回はアレットの拳はモアナの拳に撃ち負けず、互角にぶつかり合いお互い後ろ向きに飛んでいく。


(‥‥ここまでしてようやく互角って、俺と同じくらいじゃなくて、全体的に俺以上の強さと思ったほうがいいかもな。)


 ここまで突発的に始まった戦闘だが、相手との距離が開いたので少し考える余裕ができた。


(模擬戦と言っていたはずだけど、かなり殺す気できているよな。船での訓練でも先生たちは普通に殺しに来てたけど、前世の記憶によると普通は訓練では相手を殺すようなことはしないはずだけど……。

きっとこの世界では訓練でも殺す気でやるのが普通なんだろう。なんで模擬戦がしたいのか分からないけど、そうと分かれば俺も遠慮は無しだ。)


「―――――」


遠慮せずに全力で行くべきだと判断したアレットは歌声の様な甲高い声を発する。アレットの得意とする【歌唱】スキルと、呪文の詠唱を組み合わせ歌唱詠唱と呼ばれる技術だ。歌を歌う様に滑らか勝つ素早く呪文を発動でき、人によっては接近戦をしながらも使用できる。

 アレットの水属性魔術が発動し、地面から水が染みだし、アレットを中心に地面が水辺に変化していく。


「ちょ!うわ滑る!」

「爪もたたない……」


 ソフィアとモアナは突然水辺となった地面にてこずっている。普段のように動き回ることができず、たまらず森に向かい木に登ろうとするが、アレットが次々と魔術を発動させ

水の壁を作りそれを阻む。


「火と風の力よ螺旋となりて周囲を燃やせ!【旋風炎】」


 逃げられないと判断したソフィアは周囲の水を蒸発させるために火属性魔術と風属性魔術を合わせた複合魔術を使用する。

 本来は森や草原といった草木のある場所では火属性魔術は使わないものだが、平原が水で満たされている場合は本来も何もないのでためらいはない。


 しかしソフィアの目論見に反して水辺は拡大を止める程度になった。ソフィアは魔術を強化するパッシブスキルを有しているが、アレットも自己強化:水辺のように自己強化系のスキルを有している。加えて根本的にアレットの水属性魔術のほうがスキルレベルが高いこともあり、ソフィアは全力で魔術を発動させているにもかかわらずアレットが片手間に魔術を発動するだけで拮抗状態に収まった。


 「【氷矢創造】【一射百連】」


そしてアレットは自分が最も得意とする弓術で戦うことにした。水属性魔術を並列に使用し氷でできた矢を作り、一射が百の矢に増加する武技で殺しにかかる。アレットも完全に殺しにかかっている。


「殺意が高いわね!【上昇気流】」


 逃げ場がないと判断したソフィアは周囲一帯に上方向に風を起こし、自分はモアナと共に地面に伏せ矢を躱し切る。アレットは自信のある攻撃だったが完璧にいなされたことに驚いた。


 それにしても殺意が高いとなんだろう。お互い様の範疇だと思うのだが。


 本来は今日中にダンジョンに挑むはずだったのだが、殺し合いの様な模擬戦は日が暮れるまで続いた。





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