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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
1章 目覚めの島
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6話 夢の中で

考察回的な。

五感も四肢もすべてが曖昧で上下左右もわからず、今どのような状態なのか、なぜこうなったのかもわからない。時間の感覚も不安定で自分の状態さえ不明瞭。まるで夢の中にいるようだ。


どのくらいの時間が流れたのか分からないが、次第に「足元」が分かり、「足」と「胴体」、そして「頭」が確立し、「自分」をはっきりと認識できるようになった。


自分は今、夢を見ているのだろうと、夢うつつの頭でわかった。

見辺り一面が真っ白で、現実か分からずぼんやりしていると、目の前にひときわ目立つ、神々しい白い光を放つ道が生まれた。


「これは、進めということですかね」


なんとなくこの道を進めと言われているように感じ歩いていくと、目の前に黒い鉄と紫の風でできた扉が現れた。


 門に足を踏み入れる。すると景色と感覚が一変した。


 『うん?』

 そこは左右で景色がはっきりと分かれた不思議な空間だった。

 右側には、見上げれば天に届かんばかりの樹木が立ち並び、大地には大小様々な草木が生え、花が咲き、果実が実っていた。様々な鳥と獣が憩う泉と清流が流れ、空には暖かな太陽の輝きがあった。


 左側は、土と砂が大地を覆う荒廃した都市のような光景だ。一面に見たこともない鉄の塊が転がり、空中を紫雷の奔流が埋め尽くし、天と地をつなぐような塔が乱立している。


 そして左右の空間の境目の右側には、妙齢な女性が切り株に座っていた。背中から妖精の羽を生やし、初々しい少女にも、大人の女にも見える。ただこちらを慈しむ表情を浮かべていることは確かだ。

 そして左右の空間の境目の左側には、黒い軍服の様な服を着た人間が宙に浮かんでいた。男性にも女性にも見え、目に映るものすべてに目を輝かせる少女の様な、この世の全てに怯える少年の様な、この世のすべてを知り尽くした賢者の様な、そしてその全てにも見える目をしている。


 『――――――――。』

 『――――、―――――。』


言葉の意味は分からない。だが、それを聞いて、アレットは不思議と確信した。彼らは自分たちが長年信仰していた『夢の女神』ルメアと『鉄と知恵の神』ソルカなのだと。


アレットが驚きのあまり硬直していると、二柱から紫色の蝶と鈍色の球体が飛来してきた。それは魔力の塊というよりも、神力というべき神々しさを放っていた。

蝶と鉄球はアレットに触れるとはじけ飛び、アレットを包み込んだ。


そして、意識は急速に覚醒していく。


≪【ルメアの加護】を獲得しました!≫

≪【ソルカの加護】を獲得しました!≫

≪【ルメアの加護】を獲得したことにより、ユニークスキル【思考存在】を獲得しました!≫

≪【ソルカの加護】を獲得したことにより、ユニークスキル【知恵の書】、【神鉄骨格】を獲得しました!≫





 夢から覚めた途端に鳴り響く、ステータスに更新があったことを知らせる脳内アナウンスの内容に眩暈がする。

 「【ステータス】……本当に加護とユニークスキルが増えてる。聞き間違いじゃないようですね。でも、なぜ?」


 【加護】とは神が人間に与える祝福のことだ。主な効果は成長限界の拡張と成長速度の上昇、そして加護を与えた神の属性との親和性の上昇、この三つだ。どんな神であっても効果は同じであり、加護の獲得と同時にユニークスキルも得たという話は聞いたことがない。


「でもまあ、このタイミングで偶然ということは無いでしょう。きっと俺はもともと素質があって、加護をもらったことが引き金になった……とかでしょう。たぶん。」


 きっと、たぶんという言葉が並ぶ考察に説得力などないが、現状これ以上の理屈は建てられないので、これで十分だろう。


「あの獣人の……モアちゃん?とも会ってみて、二人とダンジョンに潜るのは昼過ぎですし、今のうちに新しいスキルの検証をしておきますか」




 アレットは3つのユニークスキルについて検証するにあたり、ある程度は効果の予想をしていた。加護がきっかけになったのならば、スキルの効果もその神の性質に近いものだろうと。

 特別な存在の証ともいえるユニークスキルを得たことで高揚し、意気揚揚と海辺に向かった。


「【神鉄骨格】、発動」

 試しに口にしてみると、なんとなく全身の骨に何かが混ざったように感じる。発動する前から骨の存在感が今までよりも増していたように思うが、今は何となくではなく、それが明確に感じられる。

 

「いまさらだけど、骨格ってことは、骨だよな。肉を切って見てみるわけにもいかないし、どうやって確かめよう」

ここにきてアレットは、今更なことに気が付いた。どうやって検証すればいいのか、これでは実験も検証も何もないではないか、と。

とりあえず、いままでは肉体への付加が大きすぎて使えなかった武技でも試してみるか。


「【限界突破】、そして【廻転豪弓】!」

 使い捨てにできる水属性魔術で作り出した氷の矢をつがえ、【限界突破】スキルで肉体の限界を超えた力を引き出し、弓を絞り壊す勢いで引き、海に向けて今自分が使える中で最も威力のある武技で矢を放つ。矢は周囲の空気を巻き込み威力を増しながら海に大穴をあけた。以前なら腕に膨大な負荷がかかり骨が飛び出したが、【神鉄骨格】を発動している今なら肉が裂けた程度で済んだ

 なお、武技とは技や武器に魔力を纏わせて発動する、通常よりも優れた攻撃のことだ。達人ならば数十数百の斬撃を放ち、雲まで届く矢を放つことも可能だ。

 初心者であっても、通常よりも威力のある矢を撃ったり、斬撃を飛ばすことも可能である。


「……すげえ痛い。でも問題なく発動できましたね。肉が避ける程度なら魔術で治せますし。というか心なしか威力が上がっているような?さすがは神鉄……オリハルコンの骨格ですね」

 

 結果に満足し次の検証に移る。


「【知恵の書】……、知恵と鉄の神の加護ですし、こちらは知恵に関するユニークスキルでしょう。名前から様々な知識が書かれた書物が閲覧できる……みたいなものかな?」


 【知恵を鉄の神】ソルカは鉄と言う地属性と、知恵という記録や蓄積に属する性質を持つ。そのため加護をきっかけにユニークスキルを得たならば、当然そのユニークスキルの性質もその加護を与えた神の性質に近くなる。

 しかし、性質が近いというだけでは具体的な内容が絞れない。


「とにかく発動するか。【知恵の書】発動」


 そう口にした瞬間、アレットの目の前に一冊の本がステータス画面の様に表示され驚くことになる。うっすらと予想はしていたが、そうきたか、と。


「いや、なんで白紙なんだよ。船の作り方とかこれで分かるかなって期待したけど、これはどんなユニークスキルなのか全く分からな………分かった」


 初めは全てのページが白紙だったが船と口にした瞬間、船に関する書物や論文の目録が一斉に表示された。よく見てみると船の作りかたに関するものばかりだ。船と口にしたからか、船の作り方が知りたいと思ったからかは不明だが、これはアレットが知りたい知識を書物という形で教えてくれるのだろう。

 いまのアレットにとってまさに一番欲しいものだ。


 「いやでも、この書物はどっから持ってきたんだ?書き方や口調が本ごとにばらばらだ。ソルカが書いたわけじゃないだろうしな。

 ……いや、これソルカに奉じられたものか」

アレットはざっと書物に目を通して、これらが祭りなどでソルカに信仰の証として奉じられたものだと気が付いた。


 この世界において、神々に向ける信仰心を表す方法は神の性質によって異なる。戦いの神への信仰を示すときは、神像の前で武術を披露する。狩りの神へは仕留めた獲物を捧げる、芸術の神へは演奏や描画である。そして知識の神へは、神像の前で信徒たちが研究成果を発表し合うのだ。この表示されている書物は、そうやってソルカに奉じられたものだろう。

 表示されている書物に、何年か前に船について研究していた人が、祭りの時に捧げていた本の内容と全く同じものがある。アレットが気が付いたのはそのためだ。


「じゃあこのスキルは、ソルカに奉じられた知識を閲覧できるスキルってとこかな?となると俺に根付いたスキルじゃなくて【御使い降臨】みたいな神がいないと使えないスキルかな?

 いや【神鉄骨格】は俺の体に作用する俺のスキルだし、同時に発現した【知恵の書】は神がいないと使えないなんてことがあるのか?そもそも最初の白紙は何だ?ソルカに奉じられた書物から検索するなら、書物の形にする意味はないよな。じゃあなんで……。

 あ!ひょっとして」


 そこでアレットは海にいる魔物に目を向けて、「鑑定」とつぶやいた。

 すると、その魔物のステータスが書物に表示された。


 「やっぱり!これは【鑑定の魔眼】としても使えるのか!」


 この世界では自分のステータスを確認することは誰にでもできることだ。【ステータス】と口にすれば誰でも自分のステータスを確認できる。これは無属性魔術に属する魔術であり、魔力を持っていなくても発動できる神が作り上げた最も簡単で重要な魔術ともいわれている。

 しかし、他人のステータスを確認する方法は、無いといっていい。自分の意志でステータスを開示することはできるが、無理やりステータスを覗き見ることは不可能である。そしてその例外が【鑑定の魔眼】であり、アレットの【知恵の書】である。

 しかも【知恵の書】は知識を表示するものであるため、生き物のステータスだけではなく、島に向けて使用するとこの島の地図まで表示された。


 結論として、【知恵の書】は【鑑定の魔眼】などの上位スキル、もしくは上位の複合亜種スキルと判断できる。

 まちがいなく、アレットにとって今後もかなり役立つスキルである。


「まちがいなく便利だけど、ステータスの項目が少ないな。あと、地図もかなり粗い」


 しかし当然、万能のスキルというわけではなく、制限がある……というよりも、このスキルを扱い切れていないようだ。アレットは自分のステータスを確認したところ、【知恵の書】には1レベルと表示されていた。

ということは、アレットは【知恵の書】というスキルの習熟度が見習い程度であり、扱える情報が未熟なのだろう。入手したばかりなので当然だが。他のスキルと同じように、使い続けスキルレベルを上げれば表示できるステータスの項目や地図の精度、閲覧できる書物も増えるだろう。


「このスキルは大当たりだな。じゃあ最後は【思考存在】か。ちょっと予想もできないな」


 【夢の女神】ルメアの加護をきっかけに目覚めたユニークスキルなのだから、夢に関係するスキルなのは間違いないだろう。夢とは人間が睡眠時に無意識に見る何かであり、思考とは人間が起きているときに見る夢という説もあるので、思考と夢は同じだと解釈できるので、これはいい。

 しかしそこに存在と続くと、どんなスキルなのか予想できない。


 「思考存在……思考する存在?そのままだな。それだとすべての人間、すべての生き物が当てはまるな。どういうスキルなのかも分からない。じゃあ思考した存在?いや同じだな。

 とりあえず使ってみるか【思考存在】発動」


 しかし、何も起こらなかった。魔力が消費される感覚もない。


 「んー?アクティブじゃなくて、常に発動しているパッシブスキルなのか?」

 ユニークスキルは一つの括りでまとめられており、本人も入手してすぐにはアクティブかパッシブかを判断できない。比較的有名なユニークスキルならばわかるが、アレットが入手したユニークスキルは他では聞いたこともないものだ。


「でも何かが変わった感覚もないんだよなー。何かがトリガーで発動するとかかな?いや特定のイメージがないと発動しないアクティブスキルの可能性まるか。

 思考存在……。あ。ひょっとして、思考が存在ってことか?」


 ふと思いついたことを試すように、アレットは手のひらに火球を創造する。自分には適性がない、火属性を想像……有るように思考するのだ。

 すると手のひらに有ると思考したように、火球が出現した。


「やっぱり!思考したことが存在するようになるのか!」


 アレットが突き止めた通り、【思考存在】とは、思考したことが現実に存在するようになるユニークスキルなのだ!

 頭の中で火球を想像すると現実に火球が創造される。剣を想像すると、現実に剣が創造される。頭の中で臨むものを創造し、魔力を消費することで、無から有を生み出す。それが【思考存在】だ。


 「でもこれ、思いのほか不便だな。水に関するものなら、水属性魔術を使ったほうが魔力の効率がいいし」

 

 その後アレットは火属性だけでなく、空間属性、時間属性、闇属性など適性のないすべての属性魔術や、手に触れずに物を動かす超能力じみた現象も起こせることを確認した。

 しかし、魔力の効率があまりにも悪いことも同時に判明した。適性のある魔術ならば、正しい手順で発動したほうがよさそうだ。もちろんそのデメリットを考慮しても、適性のない魔術や物質の創造ができる以上、並外れたスキルだが。


 これで検証も済んだ。


「さてそろそろあの人たちと待ち合わせに向かうか」





・名前:アレット

・種族:人種(人魚)

・年齢:8歳

・称号:無し

・ジョブ:水属性魔術師

・レベル:70

・ジョブ履歴:見習い戦士、弓術士、錬金術師

・能力値

生命力:280

魔力 :532

力  :120

敏捷 :161

体力 :208

知力 :389


・パッシブスキル

水属性耐性:5Lv

物理耐性:3Lv

魔術耐性:3Lv

状態異常耐性:3Lv

怪力:2Lv

能力値強化:水辺:3Lv

自己強化:水辺:3Lv


・アクティブスキル

錬金術:6Lv

弓術:5Lv

鎧術:3Lv

盾術:3Lv

格闘術:3Lv

無属性魔術:1Lv

水属性魔術:6Lv

土属性魔術:3Lv

魔術制御:5Lv

家事:1Lv

歌唱:6Lv

指揮:2Lv

限界突破:2Lv


ユニークスキル

水の祝福

ルメアの加護(NEW)

ソルカの加護(NEW)

思考存在:1Lv(NEW)

知恵の書:1Lv(NEW)

神鉄骨格:1Lv(NEW)



毎週日曜日に投稿、したい。

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