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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
1章 目覚めの島
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4話 明日に向けて

 日も落ちて夜行性の生物が活動しだすころ、アレットは最初に流れ着いた浜辺で今日遭遇した人間について考えをめぐらし、とても焦っていた。


「あの女の子はいったい何者なんでしょうか。有人島ではないようですけど、俺と同じようにこの島に流れ着いて、そのまま住み着いたといったところですかね」


ほんの一日であってもこの島の森や砂地を移動すると服は魔物との戦闘や、風が運んでくる土砂ですぐに汚れてしまう。しかし、アレットが見た少女は洗い立てのような綺麗な服を着ていた。おそらく、ごく最近この島に来たか、この島で文化的な生活ができる環境を作り住んでいるのだろう。


いまアレットが優先していることは、この島から脱出できる手段を探すことだ。あの少女が自分より長くこの島に居るのならば、今のアレットよりも詳しい知識を持っているだろう。自力で走り回って島を探索するだけでなく、すでに知識を持っているであろう人に質問することでより詳しく調べることができる。

加えて、島からの脱出を最優先にしているが、それ以外の目的を決めていないわけではない。船上で生まれ育ったアレットにとって森で遭遇したゴブリンすら初めて見る魔物であり、初めて扱う素材だ。ほかにも自分が扱ったことがない魔物や薬草などの素材がこの島にはあるかもしれない。そうそうないことだが、いままでに作れなかったマジックアイテムの開発や、今持っているマジックアイテムの改良に役立つから可能性がなくもないのだから、積極的に調べておきたい。

一瞬見ただけとはいえ、あの少女がそういった錬金術の知識を持っている風貌ではなかったが、一応は友好的な関係を築いておいたほうがいいだろう。


しかし、これはあくまでお互い平和的に話が進んだ場合だ。あの少女が平和的な性格ならば好都合だが、何より避けるべきは展開は、彼女がアレットよりも強く、突然現れた異分子であるアレットを殺しに来ることだ。

真っ昼間から木の上で昼寝をしていたあの少女が怪しいから・よそ者だからと殺しに来るような気性には見えなかったが、アレットは自分の人を見る目に自信などない。万が一戦闘になった場合、アレットは人間を殺したことはないため、相手の戦闘能力にかかわらず自分がが死ぬ可能性もある。


そもそも今の自分は頼れる人どころか、知っている人すらこの世に一人もいないのだ。彼女とは友好的な関係を築いておきたい。


「うっかり逃げてしまいましたが、明日にでも挨拶してみますか。ポーションとマジックポーションを手土産にすれば、話くらいはできるでしょう。」

 

 島を探索したときに採取した魔力草と海水、【錬金術】スキルを使い魔法薬を作っていた。ポーションは生命力を回復し、マジックポーションは魔力を回復させる。アレットの【錬金術】スキルはレベル6。生産系のスキルでレベル6は人間社会では、大国の首都で店を構えるレベルだ。

なお、船ではレベル6で一人前であり、さらに上が大勢いたため、アレットは自分が優れているとは思っていない。


「あ。そういえばあの少女以外にもいるんでしょうか」


島を探索した結果、この島に大勢が生活する人間の集落はないことはわかっている。住人がいても、居住空間の痕跡すら見つけられないとなると最大5人もいないだろう。真っ昼間から昼寝しているあの猫系獣人の少女にまともな生活能力があるとは思えない。

アレットが見た少女が幽霊や人間に化ける魔物でない限り、あと最低でも一人はいるだろう。


「この島ですぐ作れるのはポーションくらいですし、マジックアイテムのメンテナンスだけでもしておきますか。」


生まれた時から一緒にいた人間以外の人間との接触だ。少し緊張する。

緊張を忘れるために、今日使用した弓やテント型のマジックアイテムを整備してから眠りについた。






 「そういえば、今日、見たことない人間をみたよ。」


 猫系獣人の少女モアナが共に生活しているエルフの少女ソフィアに、思い出したようにそう言ったのは、洞窟にある住居で眠りにつく前だった。


「・・・モアナ。そういう大切なことはもっと早く、はっきりと言ってちょうだい。

 何もされなかった?どんな人だった?追手なら今すぐにでも逃げたほうがいいけど、そういうわけじゃないみたいね。」


 ソフィアはモアナの首根っこをつかんでじゃれるように揺らしながらそう言った。

 もしもソフィアたちを始末するために国からの追手が来たならば一大事だが、モアナの様子からそれはないと判断した。モアナは寡黙で感情の起伏が少ない性格であるが、本当に大変なときはてきぱきと動くと信頼しているからだ。 


 「うん。同い年くらいの男の子だったよ。たぶん人族。目が合った瞬間逃げていったけど、たぶん向こうも人間がいるとは思わなくて、びっくりして逃げたんじゃないかな。」


 モアナから見たアレットは、腕が立ちそうだけど普通の男の子。その一言に尽きた。男の子といっても同い年くらいなのだが。

 モアナたちはこの島から周囲を監視しているわけではないが、大人数が収容できる船が来ればさすがに気が付く。その様子は無かったため、あの少年を含めた少人数がこの島に来たか、たった一人で来たのだと即座に考察した。

 普通、子供を戦力として数えることはない。たしかに子供のころから戦士としての訓練を受け、才能があるものは子供でも大人並みの働きができる。

 しかし、それはあくまで大人と同程度なのだ。技量が高くても、経験が少ない子供は想定外の事態に対応しきれず、命を落とす危険性が高い。


しかし、あの少年は一人でこの岩山までたどり着いているのだ。この島の岩山の周辺は最大でランク5の魔物が出没する。ランク5は一人前といわれる戦士が複数人で挑むか、熟練といわれる戦士一人でようやく倒せる魔物だ。自分たちを棚上げするが、そんな危険な場所に平然といるのだから、あの少年はただの子供ではない。


複数人で島に来ている場合、あの少年が所属する集団は子供でも並外れた戦闘力を必要とする放浪の傭兵団か、魔物の駆除を信仰の証としている神官戦士といったところだろう。

もし一人でこの島に来たのならば、よほど才能のある戦士見習いが漂流し流れ着いたか、自分たちと同じように何らかの問題を対応しきれず、社会から追われたのだろう。少なくとも敵対せずに協力できそうだ。

 

 ちなみに、国が凄腕の少年を殺し屋として差し向けてきたとはモアナもソフィアも本気では考えなかった。自分たちは国の暗部から逃亡した形になったが、何か重要な情報を持っているわけでもなく、島に来るまでの逃亡生活でも、そんなことは一度もなかったからだ。


 「じゃあ、明日になったらその少年に会いに行ってみましょうか。この島での生活も結構大変だし、いつまでもこの島に居るわけのもいかないしね。」


 アレットと同じように、この少女たちもこの島から出ようと考えていた。


モアナとソフィアは、何か目的があってこの島に来たわけではない。理不尽な理由で追いかけてくる追手から逃げ続けてたどり着いたのだから当然だ。国に愛着はないし、会いたい人が居らず、行きたい場所もない。

しかし、何もないこの島で一生を終える気もない。出ていけるならばさっさと出ていき、新しい人生を歩みたいというのがモアナとソフィアの共通の考えだった。

 ・・・暗部に所属する両親のもとで生まれても、生まれてから数年は一般人としてそだったソフィアは女の子らしくおしゃれしたり甘いものが食べたいと考えているのに対して、生まれた時から暗部に居て人間性や女の子らしさといったものとは無縁なモアナは、もっと日当たりのいい場所で昼寝がしたい程度の考えなのだが、なんにせよ島から出たがっていることには変わりない。


「じゃあ島から出る前に、この迷宮は攻略したいね」


モアナもその言葉と境に、2人とも睡魔に逆らわず眠りについた


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