3話 二人の少女
主人公視点ではありません
褐色の肌と銀色の髪が特徴の猫系獣人の少女、モアナが生まれたのは、5大国と呼ばれる国の1つ、聖国フォーリウムのスラム街だった。
その少女の人生は恵まれたとはとても言えないものだ。
獣人の母親は非合法の娼婦で、顔も覚えていない男との間に生まれた。母親は堕胎すると肉体に悪影響があると娼婦ゆえに知っていたため、愛情なく産み落とした。そのため多少の金銭のために売り飛ばすことの抵抗はなかった。
モアナを買ったのは、聖国フォーリウムの暗部である公式には存在しない組織だった。そこは物心つく前の幼児から集め、魔力量や能力値などの才能あるものを選別し、国のためにのみ生きる兵を育てる部署だった。
組織では、戦闘訓練の基礎にもなる遊戯で教育する。まずは戦闘能力が高いだけの人形を作り、その後一般教養を教える方針だ。人形のように命令を聞くだけではなく、自らの考えで国のために死ねるような洗脳教育を施すには、一定以上の知性が必要だからだ。
この組織で知識と教養、そして戦闘能力を身に着けた。
だが、この組織は一般教養を教わる前の、モアナが5歳の時に壊滅した。
モアナには詳しいことはわからなかった。国の政治的な働きで取り潰しになったのか、闇の中で潰しあいが起こり狙われたのか、それとも正義感にあふれた考えなしでも攻めてきたのか。
王国の郊外の地下に作られた施設が崩壊していく中で、ここで死ぬのだと受け入れた。生まれてから戦闘能力だけを教えられ、言語能力以外の知識が皆無で自我といえるものがないモアナにとって、自分の生き死には頓着しないからだ。
「そこの獣人の子、なにをしているの。早く逃げるわよ!」
しかし、彼女はここで死なないようだ。
モアナの腕を引っ張って走り出したのは、ソフィアという金髪に尖った耳を持つエルフの少女だ。
彼女はモアナと同じ部署に最近連れてこられた。彼女は人格を優先して育てる部署にいたが、戦闘の才能がずば抜けていると判断され連れてこられた。洗脳教育を施される前だったらしく、この人間を人形のように育てる部署にいたとは思えないほど、活発な性格をしている。
「・・・手、・・・痛い。」
「我慢しなさい。ていうか自分で走りなさいっ!ここにいたら本当に死ぬわよ!」
この施設にはもう彼女たち2人しかいない。ほかの職員たちは死ぬか逃げたかだ。彼女たちはまだ一人前ではないためか、誰かに殺される標的になることにはならなかったらしい。そのうえある程度の戦闘能力もあるので、優秀な2人は生き延びることができていた。
「・・・ここから出てどうするの?」
「なるようになるわよ。生きていればそのうちいいことあるんだから」
崩壊する施設から命からがら逃げ伸び、しばらく歩いたあたりで、ソフィアはそういって落ち込んでいる(ように見える)モアナを励ました。
モアナは特別生きたいとは思っていないが、そこまでしてくれる少女に反抗する気もないため、一応は感謝しながら後をついて歩いた。
文字通りの意味でも地下にあった組織が崩壊しても、街は騒ぎになれども昨日までと同じように機能しているので、二人は当面は街で生きていくことにした。
そして、その初日でそれが不可能だと判明した。
それは2人が身寄りのない子供だから、というわけではない。そんな子供はこの国には腐るほどいる。ある程度の読み書きと計算能力、加えて戦闘能力もあるので年に関係なく働き口はいくらでもあるはずだ。
ただ、この国では獣人は差別対象であった。
この国では、人族、エルフ、ドワーフのみが【人間】だとされている。それ以外の種族は蔑まれ、人間以下の人間もどきとして扱われる。貴族や平民どころかスラム街であっても居場所はない。奴隷として買われているものが少数いる程度だ。
なお、2人がこのことを知らなかったのは、まだ宗教や国際情勢といったものは後回しにされ、能力のみを優先して育てられたからだ。いわゆる知識ではなく知能指数を優先した結果だ。
他に行き場所を知らなかった二人は半年ほどスラム街で身をひそめながら生活した。しかしモアナが獣人だと知られると石を投げられることはかわいいもの。過激な場合は殺しに来ることもあるほどに暮らしていけない環境だった。
「・・・ソフィアいままでありがとう。私はいいからソフィアだけでも生きて。私と一緒にいたら死んじゃうよ」
「見捨てるわけないでしょ!一緒に生き延びたんだもの。死ぬときは一緒よ。
でも、このままだと本当に死んじゃうかもね」
猫系獣人種のモアナは能力こそあるが精神は未成熟な子供だ。生きてみようという誘いに抵抗する気力もないため誘われるがままに生きていたが、過酷な日々に心が折れてしまい、無二の親友のように思い始めていたソフィアだけでも生かそうとした。
だが、無意識モアナの面倒を見ることで生きる原動力にしていたソフィアは、根本的な性根が善人であることもあり、見捨てずに生きていくことを改めて決意した。
しかしこの街では命の危険があるため、危険を冒してでも安全に暮らせる場所に逃げることにした。
この世界では町や村以外では、どこであっても命の危険がある。地球のように獰猛な獣や自然災害もあるが、何より魔物の存在だ。
魔物は魔境と呼ばれる穢れた魔力によって汚染された土地に生息している。魔物にとって魔境は魔力に満ちており住みやすい環境だからだ。
しかし当然ながら例外も存在する。主に魔物同士の縄張り争いで魔境から追い出されたものだ。そんな魔物は魔境でない平原や森にも生息している。
当然、町と町をつなぐ街道にも魔物が出現する。もちろんランクの高い魔物は出現せず、ランク1か2が精々だが、一般人にとっては脅威である。
モアナとソフィアは戦闘能力はあるが、旅に有用な知識はない。誰の助けも得られない二人は人の目も魔物との遭遇も避けながら移動し、なんとか海辺の村にたどり着いた。
その村でも、彼女たちは不遇な扱いを受けた。幼いモアナとソフィアは、獣人が差別されるのは理解できない複雑な人間社会が原因だと考えたが、それは少し間違っていた。
なぜならこの国の種族差別は宗教的な理由で行われているからである。
モアナにもソフィアにも理解できなかったが、自分たちには理解できない理由であれど、差別されなくなることはないと理解した。
ならばまた別の場所に行けばいいと思うが、2人は組織が壊滅してから今日までひと時も休まずに逃亡生活じみた旅をしたことで心身ともに憔悴したため、もうほかに移動する気力は残っていなかった。
そして、幸運にというべきか、2人はその村に住むことができた。なぜなら魔境が近いにもかかわらずその村は戦える人が少ない、そして2人は戦闘能力があるため部分的に受け入れられたのである。
村のはずれに小さな小屋をもらい、魔物が村を襲ってきたとき以外の外出も認められなかった。しかし、2人にとってはようやく手に入れた安住の地である。魔物との戦闘も苦ではなく、そんな日々をしばらくの間送った。
そして村に住み始めてから半年後、再び逃げ出すこととなった。
その村で殺人が起こり、モアナが犯人にされたのである。
当然モアナは何もしていないが、この国では獣人は一般的に知性が低い野蛮な存在とされている。加えてモアナが無口で自分の扱いを他者に任せる性格も災いし、反論の余地なく処刑となった。
しかし宗教的に駆除すべき邪悪といわれている獣人だが、6歳の子供の首を跳ねることはどの村人もやりたがらなかった。そのため、いかだに乗せて海に流す島流しの刑になった。村の出来事は村で解決できることに限り、村の内部で裁くことになっているが、法律に記させていない私刑に等しいので、刑の内容は曖昧である。
当然共に行動しているソフィアも同じ刑にあった。
モアナはともかくソフィアは黙って波に流されるわけもなく、縄による拘束を解き、魔術で波に干渉し舵を取った。
「結局安全な場所ではなかったわね。ごめんなさい。ここからどうしよっか」
「・・・流されてもいいんじゃない」
「・・・?あの大陸に戻るより別の大陸や島にでも行きたいの?いいわね!そうしましょう!」
モアナは何も考えずに答え、ソフィアが深読みした結果。2人は漂流しながら島を探した。その後二人は、地図にもない島に流れ着いた。
そして2年後の現在、モアナとソフィアが8歳の時に、ソフィアは食材の調達に行き、モアナは昼寝をしているとき。
「・・・・・・人間?」
モアナが顔を上げると、いるはずのない人間が、そこにいた。
・名前:モアナ
・種族:猫系獣人種
・年齢:8歳
・称号:無し
・ジョブ:魔術士
・レベル:100
・ジョブ履歴: 見習い戦士、戦士、格闘士、
・能力値
生命力:584
魔力 : 195
力 : 325
敏捷 : 464
体力 :387
知力 :128
・パッシブスキル
気配感知:4Lv
治癒力強化:2Lv
・アクティブスキル
格闘術:5Lv
限界突破:5Lv
無属性魔術:4Lv
土属性魔術:1Lv
魔術制御:5Lv
家事:2Lv
・名前:ソフィア
・種族:エルフ
・年齢:8歳
・称号:無し
・ジョブ:火属性魔術師
・レベル:100
・ジョブ履歴:見習い魔術師、魔術師、風属性魔術師、
・能力値
生命力:284
魔力 : 595
力 : 125
敏捷 : 264
体力 :187
知力 :328
・パッシブスキル
魔力自動回復:4Lv
魔術力強化:4Lv
魔術耐性:1Lv
・アクティブスキル
無属性魔術:1Lv
風属性魔術:5Lv
火属性魔術:3Lv
魔術制御:5Lv
限界突破:2Lv
次の投稿も4日後です。あと2話投稿したら不定期になります。