表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
1章 目覚めの島
3/62

2話 一人きり

 アイテムポーチに食料が入っていたことも失念するほど動揺していたアレットは、七食分以上の魚を素手で捕獲したあたりで正気に戻った。

 

 「さて。ここからどうしましょうか。」


 日も落ちていたので島の探索は後回しにし、アレットは火をおこし焼き魚を夕食にしながら今後の方針を考えていた。


 これまでは周囲の期待通りに、昼間は戦士団の見習いとして働き、それ以外の時間は友達と遊び、趣味の歌や読書、家では親の家事の手伝いをしていた。アレットもそれに不満を覚えたことはない。

 しかし船団が壊滅し、それまでの生活基盤がもろとも消滅した以上、これまで通りの日常はもう存在しない。自分の食い扶持は自分で確保しなければならないし、身の安全も自分で守るしかない。……船で教わった戦士としての戦闘術があるので、人間社会ならともかく、今のように無人島でサバイバルをするならば全く問題ないことだが。


そこまで考えをまとめていたところで、アレットは無意識に涙が流れていたことに気がついた。


「あれ?・・・あー。俺はちゃんと、この世界に根付いた人間なのですね。」


 アレットが生まれ育った場所は、船だ。しかも人間社会とは断絶している。海という周囲に魔物が住みうる囲まれた空間であり、住民の数も全員がお互いの顔と名前を覚えられるほどに少なかった。そのため家族とは血縁関係に限らない。全員が家族であり、お互いを支えあって生きていた。とくに幼い子供は気にかけるように生活しており、まだ幼いアレットもその対象だ。

そのため一人で食事をすることは、実のところ生まれて初めてなのだ。


 人はその人の記憶と人格を持つことがその人である証明だ。

アレットは前世の記憶らしきものが蘇り、自分が「ルプス号で生まれ育ったアレット」である確証がなくなっていたのだ。今のアレットは、アレットの記憶と人格を有しているが、アレットではない人の記憶も有している。

 自分がアレットである確証がなく、ひいては自分が家族としての絆を育んだ船の住民たちとのすべてが消えうせたような感覚に陥っていた。


しかし生まれて初めて一人で食事をし、家族のぬくもりが全く存在しないことに涙を流せる自分に安心していた。

 自分ではない記憶と人格が混ざり合い、昨日までの自分ではなくなっているが、この世界の人間に関して涙を流せるほどに感情が動くならば、自分は確かにこの世界で生まれ育ったアレットなのだと確信できた。

 

 振りかけた塩以外の塩分を感じながら、アレットは家族と故郷を失った悲しみと、自分が何者なのかをかみしめていた。





 翌朝、泣きつかれながらも魔物除けの結界を展開してから眠りについたアレットは、朝日とともに目を覚ました。


 「結局昨日は何の方針も決められず寝ちゃったからな。今日は朝飯の後は、島の探索と・・・・・。あれ、それ以外にすることないのか?」


 アレットは今いる浜辺周辺に変化がないか調査した後、朝食をとりながら今後の方針を決めることにしたが、特にするべきことがないことに気が付いた。


 アレットは人間社会とは隔絶した船で生まれ、いずれ消滅することを受け入れながら信仰と研究を続けた集団の中で育ったため、完全な自由を手に入れたいま自分の意志でやりたいことというものが無いのだ。

 それこそ、今いる浜辺に拠点を作り細々と誰ともかかわらず死ぬまで過ごしても特に問題があるとは感じられない。


「いやいや、さすがにそれは人としてどうなのですか。8歳にして隠居生活というのも嫌ではないですが、俺にだってやりたいことくらいはあるはず。たぶん。」


しかし、船での生活以外は知識としてしか知らず、特に外の社会に関心がなかったころならいざ知らず、今のアレットには【地球】で生きた人間の記憶が蘇っている。

前世のように面白みのない人生とは違うものにしたいのだ。武を極めるのも面白そうだし、魔術や錬金術の研究に打ち込むのもいい。趣味の歌を誰かに聞いてほしいとも思うし、船には無かった山の幸も食べてみたい。船にいたころは興味がなかったが、世界中を旅するのもいいし、冒険者というものにも興味がある。船は壊滅したと受け入れているが、自分と同じように海に流された子供たちで、自分以外にだれか生き残ってやしないかと探しに行くのもいい。

 なんにせよ、このまま島にいては出来ないことだらけだ。


 ならばいつまでも島にいることはない。島の探索を早く終わらせて、早急に食料の安定した確保と、確実な脱出手段(船)を手に入れなければ。


「よし、善は急げだ。武具はアイテムポーチにあったし、さっさと探索しよう。

 まずは森の向こうに見える怪しい山から調べてみましょうか」





 アレットが流れ着いた島は、外側から順に砂浜と切り立った断崖、魔物や動物が暮らしている森、そして中心には異様に大きい山が一つあるような島だった。

 中心にある山は遠目に見た限りでは怪しい気配がするわけではないが、島の大きさに対して山の高さがあっていない。島は小さいわけではないが、山は目算で標高千を超えている。さすがに大きすぎる。

アレットは自分の気配探知能力や単独でのサバイバル技術に長けている自信はない。自分の手に負えない魔物が住み着いている場合は危険に飛び込むことになるが、島を調査するなら飛ばすわけにはいかない。

 それ以外に目立つ場所も無いため、目立つところから探索しようという単純な考えがないわけではないが。


 そうして島の中心にある山に向かって歩き出した。



「これが森ですか。本に書いてあったように、本当に緑一色で薄暗いですね。

 本にあったのは大陸の話ですが、島といっても結構大きいですし、こういうものなのでしょうね。」


 山に向かいまずは森に入った。船の上で生まれ育ったので当然森・・・というよりも木も見るのも初めてである。船にいた時は船内栽培と海藻類が基本だった。

 船が壊滅したことは悲しいし、まだ完全に立ち直れたわけではない。しかし船にいては経験できないことだらけの日々が始まったようで心躍っている自分がいるとアレットは自らを正しく認識していた。そして、自分はそんな自分に好意的であることも受け入れていた。


 今は目に映るものすべてが新鮮で輝いているようだ。

 アレットの視界には、生まれて初めて実際に目にする動植物であふれている。それは夢の神と知識の神を信仰し、その教義にそって生きていたアレットからすれば楽園のようだ。

 自分の足元に生えているのは類似点から生命力回復系のポーションに使える薬草だろうか。隣に生えているそれによく似た薬草は毒があるのだったか。遠くに見えるのはおそらく兎というものだろう。その向こうでよだれを垂らしている大きな生き物は熊だろうか。


「ゲギャゲギャ」

「グゲゲゲゲ」


「そして、あれは魔物ですね。」


 アレットは森に入って約1時間。微かに聞こえた謎の鳴き声の方向に顔を向けると、木々の向こうに人間には見えない人型生物と遭遇した。


「大人の腰程度の背丈に醜悪な顔、腰巻にこん棒。本に書いてあった特徴と一致しますし、ゴブリンという魔物ですね。【強射】【連射】。」


知的好奇心が刺激され興奮していたアレットだが油断はしていなかった。生まれて初めて見る陸の魔物に警戒しながら、先手必勝といわんばかりに弓術スキルの武技を発動する。スキルレベルが1レベル・2レベルで使用できる初歩的な武技だが、アレットの使用している弓はランク5の魔物であるワイバーンから作り出されたものであり、それを扱うアレットの筋力はゴブリンよりもはるかに上だ。


こちらに気が付いていないゴブリンは反応できず、放たれた矢はその頭部を側面から貫通した。


「ギャ?・・・・・・ギャ!」


そして目の前の同族が死亡したことにおもわず硬直したもう片方のゴブリンを、アレットが少し遅れて放った2本目の矢が胸を貫き絶命させた。





「・・・ふぅ。警戒しすぎたな。」


格下であるが生まれ初めてみる種類の魔物が相手であり、アレットは初めて一人きりで魔物を仕留めたこともあり、緊張してかいた汗をぬぐいながら矢と素材を回収に向かった。


「魔石はやっぱりないのか。ランク1の魔物は100匹に1つしかないと書いてあったけど。本当らしいな。というか、ランク1の魔物に武技を使うのはやっぱり過剰だよな」


魔物にはランクという項目が存在する。ランクの数値が小さいほど弱く、大きいほど高位の魔物である。

ランク1というのは脅威というよりも農業や漁業を邪魔する程度の魔物であり、一般人でも鍬や銛を使えば殴り殺せる程度である。当然武技など使わなくても倒すことができる。

ランク2は狼や猪などの危険な害獣と同程度の脅威であり、戦闘能力で生計を立てている兵士や冒険者などが必要になってくるのはここからである。


なお、アレットの場合は、武技を使わなくても純粋な技量でランク3までなら何匹いても倒せるだけの戦闘能力がある。


「いや。その辺も含めて調査だよな。本も1000年前の情報から更新されてないし、慎重すぎるぐらいがいいはずだ。魔力を節約しながらも安全にいこう。」


その後も様々な魔物と遭遇する。アレットは即座に仕留められる魔物は仕留めて、少しでも手こずりそうな魔物はやり過ごしながら進んでいった。


本当に安全を期すならば、この島に自分の存在を感じさせないように、魔物との戦闘はすべて避けたほうがいいのだが。・・・アレットは戦う力はあるものの、危険な魔物が多数存在している魔境での生き方は知らなかった。まだまだ子供なので学習していないことはできないのだ。

前世の知識はあるものの、戦闘能力があるため、慎重にいこうと考えていても、それを実行できていないのである。





そうして進んでいると森を抜けて山のある草原に到達した。

そして、全く想定していなかった事態に直面した。


「・・・・・・人間?」


自分と同じく10歳に満たない姿の猫系獣人の少女が、岩山のふもとにある木の上で寝そべっていた。



3,4日だと4日になる。ということで今後は4日後。確定。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ