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沈んだ船の後継者  作者: ライブイ
プロローグ
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0話 船が沈む日


見渡す限り人間の痕跡が存在しないほどの沖合で、ルプス号という船団が壊滅していた。



その船団を初めて見るならば、船だと言えるものはいないだろう。上空から見ると全体的に円形であり、甲板にあたる部分には学校や教会まである。都市が丸ごと水上に浮かんでいるような姿をしていた。


この世界では、人族の国々は長くとも千年程度で衰退を始める。長命種の国であっても一万年もすれば影も残らず消え去るのが普通だ。しかし、その船団は異常なことに神話の時代の終わりから、約十万年もの間存続していた。


その船団は、もとをたどれば廃れた無名の神を奉じながら航海を続けるだけの流浪の民だったが、ある時、国を追われた知恵の神を奉じる信者にして研究者たちを受け入れた時から少しずつ変わっていった。


しばらくの間はただの流浪の民であることに変わりなかったが、時代が過ぎ去るにつれ、船団の在り方も少しずつ変わっていった。

最初は、漁で得た魚や魔物、そしてほかの場所では高い価値のあるものを購入し、それらを陸に立ち寄る時に売り、対価にその土地の魔術や特産物を得るという、フットワークが軽い船である特徴を生かした商売を始めた。


しかし何の娯楽もない航海では誰もが暇を持て余す。元からいた船員兼住民たちは、後から乗ってきた者たちは研究成果を知恵の神への信仰の証とすると聞き、研究に協力し始めた。最初は暇つぶしであったはずがいつしか日常の一つとして研究に加わることになった。

人間社会の権力争いなどとは付き合いをしなかったため、純粋に武術や魔術、錬金術の研鑽を日常としている研究者たちと可能な限り情報の交流を行い、航海をしながら独自にアプローチで研究を重ね、長い時間の中で多くの国が滅び技術と知識が失伝しても残し続けることができた。


剣や槍などの一般的な武術だけでなく、砲術や槍斧術、それに双弓術や魔装体術などのマイナーな武術を船団全体で開発した。魔術においても火球や風刃などの代表的であり基礎的なものから、意思を持つ魔法生物を作り出す術や空間を生命属性の魔力で埋め尽くしそこにいるだけで生命力を癒す術など、実践的な魔術を生み出した。そして意図したことではないが、魔物は基本的に海中にいるので、武術にせよ魔術にせよ、水中でこそ本領を発揮するという特殊な特徴を持つ戦い方になった。


当然、一切の問題もなく順風満帆な航海ではなかった。人間社会と関わることで生じるデメリットを回避したが、同時に大きな問題が生じた。


それは、海に存在する魔物から自分たちだけで身を守らなければいけないことだ。



陸にある街や国は魔物の脅威に対抗するために外壁を築き上げるが、ルプス号が在るのは海である。海中という探知するのが困難な箇所に加え、都市のごとき巨体と例えても誇張ではない大きさを誇るルプス号よりも大きい鯨や蛸の魔物が存在するのだ。加えて、ルプス号は陸に立ち寄ることはあっても基本的に年がら年中海にいるのだ。最低でも十年に一度は大型の魔物に襲撃される。特に魔物が放つ穢れに汚染された魔海では、十年に一度が年に一度になる。

そうでなくとも、ある日突然城より大きい怪物に襲われるという与太話のような出来事が、最低でも一生に一度は起こりえる程度には、この世界は危険があふれている。


日常的に襲ってくる魔物に対して、当初は一部の戦士だけが戦っていたが、周囲を海に囲まれ援軍も避難先もない以上、どのみち戦士達が死ぬと他の者達も死ぬしかないため、女子供に研究者に音楽家などの乗組員全員が戦えるように実力をつける選択をした。


それは人間社会では反乱の際の危険性や教官の数などの問題で実現できないことだ。しかし、長い間同じ集団の中で共に暮らしている上に、同じ神を信仰していることで連帯感が強い彼らには反乱など起こらないという確信があった。そして常に船の上で暮らしている彼らは時間が大いにある。精神的な問題で魔物相手でも攻撃できない者もいたが、そういった者たちは錬金術を身に着け、ポーションやマジックアイテムの作成などで貢献した。


こうしてルプス号は神代が終わってから、およそ十万年間生き残り続けることができた。


当然十万年間何事もなく平穏だったわけではない。

信仰と研究の日々を送るとはいえ、集団である以上ときには派閥が生まれ不和が生じた。生まれてから死ぬまで船の上で過ごすなど人間として異常だと考え、大勢が船を降りることもあった。人間社会の国々からの干渉で、知恵の神への信仰の証だった研究成果を奪われそうになった。単純に強力な魔物の群れの襲撃をうけ、船が文字通り半壊した。それらによって滅亡しかけたこともあったが、時には知恵と力を合わせて、時には神の加護と導きによって、時には一切の知略を放棄し武力のみで、あらゆる困難を乗り越えてきた。




しかしそんな船団も、終わる時はとてもあっさりしていた。


無限ともいえる時間と数えきれないほどの世代交代を繰り返していくうちに、「なぜ私たちは研究を続けるのか、続けるにしても船の上である必要などない」。そんな主張をする者たちが大部分を占めることになったのだ。


人間社会の発展とともに外の世界で生きることを選ぶものが増えていくのに対して、他所から入ってくることはなくなったため、少しずつ衰退が始まった。かつて誇っていた猛者は数を減らし、錬金術の使い手も知識があれどもそれを生かせるものはもはや数えられる程度になってしまっていた。


結果として大半が陸にわたり、船は大半が使用されない区画になり、さながらゴーストタウンのような船になった。



それから千年、人間社会とのかかわりも完全に断ち、ほとんど惰性で航海を続け、それでも知識と技術と信仰を最後まで守っていこうと生活していたころ、水平線の彼方まで埋め尽くすほどの魔物の群れに襲われて壊滅することになった。


水中での戦闘を得意とし魔物相手にも戦い慣れている彼らは単純な戦闘能力では負けていないはずだったが、多すぎる魔物が相手では広すぎる船を守ることはできなかった。水中で呼吸が可能でも無限の体力を持つわけではない彼らは、拠点である船を失い終わりのない消耗戦をすることになり、船員も襲撃当初の半数を切った。援軍の当てもなく、もはや全滅するのみと半ば達観したように諦めていた時、長が命令を出した。


「この船にある書物やマジックアイテム、武具を集め、子供たちに持たせ別々に海に流す。我々は少しでも長く時間を稼ぐのだ。」


それは船員たちにとって、自分たちの子供たちを救う選択であると同時に、自分たちの命を完全に諦める選択でもあった。しかし、ただ死んでいくよりは間違いなく意味のある選択だった。

死を受け入れたものは怖いとでもいうのか、船が崩壊していく中船員たちは迷うことなく、魔物を足止めするものと物品を空間属性のバックに詰め込むものに分かれて、子供たちに自分たちの船団のすべてを託すことにした。


もちろん周囲には魔物が集まっているので海に流した瞬間食い殺される可能性はある。しかし、魔物は人間を害するという本能を持っているため、少数の子供たちではなく多くの人間がいる船団に向かう可能性が高い。


ほどなくして船団は全滅したものの、結果として数人の子供たちは生き残った。

その衝撃によるものなのかは不明だが、島に流れ着いた少年アレットは前世の記憶が蘇っていた。

3,4日ごとに投稿予定

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