心霊灯は異世界でも最強だった。
入学試験から一週間が経ったこの日は、入学式の前日だ。
俺とセーラは、制服に着替え、馬車で学校へ向かっていた。
その学校は、五年制の学校だから、家に五年間帰らないということになる。
「母さん、喜んでたなぁ。」
「お父さんは、泣いてたけどね。」
「セーラ、忘れるんだ。あれはあまりにも父親の威厳がなかった…。挙句の果てには、『五年間だとッ!巫山戯やがってッ!!この鬼嫁も連れて行けぇー!』と泣き叫んでたからね…。」
「お兄ちゃん、忘れられないよ。お母さん、すごい形相でお父さんを睨んでて、怖かったもん…。」
と、思い出したようで、怯える天使。
確かに、キレた母さんは怖い…。
「とにかく、セーラも合格出来て良かったよ。」
「うん、お兄ちゃんと一緒に入学できるから嬉しいよ。」
と、笑顔に笑う可愛すぎる我が妹。
「でも、これから無茶してはダメよ、お兄ちゃんッ!
「いくら、死なないからと言っても、私…。心配したんだからぁ…。」
と、セーラは涙目になってしまった。
確かに、再生能力があるからといっても、無茶しすぎたかもしれない。
吸血鬼の再生は無限ではない。
吸血鬼=不死身というのは、嘘で…。実は、不完全な不死身が正しい。
なぜなら、再生すればするほど、肉体は過労して、肉体に限界がくるからだッ!
………………………………………。
ごめん、俺も理屈は、分かってない。
昔、吸血鬼にしてもらった先輩が説明してたけど…、あんま覚えてないな…。先輩が『吸血鬼の死因の多くは、血または肉体だッ!』と言っていたのは覚えているけどなぁ。
ちなみに、吸血鬼の体液には、再生効果があり、その効果は人間にも通用する。
当然ながら、唾液にも擦り傷を治す程度の効果くらいあるが、ずば抜けて凄いのは、吸血鬼の血だ。
血は、全回復する強力な回復薬みたいなモノ。
だから、回復薬みたいに、吸血鬼の血をかければ、3分前に死んだ遺体でも再生して、完全復活となる。
つまり、吸血鬼の再生能力を支えているのは、血なのだ。体内にある血が少なくなると、再生しきれず灰になってしまう。
だから、吸血鬼は不死身でいるために、血を吸うのだ。
前世の俺は、血が足りず、再生しきれなくて、灰になって死んだ。
そして、俺は転生してから、血を吸っていない。
つまり、このまま、再生能力を酷使すれば、いつ、俺が灰になってもおかしくは無い。
俺は反省した。
泣き顔のセーラの頭を優しく撫でた。
そして、抱きついたのだった。
あ、シスコンじゃないよ。
☆☆☆
翌日。昨日は、入学試験の時にお世話になった宿に泊まった。
それから、なんだかんだあって、入学式会場に着いた。
会場は、アリーナ型の劇場みたいなところだった。
とにかく、広い。ただただ広い。定員数は3000人くらいだろうか…。
会場は、ステージを囲むように四面に、それぞれ、一階席、二階席、三階席とあり、席の数は、一面の一階席だけでも300近くある。二階席には、在校生たち、三階席には来賓、保護者の方々で埋まっている。この学園の生徒たちの制服は、学年別に違うようだ。ステージの中央には壇上があり、一階席右側の前列だけ司会席で、一階席右側の後列と一階席左側、後側には教官席が用意されている。
このことから、単純計算で在校生は、約1200人、教官は約600人と分かる。
入学生は、一階席前側に集まっていた。人数は、200人もいないであろう。あまりにも少ないため、一階席前側は、空席が目立っていた。
今回から、理事長が変わったためか、今回の試験はかなり厳しかったらしく、例年に比べ合格者はいないようだった。
これ、クラス対抗戦とかあったら、ゼッテー負けるじゃん…と、悲しんでいると、1人の教官らしき黒服の男が壇上に登る。
「今からッ!第52回、入学式を始めるッ!起立ッ!!」
黒服の声を合図に全員が立つ。
俺達もその場の空気に合わせて立った。
「礼ッ!!」
お辞儀をして、座る。
まるで、軍隊のような学校だ。
いや、軍学校なのだから、当然なのか…。
黒服の男が壇上から降りると、司会席の方から女性の声が聞こえてきた。
「では、理事長祝辞ッ!起立してくださいッ!!」
指示に従い、理事長以外のほぼ全員が立つ。
そして、理事長は壇上を登った。
理事長は、黒髪ロングの女性でとても胸が大きく、とんでもない爆乳だ。いや、それはどうでもいい…。
落ち着けッ!俺…。
鼻血を吸って、ゴックンと飲み込んだ。
とにかく、年齢は30代くらいに見えるのに、かなり恐ろしい女王の風格を感じる。クソ、理事長を見ていると、前世で一番苦手だった奴を思い出してしまったではないか…。
にしても、黒髪か…。驚いたな。
なぜ、驚いたかというと、この世界では、黒髪は珍しく、東の島国にしか黒髪の人種は、いないとされているからだ。
まぁ、驚いている俺も黒髪なんだが…。
ちなみに、可愛すぎる天使の髪の色は、緑色だゾ。
にしても、両親ともども黒髪ではないのに、なんで?俺だけ黒髪なのかが分からない。その辺に関しては、あの女神は使えないな…。
「礼ッ!」
という声が司会席から聞こえると、全員が座った。
そして、理事長が口を開く。
「まずは、自己紹介をしよう。私の名は、ルーチェ・エゾルチスタ。好きなモノは昔はあったが今ない。嫌いなモノは、当然、悪魔だッ!
「ちなみに、好きな食べ物は、紅茶とモツだ。紅茶は、断然ストレート派で、モツはー。
「えー、あのー煮込みに入っている、あの茶色くて薄くてブヨブヨのやつー。
「も、好きなんだが、それよりもあの鍋に入っている白くて赤子の拳みたいな形の方が好きだな。
「そして、将来の夢は、少し言うのが恥ずかしいが、一流の戦士を育てることだ。そのためにも、君たちには、協力してもらう。
「そして、そして、なんと!明日からは、全ての教官が君らを指導する。理事長の私は、君らの戦闘能力を上げるべく…。
「じーーーーーーーーーーーーーーーー。
「と、見ているからな。」
なんだ、理事長。どこぞの委員長の自己紹介をパクってね?
いや、vチューバのこと、そんなに知らないからね。
現実世界にvチューバ好きの奴が居たから、知ってただけで、あんまり、分からないけど…。
「さてッ!今回の合格者は123名には、ひとまず、祝福を贈ろう。おめでとうッ!!
「そして、残念だったなぁッ!!こんなクソみたいな学園に来るとはねぇー。まさに外道ッ!」
と、理事長が叫んだ瞬間、会場がザワついた。
そして、一人の合格者が手を挙げて、叫ぶ。
「どういうことですかッ!?」
「この学園はねぇ。実は、学校の前に、一つの軍なんだよね。だから、君たちに自由はない。魔物が出たり、悪魔が出たりしたら、直ぐに出動してもらう…。つまり、運が悪けりゃ死ぬからね。」
合格した者は、それぞれ様々な表情をしていた。
泣く者、笑う者、叫ぶ者、絶望する者。
そんな中、理事長は口を開く。
「逆に聞こう。君たちは、一体、いつからこの学園は、学校だと錯覚していた?」
その一言で、ほとんどの合格者は、絶望し、顔を伏せる。
俺は、思った。
コイツ、このセリフ言いたかっただけだろ。と。
そして、絶対、異世界転生者か異世界転移者だろ。と。
☆☆☆
入学式が終わり、俺はセーラ、これから住む家を探していた。
だから、不動産屋さんに行き、良さげな物件を何個か決めて、色々見て回ったが、中々、良い物件が見つからなかった。
そして、最後に残った、安いのに、何故か広く立派な屋敷とワケありと物件を見に来たのだ。
「外見は、別に普通だな…。」
「そうだね、少し荒れているけどね。」
と、俺は扉を開ける。
中は、埃だらけだったが、意外と良い物件だと思う。
「どこがワケありなんだ?普通に良い屋敷ではないか。」
「確かに、可笑しいね。幽霊でもでるのかなぁ…。」
と、震えるセーラ。可愛い。
「この屋敷にするか?2人が住む広さじゃないが。」
「この屋敷だと、掃除が大変そうだもんね。うん、別の不動産屋さんに行こうよ?」
と、セーラの提案に乗った俺は、別の不動産屋さんに行こうと屋敷を出ようとした。
その瞬間だった、扉が急に閉まったのだ。
俺は、急いで開けようとするが、ビクッともしない。
「え?なんの冗談??」
と、セーラは怖がってる。許すまじ、幽霊。
と、そんなことを思っていると。
「大丈夫だ。問題ない。幽霊なんていないよ。」
と、理事長が急に出てきた。
「いや、今、この屋敷。密室なんだけど。どうやって入ってきた!?」
「気配を消して、付いて来たら、巻き込まれただけ。初歩的なことだよ。セツナくん。」
ただのストーカーじゃねーか。なんか、腹立つな、コイツ。
「とにかく、大丈夫だ。そう囁くのよ。私のスタンドが。」
と、自信満々でジョジョ立ちした。うん、腹立つな。
「…………。待って、ゴーストの方がやっぱりカッコイイかな…。」
「黙れ、ルーチェ。いや、間違った。光。ジョジョと素子を混ぜるな、危険だと分からないのか?いいから、黙っとけ。」
「やはり、気づいてたようね。そうよ、私こそがあの有名な…。」
「ああ、パロディネタばかり使っては、ろくに相手にされず、遂には、30代になっても、結婚できずに、上から、無理やり、俺に血を提供する係にされた可哀想な人で有名だったな。」
「ちょっと待って。だから、みんな、紅茶とモツを黙って奢ってくれたの!?」
と、汗たらして、慌てているコイツは。ルーチェ・エゾルチスタは、俺と同じ世界の住人の木嶋光。数いる、祓魔師の中でも優秀だったが、性格に難アリで出世できずに、独身だったのもあって、血を提供する係に任命された可愛いそうな奴だった。
昔は、ショートカットだったから、気付かなかっただけで、よく見れば、昔と変わらない顔とスタイル……。んんんー。
あれ?胸が。可笑しいね。昔は、貧乳だったのに…。
と、胸を見ていることが気づいたらしく、手で胸を隠しながら、
「せ、成長期だしー。」
と、言った。いや、盛ってますね。これは。確信犯ですね。
「えー…と。お兄ちゃん、理事長と知り合いだったの?」
と、セーラは、オドオドと挙動不審になり始めた。
俺は、オドオドする、セーラ可愛いすぎて、ニヤニヤしてしまう。
それで勘づいたのか、木嶋光は、
「刹那くぅーんー!いつから、シスコンに成り下がりやがったの!?
「昔は、冴羽獠みたいに、シティハンターしてたよね!?」
なんだ、木嶋光は。俺をシスコン認定しやがって。
許すまじ。成敗してやろうと決めた俺は…。木嶋光の両肩を掴んで、ロックする。
「え、待って。何をする気!?まさか、待って、落ち着いてよ。ここには、セーラちゃんが居るんだよ!?」
確かに、セーラには、見せたくない。教育上、問題になる。それは、マズい。
俺は、創造の力で、セーラの目の前に閃光弾を創り。
「え?お兄ちゃん、一体何を…。」
そのまま、閃光弾を落とす。
「眩しッ!お兄ちゃん!?」
俺は、閃光弾が輝く瞬間に、歯を立てて木嶋光の首を噛んだ。
吸血鬼と言えば、何を思い浮かべるか、決まっているだろう。そう、吸血だ。
「はうぅ。」
俺は、木嶋光の首を噛んで、血を吸い始める。
吸血鬼にとって、吸血は、人が行う性行為と変わらない。
なぜなら、人が性行為をすると子が出来るのと、吸血鬼が人に吸血すると吸血鬼が出来ることは同じだからだ。
だから、吸血する時、人は感じてしまうのだ。自粛による性的興奮のように…。
いや、それ以上だろう。
とにかく、何で、セーラに見せたくなかったのかは、察してくれ。
「あ…。ンっ…。ア…あぁ…。くっ…………アん…。」
かなり、感じ始めたようだが、俺は、更に吸血を続けた。
「あっっ…。あぁッ!あっあっ……あっッ!ああっ!や…めッ!
「あッあッあァアァアアァッ!!」
ヤベーな。流石にやり過ぎたか?と、思い。
辞めようとすると、突然、俺の頭をガシッと木嶋光が掴んできた。無意識だろうが、これでは離れられない。
閃光弾が続いているから、良いものの。正直、これ以上は、セーラの教育上良くない。
と、思ってた矢先。
「んふぅうううっ…んんンッ…ぬふっ、んほぉっっ!!」
と、盛大に、イってしまったようだ。木嶋光は、ア〇顔だった。
時すでに遅しとは、まさにこの事だ。
木嶋光は、力を抜け、失神したようで、何とか離れることが出来た。
しかし、このままにしておくと、木嶋光は吸血鬼になってしまう。
だから、吸血鬼にならない対策をすることした。その対策とは、傷口を直ぐに、治すことだ。
人には、人の避妊法があるように、吸血鬼には吸血鬼の避吸血鬼法がある。その方法が、傷口を直ぐに治すことなのだ。
という訳で、木嶋光が吸血鬼にならないように、傷口を舐めた。
☆☆☆
倒れた木嶋光をとりあえず、その辺に寝かした。
何故か、セーラがドン引きしていたが、思い当たる節があり過ぎてどれか分からない。何とか、誤解を解かなければいけないのだが。
それは、後回しにして、この屋敷から脱出する方法を探すことにした。さっきまで、忘れていたのは、セーラには内緒だよ。
とにかく、この屋敷の扉は何故か開かない。
何故、開かないのか。その理由は、簡単に想像がつく。
だって、真後ろに女の幽霊がいるんだもん。木嶋光の叫び声が幽霊を呼んだのだろう。まったく、昔から厄災ばっかや呼び起こす。
「やれやれ。腐れ縁の仲だ。許してやろうじゃねーか。」
と、頭を掻きながら、創造で心霊灯を創る。もちろん、龍を殺した時と同じモノだ。紛らわしいので、以後、心霊真灯とする。
俺は、心霊真灯を構えると、幽霊の前に出た。
元祓魔師として、この幽霊を…。
ゴーストとかいう悪魔を祓魔するために。
「君を祓魔する。悪く思うなよ。」