吸血鬼は異世界には存在しない。
あれから、1週間後。
俺と可愛い妹であるセーラは、馬車で王国立軍事学園がある、王都に向かっていた。
「お兄ちゃん。大事なことって何?」
と、セーラが問う。
「ああ。セーラ。お前には言っとくことがある…。
「俺は、吸血鬼なんだ…。」
「きゅう…けつき…?なにそれ?」
と、首を傾げる可愛い妹。
そういえば、この世界に、吸血鬼という種族も魔物も居なかった。
「アレだ…。要は、人では無いという事だ…。」
「魔物なの?」
と、今まで見たこともないほどにセーラが驚いてる。
「魔物では無いな。どっちかと言うと、亜人に近い…。」
この世界には、エルフやドワーフのような亜人と言われる、種族がいる。
流石、異世界と言ったところか…。
「なんで?黙ってたの!?血は繋がってる?」
「いや、それが。俺もこの前、知ったしな…。母さんも知らない…。
「だが、安心しろ。血は繋がってるよ。」
「え?ママも知らないの?」
「ああ。話せば長くなるが…。」
俺のこれまでの事を全て言った。
すると、
「分かった。協力するよ。」
と、仕方なさそうにセーラは言った。
「信じるのか?」
「は?何言ってんのよ?今更…。
「私、お兄ちゃんが思ってるより、好きだよ。お兄ちゃんのこと…。」
と、デレていう、我が可愛すぎる妹。
ヤバい、吸血衝動に出そうだ。鼻血が出た…。
妹に、バレたらヤバいので、鼻を慌てて隠す。
吸血衝動とは、吸血鬼の特徴で、性的興奮すると血を吸いたくなるんことをいう。
ちなみに、血を吸うことができるのは、異性のみだ。
だから、俺の場合、女性しか吸わない。
祓魔師騎士団の時は、担当の女性が血を差し出してくれたっけ。
懐かしいな…。
と、思いながらも、俺は、鼻血を鼻から吸って、飲み込み我慢する。
別に、吸血しなくも、死にはしないからね。
能力が、かなり弱体化するが…。
「なにやってんのよ?お兄ちゃん。
「鼻血拭いたの?」
バレていた~…。
「これは、違うからな。決して、セーラに興奮したわけでは…。」
「嘘つきなさい。昨日、不意に私の下着姿見て、鼻血出してたでしょ?」
バレていた~…。
そう、昨日、ノックせずに、セーラが泊まってる部屋に入ったら、下着姿だったのだ。
当然、怒られたよ。そりゃ、物凄い気迫で…。
その時、不意に鼻血が出たのを隠したつもりだったが。
バレてたようだ…。
「仕方ない。理由を言うよ…。」
と、吸血鬼の特徴を全て言った。
吸血衝動はもちろん。
魅了や再生能力など吸血鬼の能力、全てだ…。
すると、笑顔で、
「え?吸血鬼には、色んな能力があるんだね?」
と、言ってきた。
「ああ…。嬉しいそうだな。」
「だって、面白そうだもん。あ?この鏡見て?」
と、手鏡を俺に向けてきた。
当然、吸血鬼だから、俺は映らない。
「本当だ…。映らないね〜。」
と、俺で遊んでいるようだ。
全く、まだまだ、子どもなセーラだったことに、痛感させられた時だった。
急に馬車が揺れた…。
「大変ですッ!お客様ッ!?魔物が。」
と、馬を引いてくれている商人が言ってきた。
「魔物?ここは、魔物は出ないのにッ!?」
「セーラ。俺に任せてくれ。吸血鬼の力、見たいだろ?」
と、俺が言うと、パァーとセーラの顔が明るくなり、
「分かったわ。任したわよ。」
と、元気に言った。
俺は、馬車を出ると、魔物を確認する。
ゴブリンが6体か…。
ちょうど良いな。
「来なッ!ゴブリン共ッ!!」
と、俺は腰に吊るしてた、右手で片手剣を抜いた。
すると、ゴブリンが1体、俺に襲ってきた。
「甘いね。」
と、軽くゴブリンの腹を斬った。
「さてと、創造を使うか…。」
創造。
それは、吸血鬼の一つの能力である。
創造とカッコよく言っても、本当は元素を支配する力だ。
必要な元素が全て揃っていれば、物は何でも造れるし、雨も降らすなど自然の力も操れる。
流石に、命あるものは造れないが。
そして、最大の弱点が時間が経つと、壊れてしまうこと。
造るものによって、どのくらい壊れずに維持できるのか、分からないから、戦闘に支障をきたしてしまう。
と、まぁ〜、本来なら、こういう感じの能力だが。
女神のお陰で、強化されていたらしく…。
一つでも、元素があれば、創造できるようになっていた。
普通は、創造で銃を造る場合、ニトログリセリンなどの火薬を造るのに必要な元素とフレームの鋼鉄部分の鉄や炭素など全ての素材が必要だった。だけど、女神の強化によって、銃を造るのに必要な素材、一つあれば、創造で創れるようになっていた…。
いや、強すぎだ。女神様よ、これでは面白みがないじゃないか…。
すると、俺の心にアレスさんの声がいきなり聴こえてきた。
『それだけ、邪神が強いということです、我慢しなさい……。ねッ!』
と、威圧されたようだ。顔は見れなくても、恐ろしい感じは分かる。
とにかく、アレスさんは忘れて、俺は創造を使ってみることにした。
俺は、左腕を横に垂直に広げる。
すると、
手の平から、黒い粒子が集まり、それが、銃になる。
創造した銃を手に取り、ゴブリン1体に撃つ。
そして、連続で他のゴブリン全てを撃った。
この銃は、実弾の代わりに、魔力を使用して、黒い光弾みたいなヤツが出る。
うん、言っておきながら、仕組みは俺もよく分からん。
恐らく、光線銃みたいなモノだと思う。多分…。
初めて、この世界の空気中にある魔素と呼ばれる、魔力の素みたいなヤツを素材に使ったんだが…悪くは無い。
弾をリロードする必要はないから、普通の銃より使い勝手が良い。
ただ、弾をリロードする代わりに、魔力をチャージしなければならないのが、難点だが…。
まぁ、女神が気を利かせたのか、分からないけど、俺は魔力量が結構あるから、大丈夫だろう。
「何それ?お兄ちゃん。」
「銃だよ。あ、そっか。この世界には銃みたいな武器は無いか…。それに、この銃は、普通の銃でもないしなぁー。
「そうだなぁ。名付けて、魔法銃といったところか…。」
「魔法銃ねぇー。それは創造という吸血鬼の能力で造ったのよね?
「見せて!その魔法銃。」
「その通りだ。渡すから、撃つなよ。」
と、俺は言うと、手に持っていた、魔法銃をセーラに差し出した。
「分かってるわよ。見るだけよ…。」
と、分かりやすく、拗ねた。
どうやら、撃ってみたかったらしい。
セーラは口を尖らして拗ねながらも、魔法銃を俺から受け取った。
すると、その時だった。
突然、魔法銃は黒い粉が飛び散ったように消えたのだ。
まさか、こんな直ぐに消えるとは、思ってなかったので、俺は驚いていた。
「あれ?魔法銃が壊れたよ?お兄ちゃん。」
「この世界で初めて、魔素という元素を使ったんだが…。思ったより、直ぐに壊れたなぁ…。どうやら、まだ、調整が必要だな。魔素の量を減らせば、もう少し持つかなぁ…。」
「勿体無いな〜。こんなに壊れやすいなんて…。稼げると思ったのに…。」
と、残念そうにする、セーラだった。
「金なら、なんとかなるだろ?
「それより、王都に急ぐぞ。お願いします。」
「分かりました。セツナさん、セーラさん。急ぎましょう。
「この辺りは、魔物で危険です。」
と、商人が言うと、馬車は再び動き出した。
☆☆☆
「着いたーッ!お兄ちゃんッ!着いたよッ!?」
と、はしゃいでる可愛すぎるセーラ。
無理もない。ようやく、王都に着いたのだから。
宿に泊まりながら、二日かけてやってきたのだ。
商人に護衛と形で、王都に向かったので、宿代しか、お金はかからなかった。
「おい、セーラ。はしゃぐのは良いが、試験は明日だ。
「のんびりしている暇はない。宿に向かうよ。」
「はーい。」
と、手を挙げて、あざとく返事するのだった。
「ココか…。あの商人が紹介してくれた、宿は…。」
「お兄ちゃんッ!早く入りましょう?」
と、上目遣いでお願いしてくる。
「くっ…。」
ヤバい、また、吸血衝動が出てしまった。
俺は、鼻血を鼻から吸って、飲み込み我慢した。
すると、セーラが俺の手を握って、
「何やってんのよ?はぁー。行くよッ!」
と、引っ張られて、俺達は宿に入った。
「あら?泊まるの?」
と、宿の店員と思われる、お姉さんがこちらに寄ってきた。
「ああ。二部屋、頼む。」
「あ。ゴメンなさい。生憎、一部屋しか空いてないわ。」
と、申し訳なさそうに、言ってきた。
「セーラ、同じ部屋で良いか?」
もう、年頃の女の子だ。
流石に嫌だろう。お兄ちゃんとしては、心が傷つくが…。
「構わないよ。別に…。」
「え?良いのか?」
「仕方ないでしょ…。それに…。
「私。意外と、お兄ちゃんのこと…。頼りにしてるし…。」
と、セーラが分かりやすく、デレた。
「仲良しな兄妹ね。では、同じ部屋で良いわね?」
と、にこやかにお姉さんが言った。
「ああ。同じ部屋で良い。これ、代金な。」
「よし、ちょうどピッタリね。んじゃ、はい。これ。」
と、お姉さんが鍵を俺に手渡す。
「ありがとう。」
と、言って、俺達は部屋に入った。
「あ、意外と広いな…。」
「そうだね。ベットも2つあるし。お兄ちゃん。良い部屋じゃない?」
「さてと。」
と、俺はいつもの様に、上着を脱ごうとすると…。
「変態ッ!お兄ちゃんの変態ッ!!」
と、罵ってきた。
俺にそういう趣味は無いんだかな…。
「汗かいたんだ。脱がさせてくれよ…。」
「風呂場で脱げばいいでしょッ!?」
「確かに…。」
我が妹ながら、珍しく正論を言ってくるじゃないか。
成長したな…。うんうん。
「なに?納得してんのよ…。
「早く、風呂に入りなさいッ!」
と、セーラが俺を背中から押してくる。
部屋から、出されてしまった…。
全く、いらないところだけお母さんに似てるとは…。
参ったなぁ。
と、思いながら、渋々、風呂に浸かるのだった。
「にしても、銭湯みたいだな。向こうは女湯か…。」
と、俺が呟いた。
すると、後ろから、
「兄ちゃん。覗きに行くか?」
と、オッサンが話しかけてきた。
「覗かねーよ。」
「嘘つけ。男の浪漫だろうが。」
いや、覗きが男の浪漫なわけないだろう。
俺は、ため息をついた。
このオッサンと風呂に入ってると、バカバカしくなるからだ。
「じゃあな。オッサン。騒ぎは立てるなよ。」
と、俺は風呂を上がった。
着替えを済ませて、脱衣所を出ると、タイミング良く、セーラと出会った。
どうやら、今、風呂から上がったようだった。
「セーラも入ってたのか?」
「私も、汗かいたしね。風呂くらい入るわ。
「長風呂する気もなかったから、早めに上がったけど…。」
と、タオルで髪を拭きながら、言った。
少し、反省してるのだろうか…。
目を俺と合わさない。
全く、この妹は…。
と、思いながら、俺は、
「食堂に行くか?」
と、誘った。
もちろん、二つ返事で、即OKしたセーラであった。
☆☆☆
その夜。俺は、ベットに寝ようとしていた。
すると、
「お兄ちゃん。寝た?」
と、語りかけてきた。
「何だ?」
「大したことではないの。ただ、相談したくて…。」
「相談?」
「うん。私、お兄ちゃんを守るって言っておきながら…。
「合格するか、不安なの。」
「馬鹿だな。セーラは。」
「え?」
「魔力量は俺より、セーラの方が高いし、魔法の技術もセーラの方が上手だ。
「つまり、不合格になる、要素がセーラにはないという事だ。自信を持て、セーラ。
「必ず、一緒に合格するぞッ!」
「うんッ!お兄ちゃんッ!!」
と、セーラは、安心したようで、すぐに寝た。
相変わらず寝顔は可愛い。
この寝顔を大事に守ろうと、俺は誓うのだった。
☆☆☆
試験当日。
俺達、兄妹は王国立軍事学園の試験会場にいた。
「お兄ちゃん。合格出来るよね?」
「当たり前だ。」
にしても、流石、王国立軍事学園といったところか…。
魔力が高いヤツがうじゃうじゃいる。
「今から、試験を始めるッ!
「ルリア・アレスティーナッ!前へッ!!」
と、一人の試験官が言うと、歓声が響く。
遂に、試験が始まったようだ。
「お兄ちゃん。あの人、魔力量が半端ないよ…。」
セーラが珍しく、ビビっている。
無理もない、セーラの倍以上の魔力量なのだから。
ルリア・アレスティーナ。
凛としていて風紀員をしてそうな赤髪ロングの女性には、似合わない程の魔力量。
セーラも魔力量はかなり多く、俺の魔力量の倍以上あるのだがが、その上を余裕で超えている…。
「落ち着け。セーラ。この程度のことでビビるな…。」
と、セーラの可愛げのある背中を叩く。
「痛ッ!」
セーラは、キッ!として目で、俺を睨んだ。
「落ち着いたか?」
「ええ。お陰様でねッ!」
まだ、怒ってるようだ。顔がムッとしている。
「そんなことより、始まりそうだ…。よく見とけよ、セーラ。」
ルリア・アレスティーナが試験官の前で戦闘態勢になる。
細いレイピアか…。
研ぎ澄ました目で、試験官を見るルリア・アレスティーナ。
中々の強者と見た。
「こりゃ、吸血鬼の力、隠して戦うの、難しいかもな…。」
「大丈夫よ。お兄ちゃん。今回は、あの女性と戦うわけではない。相手は、試験官よ。試験官には、簡単に勝てるよ。
「私のお兄ちゃんなんだからッ!」
と、セーラが俺に向かって、ピースして、自信満々に笑顔で言ってきた。
ヤバい、吸血衝動が出そうだったので、いつもの様に我慢する。
サイレンが鳴る。試験が始まったのだろう。
サイレンが鳴った直後に、試験官が魔法を唱えた。
「火焔球」
試験官が一つの火の玉をルリア・アレスティーナに向かって、放つ。
だが、ルリア・アレスティーナは、片手で火の玉を受け止め、消した。
「信じられない。素手で。魔法をッ!」
と、口を抑えて、セーラが驚いている。
「どういう原理なんだ?あれは。セーラは出来るか?」
「無理よ…。無理に決まってるじゃないッ!
「片手に魔力を流して、調和したのよ。とても、繊細な作業だよ…。」
「魔力を流すだけで、魔法は打ち消せるのか?」
「例外はあるけど、理論上可能よ。ただし、魔法の魔力と同じ数値の魔力を流さないといけないけど…。」
と、セーラは指を噛みながら言った。
相変わらずその癖は、直ってないのか。
動揺したら、いつも指を噛むからな。この子は。
そこが可愛いんだが…。
と、俺がセーラに見蕩れていると、どうやら、いつの間に試験が終了したようだ。
試験官の首の前に、細いレイピアが突き出している。
「……まだやるか?」
と、ルリア・アレスティーナが口を開く。
「…いえ。し…試験はしゅ…終了…です…。ルリ…ア・アレスティーナ…ご…合格です…。」
試験官がそう言うと、
「戻るぞ…。」
と、ルリア・アレスティーナは細いレイピアを鞘に収めた。
その瞬間、歓声が会場全体に鳴り響く。
「セーラ。そろそろ、試験じゃないか?
「セーラは別会場だろ?」
「ハッ!そうだった…。
「お兄ちゃんッ!もう行くねッ!」
「ああ。セーラの勇姿を見ることはできねーが…。応援はしてるからな。」
「任せてよ。合格するだがらッ!だがら、お兄ちゃんも合格だよッ!
「お兄ちゃんが不合格になったら、本末転倒だからねッ!メッ!だよ」
と、セーラは言った後、別会場に歩いて向かった。
その小さな背中は、前の可愛いげのある背中ではなかった。
☆☆☆
何人か、試験を終えた。
今のところ、十人中二人の合格者が出た。
もちろん、その中の一人はルリア・アレスティーナだ。
あいつ以上の強さを持った者は、今のところ出てきてはいない。
「セツナ・ラフィロスッ!前へッ!」
おっと、俺の番だ。
俺は、しっかりとした足踏みで前へ前へと、向かうのだった…。
*誤字脱字というか、キャラ設定ミスしていたので修正させてもらいました。