吸血鬼は異世界に転生した。
夜の街は、暗く怖いというイメージがある。では、なぜ?夜は怖いと人は思うのだろうか?それは、夜は幽霊が出るという印象があるからだ。
幽霊が出るという根拠も無いのに、人は夜を怖がる。別に、昼でも出る時は出るだろうに。
そもそも、夜を怖がる自体が間違っている。夜はただの現象に過ぎないからだ。したがって、夜を怖がる理由がない。むしろ、怖がるべきなのは、夜でも幽霊でも無く、人に取り憑く悪魔だ。
さて、君らの世界では、知らないが、少なくとも、この世界には、悪魔がいる。かくいう俺も、実は、吸血鬼だ。
だが、勘違いしないで欲しい。
俺は、人を襲ったことはない。
交換条件で、祓魔師騎士団と呼ばれる集団に協力していた。
その条件は、吸血鬼が最も必要とする血だ。
祓魔師騎士団が血を用意するかわりに、俺は祓魔師騎士団に協力して、悪魔でありながら、悪魔を狩っていた。
厳しい時もあったが、気楽で中々楽しい人生だった。
さて、前置きはもういいだろう。なぜ、急に、この話をするかと言うと俺、谷崎 刹那は、夜の街で大量の血を流して倒れているからだ。
身の知らない少女を悪魔の攻撃から庇い、深手を負った。
本来、深手を負っても、驚異的な再生能力のお陰で死ぬことは無い。だが、その悪魔の攻撃は、偶然にも吸血鬼によく効く、銀の弾丸と呼ばれる弾丸が俺の心臓を貫いたからだ。
「お前の人生もここまでだな…。」
「少女は?」
「無事だよ。安心しな。悪魔も俺が殺した…。」
倒れている俺の目の前に、座り込んでは親友は言った。
悲しいそうな目で…。
親友は、祓魔師だ。
祓魔師騎士団に協力していた俺は、親友とは長い縁があった。
親友が祓魔師騎士団入団した時から、親友は俺と一緒に戦っていた。いわゆる、パートナーだ。
だが、この体にも限界が来たようだ。
俺の体は、銀の弾丸によって、焼かれ、心臓から徐々に灰になっていく…。
「そうか…。良かった…。
「なぁ親友。頼みがある。」
「なんだ?なんでも言え、俺が出来ることなら、叶えてやる。」
「俺を親友の手で殺してくれ…。実体として存在するモノは斬れずに、悪魔など、この世にいてはいけないモノのみ、斬ることができる心霊灯という刀なら、俺の体は、灰にならないだろう…。」
親友は、涙を堪えながら、
「ああ…。お前はぁ…。っ………。はぁ…。
「分かった。その願い、叶えてやる。
「分かった、灰になる前に…。俺の手で楽に殺してやる…。」
と、俺の手を握りながら…言った。
「ありがとう…。」
その瞬間に、親友は心霊灯で俺を殺したところで、俺の意識は途絶えた。
☆☆☆
「おーい?起きて?お兄ちゃーんッ!!」
一人の可愛い少女が俺を起こそうとしている。
「うるさい…。もう少し、寝かせろ…。」
と、俺は、可愛い少女と反対側に寝返る。
「あっもうッ!キレたからねッ!私ッ!
「お兄ちゃんでも、キレるからねッ!」
と、どうやら怒ったようだ。
可愛い少女は、魔法を唱えて、手の平に火の玉を出していた。
全く、この可愛い少女はいつもうるさい。
ん?いつも?あれ?魔法?火の玉?
ハッ!となって、俺は起き上がる。
おかしい、記憶が混雑しているようだ。
俺は、吸血鬼だったはず…。
親友の手で、死んだはず…だ…。
妙にリアルだった。夢なのか?いや、そんなことはありえない。
俺は、あの世界で生きた36年間の記憶がある。
だから、夢では無いはずだ。
だとしたら、この世界は何だ?
天国か?いや、俺は18年間、この世界で生きてきた。
だから、この可愛い少女を俺は知っている。
この可愛い少女は、俺の妹で、名前は、セーラ・ラフィロス。
そして、俺の名前は、セツナ・ラフィロス。
どちらも現実…。夢じゃない。
つまり、俺は転生でもしたというのか…。この異世界に。
そして、18歳になるまで、その事を忘れていたということか?
そもそも、前世と名前が同じなのは、偶然なのか?
いや、必然と考えるべきだろ。つまり、誰かが俺を転生させたということだ。なら、何のために?
「どうしたの?急に起き上がったと思ったら、考え込んで…。
「聞いてる?私の話?」
と、可愛くて、可愛すぎる妹は、ただただ、困惑していた。
魔法もいつの間にか、解いてしまっている。
「あ、悪い。セーラ。セーラが可愛すぎて見蕩れてた。」
「冗談も大概にして、早く起きるよッ!お母さんが待ってるッ!」
と、若干、照れながら、可愛すぎる妹は言い終わると、俺の部屋から出ていった。
その時だった、頭の中から、
『聞こえますか?セツナ?目を閉じてください。』
という声が聞こえた。
目を閉じると、真っ暗な世界の中に、美しい女性が浮かんできた。
「誰ですか?あなたは。」
『私は、美人で心も美しい女神アレス。』
「女神!?」
『ええ。この世界で最も綺麗な女神です。アレスで良いですよ。』
何だろう?この女神、自慢しているような気が…。
少し、腹黒いのか?一応、気をつけるか…。
「えっと…。ということは、アレスさんの仕業ですか?」
『はい。私は、あなたの体を異世界に転生した張本人です。ちなみに、前世と名前が同じなのは、その方がいろいろと、都合が良いからです。』
「やはり、俺が吸血鬼だったことは、夢ではないのですね。」
『その通りです。ラフィロス家の長男として、生まれるはずだった人物とあなたを置き換えたのです。』
「は?だとしたら、セーラとは血は繋がってないのですか!?
「巫山戯るなッ!!」
『怒るところはそこですか?』
「すみません。取り乱しました。」
『安心しなさい。血は繋がっていますよ。そもそも、セーラ・ラフィロスとの思い出が残ってるでしょ?いくら、私が尊く、何でもできる女神でも記憶の捏造は出来ないですよ。』
確かに、セーラが幼い頃に、セーラとおままごとした記憶もセーラと鬼ごっこした記憶もある。
セーラとの思い出はしっかりとあるようだ。
「良かったぁー。本当に良かったぁー。
「あ、だとしたら、前の世界での記憶は、現実ですよね?」
『信じてなかったのですか?現実ですよ。時が来たので、今まで忘れていた前の世界の記憶を思い出させてあげました。』
「その…。生まれるはずだった本当のラフィロス家の長男に、セーラの可愛さを見られないことで、罪悪感があるのですが…。」
『理由は、ともあれ。確かに罪悪感に襲われても不思議ではありませんね。でも、安心しなさい。
『人と言うのは、死んだら、また、人に生まれ変わるもの。つまり、どんな人も死んだら同じ世界に転生するんです。無の状態から新しく人が生まれることは無いのです。これを神達の間では、輪廻転生の法則と呼んでいます。そもそも、死んだ者の心は、前世の記憶をしっかりと消して、母親のお腹の中にいる赤ちゃんに心を入れるのです。ですから、心を入れる順番をズラしただけなんですよ。
『まぁ〜、私がやったことを、バカでも分かるように、分かりやすくいうと、ラーメン屋の前に人が並んでいたが、店主の勝手な判断で、君を割り込みさせて、ラーメン食わしたということです。』
「腹立つし、何故、ラーメン屋で例えるのかが分からないんだが…。」
『細かいことはいいでしょう。忘れなさい。オッホン。』
と、女神アレスは、咳払いした。
『ということで、ラフィロス家の長男になるはずだった人物は、どこかで他の人物として、生きているでしょう。』
「それでも、罪悪感は無くなりませんよ?セーラの兄になることが出来ないのは、俺にとって、とっても辛いことですから…。」
『あなたは、いつからシスコンになったのですが?少なくとも、前の世界ではシスコンでは無かったでしょうに…。』
俺がシスコンだと!?馬鹿な。
妹は可愛いものだろう?そうだろう?
俺が間違っているとでも言うのか!?
『自問自答しているところに、申し訳ございませんが…。
『一つ、質問、良いですか?』
「何ですか?質問というのは。」
『いえ、大したことでは無いのです。ただ、簡単な質問を一つ…。
『もう、吸血鬼に戻ってますか?』
吸血鬼と聞いて、俺は思い出して、目を開ける。
今朝、起きるまでは、確かに俺は。
異世界に生きる、普通の人だった。
だが、今は何だ。鏡を見るだけで分かる。
俺は、吸血鬼になってしまっている。
あの、忌々しい吸血鬼に…。
吸血鬼は鏡に映らないという特性がある。つまり、鏡に俺がいないイコール吸血鬼なのだ。
でも、幸い、太陽には、耐性があるようだ。
元々、再生能力が強すぎて、余程のダメージを受けない限りは、吸血鬼らしい弱点は効かなかったが、前よりも耐性が強くなっている。
女神アレスの仕業か…。
器用なことをする…。
俺は、再び、目を閉じた。
『どうやら、吸血鬼に戻っているようですね。
『では、私の…。美しくそして、お綺麗な女神のお願いを聞いてはもらいませんか?』
お願いか。この女神を信じても良いのか?
さっきから、自慢しているのが腹立つが…。
悪い女神では無いようだし、嘘もついていないようだ。
話だけでも聞いてみるか。
「で?お願いとは?」
『あなたの力で、この世界を救って欲しい。』
「それは、女神アレスの力ではどうにもなりませんか?」
『残念ながら、このお綺麗で尊く、心さえも美しい、何でもできる女神でも、どうにもできません。だから、あなたに頼んでいるのです。』
「この世界を救うには、どうしたら良いのです?」
『簡単なことです。邪神を倒して欲しい。』
「邪神?ですか?」
『ええ。邪神です。名は、ダレスターシア。
『最強の私でも手に負えない、神です。様々な悪行を行い続けています。ここ最近、魔物達が強くなってきているでしょう?』
「確かに、セーラも言ってました。
「しかし、どう考えても吸血鬼の俺には倒せなさそうなんですけど…。」
『安心しなさい。吸血鬼の弱点に対する耐性を付けといたし、一部の能力も強化しといたし、大丈夫なはずですよ。』
やっぱり、耐性を強くしたのは、女神の仕業か…。
どうりで、日光に浴びても大丈夫なはずだ。本来なら、日焼けで身体が真っ黒なるんだよな。
ちなみに、普通の吸血鬼は、日光を浴びただけで、灰になってしまう。だが、俺は再生能力が他の吸血鬼よりも優れてたので、日焼けで済んだのだ。
それにしても、この自信ありげな女神でも倒せない邪神か。
いかんな、この体がワクワクしやがる。
それに、セーラのためにも危険な芽は取り除かないとね…。
「分かった。良いだろう。
「アレスさんのおかげで、セーラに出逢うことができたので、そのお礼をしますよ。」
『ありがとうございます。』
と、女神アレスは静かに微笑んだ。
安堵したのだろうか?
「それで、俺はどうすれば。」
『とりあえず、王国立軍事学園に入学してくだい。
『この世界にある、魔法など戦術を覚えなければ、邪神に敵わないでしょう。』
「分かった。アレスさんの言う通りにしますよ。」
『ありがとうございます。時が来たら、また、連絡しますね。
『とりあえず、その学校を卒業してください。』
と、女神アレスが言い終わると、目の前から消えた。
消えたことを確認すると、俺は目を開けた。
「強くなれば、良いのか…。」
と、言いながら、セーラが待っている食卓に向かった。
「お兄ちゃんッ!遅いよッ!?」
と、相変わらず可愛いセーラが指を指して言う。
「コラッ!兄に指を指したらいけませんよッ!」
と、怒っているのは、歳をとってるが、かなり若々しくて美しい、この女性の名は、カーラ・ラフィロス。
俺とセーラの母親だ。
「お母さん。俺。王国立軍事学園に入学しようと思うんだ。」
「え?お兄ちゃんが?なんで?」
「俺は、強くなりたい。頼む…。」
「良いわよ。」
「自分で言っておきながら、軽っ!」
「別に止めはしないわよ。でも、もう少し、早く言って欲しかったなぁ。
「来週あたりに試験だったよね?」
王国立軍事学園は、この国に住んでいるなら、誰でも知っているといっても過言ではないほどに、有名な学校。
いつ試験があるかは、誰でも知っている。
すると、セーラが口に含んでいる、食べ物を飲み込むと、
「お兄ちゃんが行くなら、私も行くよ?」
と、言った。
王国立軍事学園は、年齢は問わない。
つまり、子どもでも、年寄りでも。
試験さえ合格すれば、可能だ。
「セーラは、流石に悩むわね…。歳も歳だし。」
当たり前だ。セーラは、16歳。
まだ、子ども。俺も、親の立場なら、反対するだろう。
だが、俺はお兄ちゃん。
離れたくはない。
それに、セーラが望むことは、全て叶えてあげるつもりだ。
お兄ちゃんだからなッ!断して、シスコンではない…。
あくまでも、お兄ちゃんとしての務めだ。
「お母さん。良いじゃないか?危なくなったら、可能な限り、俺が守るからさ。」
「はぁー。分かったわよ。でも、一人は寂しいわ…。」
と、俺の母親は、涙目になる。確かに、父親は今はいないが…。
「生きてはいるだろうがッ!」
たまたま、仕事で、今日はいないだけだった。
「よしっ。分かった。セーラ。お兄ちゃんを頼むわよ。」
「はいッ!お兄ちゃんは私が守るよッ!」
と、セーラは無い胸で大きく胸を張って、言った。
可愛いセーラは良いとして、俺が守られるようだ。
「いや…。なんで、セーラが俺を守るんだよ?」
「それは、お兄ちゃんが死んで欲しくないからよッ!」
と、いつまでも健気で可愛い妹だった…。
*文章的におかしな点があったので、直しました。