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拝啓、雪に微笑んだ君へ

作者: 幽美 有明

 交差点で信号を待っていると隣に同じ学校の制服を来た女子が来た。


バスにでも乗るのだろうか。


信号が赤になり、そろそろかなと足を踏み出そうとしたら横目に走ってくる車が見えた。

止まるんだろなと当たり前に思った。


 そして横断歩道の信号が青になり歩いていくと、車は速度を緩めるどころか何故か速度を増していた。


このままじゃ轢かれてしまう。


 しかしもう避けれる距離ではない。前を歩いていた女子は身体が硬直しているようで動けないようだ。僕は……僕は女子の横まで走り女子を抱きしめた。次の瞬間、車は僕の体に衝突した。



 狭い部屋に目覚ましが鳴り響く。窓からは春の暖かい日差しが差し込んでいる。時計を見ると朝の七時を指し示していた。何か変な夢を見ていたような気がするけど、よく覚えていない。ベットから出て制服を来て一階に降りる。既にテーブルには朝食が並べられていた。そしてちょうどお母さんは仕事に行くところだった。


「お母さんおはよう」

「おはよう雪見(ゆきみ)、仕事行ってくるね。あとご飯用意しておいたから片付けお願いね」

「わかった」


 お母さんを玄関で見送ったあとご飯を食べた。鞄をカゴに入れて自転車をこいで高校に向かう。

 僕が通う高校は総合高校で多彩な学科があることで有名だ。他にも校門から学校までの道には桜が植えられていてまるで小説やアニメのような桜並木がある。この学校の一番の見どころと言ってもいいだろう。

 僕は桜並木を抜け自転車置き場に自転車を置いて教室に向かおうとすると、ちょうどバスが止まり中から生徒が降りてきた。なんとなくその光景を見ていると一人の女の子から目が離せなくなった。


 その子のことをどこかで見たことがある様な気がした。それは気のせいかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そしてその子に目を奪われているとチャイムが鳴り我に返って急いで玄関に向かった。


 廊下にはクラス替えの紙が貼らさっていた。自分のクラスを確認すると三年二組に自分の名前があった。


 二組の教室は北棟の三階にある。二年生の時は北棟の二階だったから少し遠くなった。教室に入ると一年、二年と一緒だった那月(なつき)が話しかけてきた。


「おっ来たな、今年もよろしくな雪見(ゆみ)

雪見(ゆみ)じゃなくて雪見(ゆきみ)だって言ってるじゃん。それより那月も同じクラスだったんだね」

「クラス替えのかみちゃんと見てなかったのか?まあいいやそれより紗夜(さよ)も同じクラスだぞ」

「そうなんだ」

「なんだよテンション低いな」

「悪かったな。テンション低くて」

「なんかあったのか?」

「何にもないよ。それよりそろそろ先生来るよ」

「もうそんな時間か、早く席戻らねえと」


 僕も自分の席まで行って先生が来るのを待っていた。今でも頭の中にはさっきの光景が残っていた。


 一体あの女の子は誰だったんだろうか。色々考えているうちに先生が来てHRが始まった。去年と同じように先生の紹介から始まり生徒の自己紹介が始まった。


 自己紹介は思いのほかどんどん進んでいった。僕も自己紹介を、終えて他の人の自己紹介を聞いていた。男子の自己紹介が終わり女子の自己紹介になった。


 そして朝見た女の子を見つけた。まさか同じクラスの子だとは思っていなかった。僕は惹き付けられるように彼女の自己紹介を聞いた。


瀬見(せみ)冬雪(ふゆき)です。趣味は読書です。よろしくお願いします」


 瀬見 冬雪、そう彼女は言った。どうして瀬見さんに惹き付けられるのか気になってしまった。


 HRが終わりそれぞれが周りと話し出すと僕は瀬見さんの元に行った。


「瀬見さん僕、奈瀬雪見って言うんだよろしく」

「よろしくね。冬雪でいいよ。その代わり雪見くんって呼んでいい?」

「あっ、いいよえっと冬雪さん」

「あれ冬雪と雪見って知り合いだったの?」


 声のするほうを見ると紗夜が来ていた


「おはよう紗夜」

「おはよう冬雪。それで冬雪さんて雪見のこと知ってたっけ?」

「知らなかったわよ。紗夜は雪見君のこと知ってたのね」

「そりゃ中学校からの付き合いだからね」

「えっと紗夜と冬雪さんって仲いいの?」

「同じ部活だから仲はいいわよ」

「そうね仲はいいわ」

「そうだったんだ」

「よ!紗夜に雪見(ゆみ)。確か瀬見さんだったか?俺は仁科(にしな)那月ってんだ。那月でいいぜ」

「じゃあ那月君で」

「おう、で何話してたんだ?」

「軽く自己紹介してただけよ」

「そっか。なあ今日みんなで放課後出かけないか?」

「今日?私は空いてるけど冬雪は?」

「私も空いてますよ」

雪見(ゆみ)はもちろん来るよな!」

「だから雪見(ゆみ)じゃないって、もういいよ諦めるから。大丈夫だよ」

「じゃあ待ち合わせはルピアで」

「おっけー」

「わかりました」

「わかった」


 放課後


「遅いぞ雪見!」


 僕が時間通りにいくと既に全員集まっていた。


「さてどこ行く?」

「私甘いの食べたいな」

「甘いのか、ケーキ屋にでも行くか?冬雪さんはどうよ?」

「私も甘いの好きですから行きましょう」

「雪見も大丈夫だよな」

「うん」


 那月が向かったのは最近出来たばかりの白魔女と言うケーキ屋だった。内装は白を基調としたオシャレな店内で僕達は窓側の席に座ることにした


「さて何頼む?」

「シンプルにショートケーキかな」

「私はフルーツケーキにしようかな」

「俺はんーチョコレートケーキにすっかな。雪見おまえは?」

「フルーツタルトにするよ」

「じゃ注文してくるぜ」


 那月がそれぞれのケーキをウエイトレスさんに頼んでくれた


「ん~~~~~!おいしっ!」

「いっつも大袈裟なんだよ紗夜は」

「だってほんとに美味しんだもん」


 2人は楽しそうに話してる。それもそうだ何にしろ2人は付き合っているのだから。このことを2人は上手に隠しているからまだクラスメイトにバレたことは無い。


「雪見くんフルーツタルト少し食べてみてもいい?代わりに私のフルーツケーキ少しあげるから」

「うんいいよ」


 こうしているとまるで冬雪さんと付き合っていふみたいだ。って僕は何を考えてるんだろ。そりゃあ冬雪さんは綺麗だけど僕となんて釣り合わないし……


「雪見くんあーん」


 なんて考えていると冬雪さんがフルーツケーキをあーんってしてきた。え?どうして冬雪さんは僕に恋人同士がやるようなことをしてくるの?


「食べないの?」

「た、食べる」


 これはいいのだろうか、冬雪さんにあーんなんてして貰って。ふと、嫌な予感がして横を見て見た。案の定、紗夜と那月がニヤニヤしていた。絶対明日聞かれるやつだ。


 冬雪さんの方を見ると、冬雪さんはニコニコしていた。

 あれから時間は過ぎて夏休み前の一学期期末考査最終日、明日から待ちに待った夏休みが待っている。


 4人でケーキを食べた次の日やっぱり那月に聞かれたけど僕にも何がなんだったか分からなかったし正直に分からない言っておいた。あれからも何回か4人で出かけたけど、あの日のように冬雪さんからアプローチされることは無かった。


「なあ、夏と言ったら花火大会だったり海だったり行きたくないか?」

「そうねやっぱり夏だし海とか行きたいわね」

「私は花火大会の方が気になります」

「僕は皆で花火とか出来ればいいかな?勉強会とかした後にさ」

「勉強会良いじゃない。那月どうせ夏休みの最後にならないと宿題やらないんだから」

「ぐ!確かに。じゃ勉強会な雪見(ゆみ)んちでいいよな言い出しっぺだし」

「大丈夫だと思うけど」

「決まりな、花火大会は皆予定知ってるよな。後は···」


 夏の予定はほぼ決まった。去年はこんなことしなかったし初めての経験かも知れない。僕はこの夏を楽しみにしていた。

 夏休みに入って最初に行ったのは海だった。


「やっぱ混んでんな」

「仕方ないよ夏だしね」


 僕と那月は紗夜と冬雪さんよりも早く着替えが終わったから更衣室前で2人を待っているところ。やはり夏休みということもありビーチは賑わっている。


 正直言って初めての海に僕は感動している。今まで来なかったのはボクがあまり泳げないからだ。カナヅチって訳では無いけど泳ぐのが苦手だから。でも今日は泳がないからビーチパラソルの下でみんなが泳いでるのを見てるのかな


「お待たせ二人共待った?」


 紗夜の声が後ろからして那月と揃って後ろをむくとそこには美少女がいた。紗夜はフリルの着いた可愛い水着を、冬雪さんはセクシーなビキニを着ていた。


「ど、どうよ···」

「最高に可愛いぜ紗夜」

「あ、ありがと」

「わたしはどうですか雪見くん」

「とっても綺麗だよ冬雪さん」

「ありがと。お世辞でも嬉しいわ」

「お世辞じゃないよ」

「二人とも何してるの早く泳ぎましょー」

「わかった」


 既にビーチパラソルは設置されていた、那月の仕事は早いな。那月が「日焼け止め塗ったのか」って聞いてたけどどうやら更衣室の中で塗り合ってきたらしい。


 でも何回も塗らなきゃ行けないから結局塗ることになるのかな。ちょっと恥ずかしいかもって、

 なんで僕が恥ずかしがってるんだろ。


 冬雪さんと二人でビーチパラソルのある所まで行って手荷物を置いてから海に入った。那月と紗夜は少し奥までいって何やら遊んでいる。


「二人とも少し奥まで行ってるね。どうしようか雪見くん」

「えっとビーチボールなら持ってきてあるけど、あとは浮き輪とか?」

「じゃあ浅いところで、遊ぼうか」


 浅いところでビーチボールで遊ぶことがきまった


「ねぇ雪見くん」

「何、冬雪さん」

「雪見君って泳げる?」

「少しだけかな、浮けないから」

「じゃあ教えてあげる浮き方」

「いいの?」

「うん、ほら来て」


 冬雪さんに右手を掴まれてすこし深いところに行く。すぐ足がつかなくなって沈みそうになったけど冬雪さんが助けてくれた。


「まずはゆっくり横になって」


 冬雪さんに言われたようにゆっくり横になる。どうにか冬雪さんの補助のおかげて浮くことが出来た


「このまま感覚を掴めれば1人で浮けると思うよ」

「ありがと教えてくれて」

「ふふ、どういたしまして。先に私戻ってるね」

「すぐ僕も戻るよ」


 冬雪さんは泳ぎ慣れているのか僕より早く戻っていた。冬雪さんより遅れて戻ってきた僕はナンパの現場を目撃した。ナンパされている女の子はパーカーを着た冬雪さんだった。


「ねぇねぇかわい子ちゃん俺たちと一緒に遊ばない」

「ご飯とか奢ってあげるからさ」

「嫌です、辞めてください!」

「いいじゃんちょっとくらいさー」

「辞めてください!」

「冬雪さん!」


 僕は咄嗟に冬雪さんの手を掴んでその場から離れた。どうしてそんなことをしたのか分からないけど、でも冬雪さんを守らないといけないと思った。走って走ってたどり着いたのは人気のない岩場だった


「はぁはぁ···ここまで来れば···大丈夫かな」

「ありがと助けてくれて」

「え!いや男子として当然だし、それに冬雪さんを助けなきゃって思ったから」

「···私ね雪見くんのことが好き···みたい」


 僕は自分の耳を疑った。冬雪さんが僕を好きって···


「初めはね紗夜から雪見くんの事聞いてて優しい人なんだなって思った。二年生になって雪見くんと同じクラスになって四人で遊ぶようになってだんだん雪見くんに惹かれてったの。今では雪見くんのことが好き。この水着だって雪見くんに見せるために買ってきたの」

「ぼ、僕なんかでいいの?僕はそれこそ那月よりもカッコよくなんてないし···」

「雪見くんは可愛いからそれでいいの」

「な、な、冬雪さん」


 な、何が起こってるの。冬雪さんが僕に抱きついてきて胸が!と、とりあえず離れないと。あ、あれ冬雪さん以外に力強い!いや、僕の力がないだけなのかな。


「冬雪さんそろそろ離して···」

「あ、ごめんなさい」

「えっと僕も···冬雪さんのことが好きだよ」

「本当!」

「うん、クラス決まった日から気になってたんだ」

「雪見くん、大好き!」


 冬雪さんはどうやら抱きつき癖があるみたいだ


「冬雪さん携帯鳴ってるよ?」

「ほんとだ紗夜からだ、心配かけちゃったよね。帰ろ?」

「うん」


 僕達は手を繋いで那月達のところに戻った。ちょっと恥ずかしかったけどそれよりもドキドキした。


「あっ!二人共どこいって···たのって腕組んでる!」


 そう初めは手を繋いでいただけだったが、だんだん冬雪さんがが腕を組んで来て僕はどう頑張っても腕を外すことが出来なかった。


「冬雪もしかして告白したの?」

「うん」

「もしかしなくても上手くいったよねおめでとう!」

「ありがと紗夜!」


 この流れからして紗夜は既に知っていたのか?だから那月と先に二人になって僕と冬雪さんだけにしたのか。


「よかったな雪見(ゆみ)

雪見(ゆみ)って呼ばないでよ那月」

「良いじゃねぇか。さてこれで花火大会はダブルデートだな」

「ダブルデートなんて大胆よ···那月」

「でも楽しそうよ紗夜」

「冬雪がいいなら行っても···いいかな」

「よし!」

「よしって言ってるけどもう少ししたら帰る時間だからね?」

「分かってるってそんなこと、そら片付けしようぜ。紗夜と冬雪さんは先に着替えててくれ」


 片付けは順調に進み予定より少し早く帰ることが出来ました。

 この日の夜、僕の携帯に冬雪さんからメールが来ていた。内容は花火大会の日に浴衣をきていくから僕も浴衣を用意して欲しいと書いてあった。


 幸い花火大会に浴衣を来ていきたいと親に言うとお金を出してくれることになり青の浴衣を買うことが出来た。冬雪さんはどんな浴衣を来てくるのか今から楽しみでだ。


 花火大会当日、河川敷にはそれぞれで合流してから集まることになっているので僕は冬雪さんとの待ち合わせの場所に行った。


 15分前に到着したのでまだ冬雪さんは居なかった。待ち合わせ時間の5分前に冬雪が来た。


「待たせちゃいましたか?」

「今来たところだから大丈夫。それに浴衣綺麗だよ大人っぽくて」

「雪見くんはカッコイイよ、河川敷行こう」


 今日も手を繋いで紗夜と那月が待っているだろう河川敷に向かう


「おっ来たな」


 紗夜と那月はお揃いの浴衣に身を包んで既に待っていた。


「相変わらず二人はお似合いだね」

「な///!」

「だろー!」


 那月が紗夜を軽く抱きしめる


「私達も」


 後ろから冬雪さんに抱きしめられる。確かに僕の方が背が低いけど普通は逆なんじゃないかな。まあ冬雪さんが楽しそうだからいいかな。


「さ、ダブルデートと洒落こもうぜ」


 四人で色々なことをした。射的に金魚すくい。ヨーヨーすくいにおめん屋さんでお面を買ったり、綿あめにりんご飴も買った。とても楽しい時間だった


「時間的にそろそろ花火が上がるな。見に行こうぜ」


 ひゅーーーーーぱーん。ひゅーーーーーぱーん。

 花火が上がり始めた


「綺麗だなー」

「そうね」

「冬雪さん、花火綺麗だね。冬雪···さん?」


 隣にいた、確かに手を握いっていたはずの冬雪さんが消えていた。


「冬雪さん、冬雪さん!一体どこに、冬雪さんどこ!紗夜、那月、冬雪さんを見なかった!」

「雪見、冬雪って誰だ?」

「え?」


 どうして···冬雪さんを知らないんだ。今の今まで一緒にいたのに、まるで最初から冬雪という人が居ないみたいに


「なんでそんなこと言うんだ!冬雪さんのことを」

「私がどうしたの雪見くん?」

「冬雪さん!」


 もう冬雪さんを離さないように力いっぱい抱きしめた。


「雪見くんどうしたんですか?甘えたくなったんですか?」

「ちがう。冬雪さんが隣から居なくなって那月に聞いたら、冬雪って誰って、言われて冬雪さんがまるで存在しなかったみたいになって」

「そんな···もうあまり時間が」

「時間?」

「花火を見たら私の家に来てくれる?」

「わかった」


 僕は冬雪が居なくならないか心配になりながら花火を見た。那月にあの時のことを聞いても覚えていないと言うし一体どうなっているんだ。


 冬雪さんの家はあまり生活感が無かった。まるで引っ越してきたばかりのような。


「雪見くんはあの時私が消えたみたいだっていったよね」

「うん」

「それは本当なの」

「え?」

「この世界は私と雪見くんが作り出した世界。私と雪見くんが見ている夢の世界なの」

「どうゆう···こと」

「私は現実では事故にあったの、とても大きな事故。わたしは意識不明の重体で今はずっと昏睡状態。この世界に来たのは1年前くらいかな。本来この世界には誰も入ってこれないはずだった」

「だけど僕が来たってこと?」

「そう。多分雪見くんも現実では昏睡状態にあるんだと思う。どうしてあなたが来たのか私には分からない。だけど私は雪見くんに会えてよかった今でもそう思ってる」

「それは嬉しいけど。ねえ冬雪さんこの世界のことは分かったよ。でもそれがどうして消えることに繋がるの?」

「私は昏睡状態だって教えたでしょ?それで私が昏睡状態から目覚めるか死ぬかした時に私はこの世界から消える。もちろん同時にこの世界も消えるかもしれない」

「じゃあ!」

「そろそろ私は目覚めるか死ぬかもしれない」

「そんな、死なないよね?」

「わからないの。それはどっちなのか」

「ねぇ、あとどれくらい時間があるの?」

「今日は数秒だったけどだんだん数十分、数時間、と伸びていくと思う…。そして最後には世界ごと消える。それでも冬までは時間はあると思うの。なんとなくだけど」

「冬まで···じゃあ冬まで色々なことをしよう。この世界で心残りが無いように」

「心残り···」

「いつこの世界を去ってもいいように思い出作ろうよ」

「そうだね、思い出作りたいよ。ねぇ雪見くん抱きついてもいい?」

「いいよ」


 後ろから抱きしめられて、冬雪さんの顔はわからないけど泣いてるのは分かる。冬雪さんも怖いんだ。自分が死んでしまうかもしれないから。


 この日から冬雪さんと一緒にいる時間が増えていった。宿題を持って冬雪さんの家に行ったり、二人で出かけて思い出作くりながら夏休みを消化して行った。夜携帯を開くと那月からメールが来ていた。明日勉強会するから家にいろよという内容だった。


 最近冬雪さんの家に行くことはあっても僕の家に招待するのは初めてだったかな。これもいい思い出になるといいけど。


「雪見の家に来るのは何年ぶりだろうな」

「最後に来たのは中学校の卒業式だから1年前と少しかな」

「綺麗な家だね」

「そういや冬雪さん来たこと無かったけか」

「うん初めて来るよ」


 みんなをリビングに招き入れそれぞれの宿題を見せあった。


「那月あなたほとんど手付けてないじゃない!」

「いやぁなんかだるくてな。紗夜教えてくんね?」

「仕方ないわね」


 楽しそうだな二人とも


「ねえ冬雪さん。紗夜と那月って現実にはいないの?」

「いるよ。この世界は雪見くんと私が見てる夢の世界だから。私たちが知らない人やものは存在しないの」

「そうなんだ。でもクラスで初めてあった時紗夜と部活一緒って言ってたよね」

「私が一年生の時から紗夜達はいたから、多分私も知ってるんだと思う」

「そうだったんだ」


 勉強会が終わり二学期になった。直ぐに冬雪さんと付き合っていることがバレて色々質問攻めにされて大変だった。そして時折冬雪さんは数秒間居なくなってしまうことが増えてきた。


 高校の行事と聞いて真っ先に思い浮かべるのは体育祭だと思う。その次に思い浮かべるのは文化祭だろうか。


 僕らの学校は10月に文化祭をやるんだ。クラスごとに何かやらないといけないみたいで僕達のクラスでは男装女装カフェと言う一風変わったカフェをやることになった。


「よし、野郎ども。今年は男装女装カフェに決まった訳だが全員が女装する訳では無い。だいたい六人くらいが女装する。誰もが女装はしたくないだろう。そこでここにじゃんけん大会を開催する。負けて最後の六人になったら終了だ。じゃあ二人一組でじゃんけんだ」


 そして突如として始まったじゃんけん大会はあっさりと終わり、女装メンバーには僕と那月もいた。


「よし、じゃあ決まったやつは女子にメイクとかしてもらえよ。少しはマシになるはずだから」


 そして文化祭当日、那月は早々に紗夜の元へ向かっていった。もちろん僕が頼める人は一人しか居ないわけで。


「冬雪さんお願いします」

「安心して雪見くん。可愛くしてあげるから」


 何故かとてもうきうきとした様子で引き受けてくれた。メイクが終わりいつの間にか用意されていたメイド服(手作り)にいやいや袖を通した。ちなみに女子の男装は話し合いで決まったらしく容姿がいい女子が選ばれたそうだ。


 教室に戻ると既に女装した那月と男装した紗夜が待っていた。


「おっ来たか」

「とっても似合ってるわよ、雪見。これはもう女の子で通用するわ」

「僕は似合いすぎてる二人が怖いよ。那月はワイルドなお姉さんだし紗夜はクールなお兄さんみたいで」

「じゃあ雪見は可愛い子リスだな。背低いし」

「からかんないでよもう」

「あら彼氏さんが来たわよ雪見」


 紗夜の声につられて後ろを向くとそこには男装した冬雪さんがいた。容姿がいい女子が選ばれたなら、当然冬雪さんもえらばれるよね。


「どうかしら雪見くん。変じゃあ無いかしら」

「変じゃないよ。とても···似合っててかっこいい」

「雪見くんも可愛いよ」

「えっと、ありがとう///」


 なんか照れてしまう。僕は男なんだけどな。


「普通にあそこでいちゃついてるんだがどう思う紗夜」

「いいんじゃない?違和感ないし」

「それもそうだな」


 いよいよ文化祭が始まった。お客はそれなりに入ってくる。一番は紗夜と那月が居るからだろうか。


 僕は入口に看板を持って立って居ろと言われてずっと立っている。たまに冬雪さんとか紗夜達が様子を見に来てくれる。


 というかクラスの全員に心配されている。とある女子は「変なことされたら叫びなさい!クラスの女子が助けに行くから」と言われ、とある男子には「おまえの見た目は確実に男を引きつける。何かあったら叫べよ助けに行ってやるから」と言われ、終始僕は頭にはてなマークを浮かべていた。お昼がすぎ他の人と交代した。


 那月達はそのままの格好で文化祭を回るらしい。いい宣伝になるだろうからって。僕も着替えるのが面倒だったのでこのまま冬雪さんと文化祭を回ることにした。

 

「どこ行こっか。お昼は食べたし」

「さっき他のクラスの子がお化け屋敷するから来てくださいって言ってたから行ってみない?」

「う、うん。お化け屋敷か、楽しそうだね」


 実を言うと僕はお化けとかの類がとても苦手である。でも高校のお化け屋敷だし怖く無いよね。多分···


「わぁぁぁ!」

「ひゃわぁ!」


 高校のお化け屋敷だからと油断していたボクは、とても本格的なお化け屋敷に恐怖して、最後には冬雪さんに抱きついて目尻に涙を浮かべていた。


「冬雪さんもう少しこのままでいさせて。まだ震えが止まらなくて」

「良いですよ」


 ちょうどそこには紗夜と那月が通りかかった。


「おっと、雪見が冬雪さんに抱きついてる」


 周りを見渡した那月は僕が冬雪さんに抱きついてる理由を察したようだった。


「さてはお化け屋敷に入ったな?今年のお化け屋敷はけっこう凝ってる作りだからな。雪見がそうなってもしょうがないか。そろそろカフェ戻るぞ。どうやら混んできたらしい」


 急いでクラスに戻って接客をしているうちに1日目は終わった。

 二日目朝から冬雪さんは来ていなかった。ただ遅刻してるだけだと思っていたけど違った。先生が点呼をした時、冬雪さんの名前は呼ばれなかった。


 そう、最初から居なかったみたいに。冬雪さんはまた消えていた。だけど今日見たいに10分以上消えたことは無かった。時間が少しづつ伸びているみたいだった。


 文化祭二日目開催まで残り一時間になったころ、冬雪さんは何事も無かったかのように教室にいた。


「冬雪さんメイクお願いしてもいい?」

「わかった、今メイク道具取ってくるね」


 隣の教室でメイクをしてもらっている最中にさっきのことを聞くことにした。


「冬雪さん、今日消えてたよね?」

「うん、学校来る途中周りから誰もいなくなって。教室に行っても誰もいなくて、さっき戻ってきたの」

「じゃあ一時間も消えてたの?」

「うん、多分だんだん長くなっていくと思うの」

「そっか···やっぱり冬までなんだね」

「そう···だね」


 二人とも何も話せなくて、そのまま時間は過ぎていってメイクは終わっていた。


「じゃあ今日も雪見は客引きな」

「わかったよ」


 昨日と同じように看板を持って教室の前に立っていた。1日目より少し人は少ないと思ったら何故か握手を頼んできたりと昨日より人が多くなってきた。


「あっ那月」

「雪見、お前目当ての客が多いぞ。人気者だな」

「あんまり嬉しくないよ。そもそも僕男なんだけど」

「あれだ、男の娘属性とか言うやつだ。物好きが集まってるんだよ」

「何故だろう。その言葉で身の危険を感じたんだけど」

「大丈夫だお前のことは俺らが守るからな?それにぜったい黙ってないのが1人いる事だしな」

「誰?」


「そのうち分かるだろ、じゃあ中戻るわ」


 そう言って那月は中に戻って行った。結局僕だけが取り残されて途中足が痛くなって椅子に座ったけど、そしたら頭まで撫でられるようになってあまり気分は良くなかったけどクラスのためと思って我慢することにした。


 一時になるという頃、那月と沙耶それに冬雪さんが僕のところに来た。


「雪見、そろそろ行こうぜ」

「でも少し早いよ?」

「早い方がいいのよ、お客さんも増えてくるし、色々と大変になるから」

「わかった。じゃあ行こう」


 昨日とは違い四人で回ることになったんだけど何故か握手を冬雪さんが僕から離れてくれない。


「冬雪さん、抱きつかれたままだと歩きづらいんだけど···」

「嫌だった?」

「嫌とかではないんだけど」


 うん、嫌ではないんだよ。歩きづらいだけで。その後ろから抱きつかれると当たるわけで、気が気でないというかなんと言うか。うん、とりあえず気にしたら負けなのかな。


 他のクラスがやってる模擬店に行ってケーキを食べたり(冬雪さんにあーんされて恥ずかしかった///)何故かお化け屋敷にまた連れていかれて(終始冬雪さんに抱きついてた)気づいたら校内を一周していた。


「御来場の皆様へお知らせです。文化祭終了時刻が迫って参りました。お気をつけてお帰りください」

「文化祭も終わりか、大変だったな色々と」

「そうだね、お客さんもいっぱい来たし」

「私は那月の女装が見れてよかったわ」

「それを言うなら俺も紗夜の男装見れてよかったぜ」

「冬雪さんはどうだった?」

「雪見君が可愛くて、お持ち帰りしたくなって大変だったわ」

「えっと、ありがとう///」

「紗夜、やっぱりお持ち帰りしちゃダメかしら?」

「ダメよ。まったく、ほら離してあげなさいHR始まるんだから」


 紗夜のおかげで冬雪さんに話してもらうことが出来た。今日はいつにも増してスキンシップが激しかったような気がする


 11月になって気温も下がって来る中僕達は期末テストに向けて勉強会をしていた。


「那月、今回赤点とったら自車校行けないからね?」

「分かってるよ、そのために今勉強してるんだろ」

「へー、じゃあ今やってる事はなんなの」

「あー、自車校行く時のための練習?」

「御託は良いからさっさと勉強しなさい!」

「あっ!今いいところだったのに」

「いい所じゃないの。ほらやるわよ」

「分かったから怒るな、な?」

「楽しそうだね二人とも」

「ただただ、怒られてるようにも見えるけど」


 勉強会が始まって一時間位すると那月が飽きてきたのか、レースゲームをやり始めたのを見て紗夜が、コントローラーを取り上げたんだ。


 冬雪さんは文化祭が終わってから一時間以上消えることが増えて、その代わり頻度は減ってきた。あとは消えるのを冬雪さんが何となくわかるようになったことかな。


 最近消えたのは昨日の夜電話をしている時だった。最近は冬雪さんが戻ってくるとおかえりと言うようにしている。


「しっかし、こうしてみんなで集まれるのもあと少しか」

「別に卒業してからも集まれば良いじゃない。県外に行く訳じゃないんだから」

「それもそうだな。来年はやっぱり旅行とかしたいな」

「旅行か、卒業式旅行とかしてみる?」

「おっ、雪見にしてはいい考えだな。だがどこ行くよ?」

「スキーをしに行くって言うのはどうかしら」

「良いわね!私はスキーやってみたかったの」

「スキーか、それだと卒業式旅行じゃ間に合わなくないか?」

「あっそうですね」

「それなら冬休みに行けば良いじゃない。予定を前倒しにして」

「そんなにスキーしに行きたいのか?」

「行きたい!」

「んー、雪見と冬雪さんはどうだ?」

「良いよ」

「問題ないです」

「じゃあ冬休みにスキー旅行な」

「その為にも赤点は取れないわね。補習でいけないとか許さないわよ?」

「わかったって。ほら勉強教えてくれ」


 と、いうことで冬休みにスキー旅行に行くことになった。


 そして無事期末テストをクリアし冬休みになった。僕と冬雪さんは、消える時間が伸びる事にそろそろ世界が消えることを感じていた。


「クリスマスまで消えなくて良かった。こうして二人で居れるから」

「そうだね」

「多分そろそろ消えちゃう気がするんだ。この前なんて12時間も消えちゃったし。だから最後にキスしてくれない」

「キ、キス?それにまだ最後だって決まった訳じゃ…」

「ううん、多分こんな機会もう来ないと思うの。それに今日はクリスマスだから、プレゼント代わりにね?」

「わかったよ」


 そして冬雪さんとキスをして、目を開けると世界が崩れ始めた。建物は光の粒子になり僕達の体からも光の粒子になり始めていた。


「そろそろ所か、今だったみたい」

「早いよ、まだ冬雪さんとやれてないことだって沢山あるのに、スキー旅行だって」

「ねぇ現実で会えるかな」


 もう、僕達に残された時間が少ないことは僕にだってわかった。


「必ず見つけるよ、だって僕達の見てる世界は同じなんだ。だから近くにいるはずなんだ」

「もしかしたら同じ病院に居るかもね。そうだヒントをあげる。私が事故にあったのは·······」

「わかった探してみるよ」

「ねぇ雪見くん、私あなたが好き」

「僕も冬雪さんが好きだよ」


 そして、最後にキスをして世界は崩壊した。


「うっ、うぅ」

「雪見···雪見!」

「お母さん···」


 僕はどうやら生きているみたいだ。長い間寝ていたせいか。上手く声を出すことが出来ない。お母さんは急いで医者を呼びに行った。


 後から聞いた話だと僕は1年と半年近く眠っていて、目覚める可能性は三割だったらしい。事故当時の記憶はあまり覚えていなかった。その代わり眠っている間の記憶は残っていた、そう。冬雪さんと過ごした二学期分の記憶が。


 目覚めてから数日は忙しかった。長い間昏睡状態色んな検査を受けて身体に異常がないかを確認してたから。そう言えば紗夜と那月が見舞いに来てくれた。冬雪さんの言う通り僕の友達だった。僕が眠っている間も週に何度か来てくれてたみたいだ。


 那月と紗夜に冬雪さんのことを聞いてみたけど、冬雪という名前の人は知らないみたいだった。そして検査が終わってリハビリをすることになったその日、全く知らない人が面会に来た。


「あなた達は?」

「雪見さんに助けて頂いた娘の父親です」

「母親です」

「僕が助けた?」

「やっぱり覚えてはおられないんですね」


 僕が助けた女の子の父親という人の話だと、僕は事故に会う直前その女の子を抱きしめたらしい。そして抱きしめた瞬間トラックが突っ込んできて、運良く自転車がクッションになり引かれなかったらしい。


 ただその衝撃で道路に頭をぶつけて今に至るらしい。その女の子も僕と同じ頃に目を覚ましたみたいで心身共に無事らしい。後で娘にあって欲しいと言ってその人たちは帰って行った。


 約1ヶ月のリハビリのおかげで、体が動かせるようになり病院の中を歩いているとベンチに座っている女の子を見つけた。その後ろ姿はとても見覚えがあった。もしかしたら、そんな希望を抱いて僕はその女の子に声をかけた。


「こんにちは」


 そして女の子の顔を見た瞬間、いままであやふやだった事故の記憶が蘇ってきた。僕があの時助けた女の子は…


「やっと···会えた」

「雪見···くん?」

「僕、奈瀬雪見って言います」

「私は瀬見冬雪です」

「冬雪さん僕は冬雪さんの事が好きだ」

「私も雪見くんが好きだよ」

面白かったと思って頂けたのなら嬉しいです。

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