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第93話 戻ってきた二人

「おい、刀夜!」


「ああ、聞こえていた」


「行くぞ、何やってんだ!」


 素っ気ない返事と動こうとしない刀夜に龍児はイラついた。刀夜は先程からずっと火の微調整をしており、振り向きもしない。


「そんなの後でもできるだろ!」


「皆で行っても、馬車に乗れないぞ」


「お、お前!!」


 龍児が怒鳴りこもうとしたが皆に止められる。


「まぁまぁ」


「あのー龍児様。あの馬車だとあと三人ぐらしか乗れないと思います」


 リリアは外に停車している馬車を指差す。その馬車は小型ボックスのランドータイプであった。中に入れる人数は四人、御者の隣に座れば五人が限度である。


「じゃぁ私と龍児君と……ええっと……」


 舞衣が人選に悩むと、聞き耳を立てていた刀夜が奥から声を上げた。


「リリア頼めるか、埋葬の手配とかも頼む」


「は、はい。わかりました。任せて下さい」


 リリアは聖堂院の出なのでその辺りは一番詳しい。龍児と舞衣、リリアはレイラの待つ馬車へと乗った。そして龍児は乗ったそうそう文句をいいだす。


「何で奴はいつもああなんだ。仲間を仲間とも思っちゃいねぇんだろ!」


 龍児の怒りにリリアは肩を落とす。自分の主人が嫌われていることが悲しかったのだ。


「ちょ、ちょっと龍児君、リリアちゃんの前で刀夜君の悪口なんて」


 龍児は悲しそうにするリリアに心がチクリとするが、「ふん」と鼻息を上げて窓の外を見た。


「刀夜? 例のアーグ襲撃で指揮した奴のことか。やはりあのときの男か……残念だな少し話をしたかったのだが。あのときは凱旋行進中だったからあまり話をできなかった」


「何だよ会ったのかよ……」


「ちょっと声をかけただけだ」


「レイラ様には龍児様が街に来ていることを教えて頂きました……」


「そうなのか、ありがとよ……」


 レイラは刀夜に興味をもち根掘り葉掘り聞きたおす。彼女が何より凄いと思えたのは彼の行動力だ。先程の家の件もそうだが巨額の金を持っていたり、人脈を広げるのも早い。


 順応力もすばらしいと感じた。だが実際のところは運が大きく絡んだのだが、彼の行動力が運を呼び込んだとも言える。


 やがて馬車はピエルバルグ大聖堂に着く。大聖堂というからには、カトリックの教会のようなものをイメージしていた二人だったが、まさしくそのとおりである。


 尖った屋根をもつ棟を二つ両端にそびえ立ち、中央には円弧状の階段の上に両開きの大きな扉。そのうえにステンドグラスの窓。違いと言えば十字架はなく、女神のような彫刻が掘られている。


 中に入るとさすがに教会とは異なっていた。祈りを捧げるよう場所はない。白い大理石のような石畳と柱が何本も立っていて大きなエントランスホールとなっている。


 奥に通されると空気はひんやりとしてきて、まるで遺体の冷たさを表しているかのようであった。床や壁が青い大理石のようなものでできた遺体安置場につく。


 小さい部屋がいくつも並んでおり、その一つにレイラが入った。そこには同じ石材で作られたテーブルに大きな白い布が被されている。


 布の膨らみから人が二人、横たわっているのがわかる。一枚の布で全身を覆っているので顔までは分からないが大人であろう。


 龍児は喉をゴクリと鳴らした。願わくは赤の他人であってくれと。レイラからの報告からその望みは薄いと分かっていても願わずにはいられない。


 うすら寒い部屋のはずなのに冷や汗が流れた。レイラが遺体のそばに寄り、テーブルに手をつくと龍児たちに確認をする。


「遺体は川で見つかった。水死体を見た経験は?」


 龍児と舞衣は首を振った。リリアはあると答えた。


「二人はどうする? 確認するか?」


「ここまで来て確認しない訳ないだろ、それにリリア(この娘)は知らない人物だ」


「そうか、では気を確かにな……」


 レイラは遺体に被せてある布を、顔の部分の所だけ(めく)ってみせた。


「うッ!」


 龍児の顔は引きつり、舞衣は恐ろしさに両手で鼻と口を押さえて震えあがった。


 そこには水で皮膚が膨れ上がり、岩で打ち付けた無惨な姿があった。あの愛くるしいほど可愛らしい智恵美先生の面影など無い。


 だが、彼女の首に掛かっているネックレスには見覚えがある。ヤンタルの街で別れ際にブランキが彼女に贈ったものだ。


 そしてその横、顔が半分隠れてしまうほど黒くて長い前髪、片柳咲那であった。


 舞衣は無惨な二人の姿に気分が悪くなって目を反らして背を向ける。そしてしゃがみこむと部屋の入り口の隅で泣き始めた。


 龍児は後悔の念に囚われて硬直していた。なぜあのとき直ぐに追いかけなかったのかと。無理にでも勘でもいい、追いかけていれば違った結果になったのではないか……


 何度も何度も自分に問う。手を伸ばせば助けれる可能性があったのではないかと。


『俺は彼女達を見殺しにした!』


 そんな自責の念に龍児は襲われた。


 大抵の人は何かしら理由を見つけて責任から逃げたがるものだ。二人の死は龍児の責任ではない。だが彼はそう思ってしまう。そういう人物であった。


 後悔の重みに耐えかねて龍児は膝をつく。込み上げてきた激情に任せて雄叫びを上げると、自然と涙が滝のように流れた。


 重苦しい雰囲気が漂い、暫くすると舞衣は涙を拭き立ち上がった。


「レイラさん……」


「どうだ?」


「はい、あたし達の仲間です」


「――そうか、残念だった」


「レイラさんよぉ……」


 四つん這いになって握り拳を震わせながら龍児は彼女を呼んだ。


「なんだ?」


「もう一人、男のほうは居なかったのか?」


「……確認されていない。発見できたのは二人だけだ」


 龍児は再び後悔の涙を流した。


「俺のせいだ、俺があのとき直ぐに追いかけていれば!! 俺の……俺の!」


「違う! 違うわ! 断じて龍児君のせいなんかじゃないわ! 自分を責めないで!!」


 舞衣は落ち込む龍児の背中に抱きついて号泣した。二人の叫喚はいつまでも……いつまでも聖堂の中に響いた……


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