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第91話 手のひらの上

 刀夜が家に帰り着くと皆から『お帰り』と言われるが、刀夜は返事もせずに険しい顔で工房に入った。そして炉の解体の続きを初めようとするが折られた指の痛みで工具を振るうことができない。


「刀夜様。まだ無理です。本来なら外にも行けるような体じゃなかったのですよ」


 リリアが刀夜の体を心配して止めた。


「リリア……時間がないんだ……」


「なぜ、時間が無いんだい? 最大の懸念事項だった玉鋼(たまはがね)は手に入ったじゃないか」


 刀夜の尋常ではない雰囲気に工房に皆が集まってくる。


「そんな気色の悪いもの使えるか!」


「え、どういうことなの?」


「鋼はダメだったのか?」


 舞衣と由美が心配になって訪ねる。


「い、いや、最高の玉鋼(たまはがね)だって刀夜が。でも急に怒りだして、僕も何が何やら……」


 晴樹は戸惑った。刀夜がなぜ怒っているのかとんと見当がつかなかった。


「刀夜! 皆にちゃんと説明して」


「そうだよ。説明してくれれば、あたし達だって手伝うよ!」


 葵と美紀が必死に説得すると刀夜は振り上げていたハンマーをゆっくり下ろした。


「訳も分からん奴の手の平で踊らされるなんざ、まっぴら御免だ!」


 刀夜は不可思議な現象と人の運命をもてあそぶ背後にいる魔術師の可能性を示しつつ説明した。半数が考え過ぎてはとの意見だが、実際に体験してきた当の本人は確信に揺るぎはなかった。そしてリリアに魔法でそのうなことが可能か確認する。


「――人の心を操作する魔法ですか? 噂程度には……でもそんな魔法があったとしても禁忌扱いですし……かなり高度な魔法で一般にはないでしょう。あり得るとしたら古代魔法かと……」


「つまり、賢者クラスの奴が俺をもて遊んでやがるのか……確かマウロウとかいっていたな」


「もて遊んでいるかは分かりませんが、少なくとも今までは助けて頂いているように聞こえましたが……」


 リリアは刀夜の意見を否定するようなことを口走ってしまい、怒られないかと冷や汗を流した。だが刀夜は無言で悩み、視線を落とす。


「なぁ、刀夜」


 唐突に晴樹が刀夜を呼んだ。


「刀夜はさ、これまでは利用できるものは何でも利用する方針だったじゃないか。なんで今回はそんな事にこだわるんだい?」


「え、それは……なんか利用されているみたいで屈辱的というか……」


「だったらさ、逆に利用してやればいいじゃないか、その相手の思惑より更に上へと」


「ハル……」


「僕の知っている刀夜ならそうすると思うけどな」


 晴樹は正しい。確かにこんなことで悩んでイラついても何もならない。刀夜は心に沸き起こっていた感情を押し殺す。


「……そうだな……すまない。どうかしていた」


 刀夜は皆に頭を下げると、その表情は穏やかになっていた。


「刀夜様、体が治るまではゆっくりなさって下さい」


 リリアが刀夜の体を支える。


「しゃーねぇ。指示してくれりゃこっちで作業してやるよ。テメーはベッドで大人しくしてろ」


 龍児から意外な言葉が出ると、葵と美紀が顔を見合せてニヤリとする。そして龍児を褒め称えた。龍児は照れ臭そうにしながらも上機嫌になって調子に乗った。


「じゃあ、今ある炉は潰しておいてくれるか」


「ああ、まかしとけ」


 龍児は軽々とハンマーを担ぐと、さっさと行けと手を振る。正直なところ龍児の優しが不気味に感じた刀夜ではあったが、ここは甘えることにした。


 疑っていてばかりでは少々疲れる。特に今は……


「じゃあ行きましょう」


 リリアは刀夜の腕を肩で担いで立たせた。そんな二人を美紀がニヤケ顔でからかう。


「いっそのこと、一緒に添い寝してあげたら? きっと早く元気になるかもよぉ~」


「ケケケ、そんなことしたら別んトコ元気になっちまうぜ」


 颯太が下品なジョークを飛ばすと女子から冷ややかな視線を送られた。


「颯太サイテー」


「下品ね」


俗臭芬芬(ぞくしゅうふんぷん)野卑滑稽(やひこっけい)品性下劣(ひんせいげれつ)


 葵、舞衣、由美から罵倒され颯太は理不尽だとばかりに反論する。


「なんでだよぉ~それを言うなら美紀のほうだろ」


「あら、あたしは精神的に元気になるつもりで言ったのよ」


「ぜったい、嘘だぁ~!」


◇◇◇◇◇


 刀夜はベッドで休もうとする。だが炉を破壊する音でなかなか寝付けそうにない。リリアがお茶を入れてくれるが痛む指ではカップも握れず、彼女に飲ませてもらうとそれを情けなく感じた。


 だがリリアのほうは逆に嬉しそうにする。刀夜に必要とされていることが嬉しかったのだ。


 昼過ぎには炉の解体が終わって静かになると刀夜はようやく眠りにつく。この日、彼は作業に入らず回復に専念した。作業に入ったのは次の日、約束から3日目である。


 耐火レンガを五段ほど積み上げて火床(かしょう)を創り、横に風を送る(ふいご)を設置した。


「え? たったこれだけなの?」


 葵が出来上がった作業場を見て驚く。


「もっと、こうレンガで囲まれたような、でっかいものじゃないの?」


「ピザ焼くんじゃないから、そんなの要らん」


「じゃあ、こっちの炉は潰す必要なかったんじゃない?」


 葵が指を指したのは四角い釜戸のような炉だ。今は潰されて何もない。


「煙突を利用するためだ。それにソコには将来的に反射炉を設置する予定だ」


「反射炉って何?」


「鉄を溶かす炉だ……」


 刀夜はふと、それは魔法でできないかと思った。魔法でできたら作業効率が桁違いに早くなる。期待を込めてリリアに聞いてみる。


「鉄を溶かすような魔法ですか? ないと思いますが、それはどのくらいの温度が必用なのですか?」


「そうだな……1700度は必要――」


「無理です」


 リリアは苦笑いで即答した。そのような高温を出せる魔法は戦闘用で古代魔法ぐらいしかない。それも相当高度な魔法になる。


 彼女の持つ魔法で近いのは加熱系魔法のヒートというのがあるが、それは精々水を沸かす程度、100度が限界であった。


 刀夜の期待は空しく散った。


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