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第85話 刀匠と師範

「残ったメンバーはここに泊まると思っていいのか」


 刀夜の確認に皆が(うなず)いた。

 残ったのは晴樹、梨沙、美紀、舞衣である。


「じゃあ、四人部屋があるから女子はそっちで。俺とハルは二人部屋な」


「え、いや……それは悪いよ刀夜……彼女との二人の時間を裂くなんてできないよ。僕はここでいいよ」


 リリアが赤くなって縮こまった。本当は彼女ではなく奴隷なのだがそれをいうわけにはいかない。


「あ、あたしは別に彼女というわけでは……」


 彼女だと誤解されてはご主人様に対して失礼にあたる。だが当の主人はその事に特になにも言わなかったので、リリアはどんな立場で対応して良いのか困り果てる。


「晴樹くんダメよ。こんな14歳の娘と二人っきりなんて」


「そうだよ、間違いを起こしたらどうするの?」


 舞衣と梨沙から辛辣(しんらつ)な言葉を浴びさせられて刀夜は眉をひそめる。そこまで信用がないのかと……だが悔しいがある意味当たっている。


「そうだよ、こんな可愛い娘。リリアちゃんは私達と一緒に寝るんだもんねぇ~」


 美紀が刀夜からリリアを取り上げるように後ろから抱きつき引き離すと、刀夜に向かって舌を出すのだった。


 すでに我が者顔の美紀の順応力に刀夜は(あき)れると同時にある意味凄いとも思う。


「さて、ここから真面目な話しがある」


 刀夜は急に深刻な顔をして、皆の顔を見回した。そして視線を落とすと重い声で語る。


「近いうちに俺は命がけの博打をする羽目になる。その時に皆の力を借りたいと思っている」


 刀夜の思いがけない言葉に緊張が走った。『命がけ』とはまた只ならぬ事態のようだ。数々の事態に対処してきた彼がそのような言葉を使うとなると重みが異なってくる。


「一体何事ですの?」


「俺はこの街の権力者を敵に回してしまった。だが俺はこの事態を利用して起死回生の逆転を狙うつもりだ」


「なんでそんな厄介ごとに……」


 梨沙は頭を抱えた首を振った。このような世界の権力者と言えば権力を振りかざして好き勝手してくるような印象しかない。人の命などまるでゴミのように。それは映画やテレビなどの影響による印象なのかも知れないが刀夜自身が『命がけ』と言っているのだ。


「あの、申し訳ございません。すべては私のせいなんです……」


 突然、リリアが謝りだした。


「どういこと?」


「刀夜様は私を助ける為にこんな事に……ですからお願いです。どうか刀夜様に力を貸して下さい」


 リリアは両手を合わせて懇願(こんがん)した。


「リリアこれはお前のせいじゃない」


「刀夜君。力は貸すけど具体的には何をするの?」


 無論仲間の命がかかっているのだ。自分にできることならなんでもする。拓真から万が一のときは次のリーダーを頼まれている。しかしここまで彼女は特に何かしてきたという自覚はない。ただ皆についてきただけ。そんな自分が恥ずかしくもあり、嫌であった。


「まだ具体的に向こうからリアクションがない。当面はこの工房を復活させなければならない」


「この工房が必要になるのかい?」


「そうだ。だがどのみち生活の為にも必要だ」


「成るほど、いよいよ本領発揮だね刀夜」


 晴樹から意味深な言葉が出てくる。


「ほ、本領発揮って……ええ?」


 舞衣にしてみれば刀夜の能力はすでに下山の時に見せつけられている。彼の突出した才能は飛び抜けて高い。だが今の話の流れでは刀夜の本領とやらはまだ発揮されていないらしい。彼の底はどこにあるのだろうか……恐ろしい男……


「俺の爺さんは備前長船の刀匠、八神勝比古だ」


「そして刀夜はその爺さんから小学生の頃から仕込まれたサラブレッドなんだよね」


「……親は最低だったがな」


 刀夜の見せた陰りに晴樹は困ったような表情を浮かべた。それはタブーの話である。


 ――刀匠、八神勝比古(やがみかつひこ)――


 備前長船会員に名を連ねた刀工(とうこう)の中でもかなりの変わり者としてその筋では有名であった。恵まれた才覚ではあったが、それゆえに一切の妥協を(ゆる)さない頑固一徹。


 とことん追及する姿勢は刀匠らしいが、こだわりすぎて他の職人とぶつかることも多く、すべての行程を一人で行ってしまうようになる。


 工房を出て田舎に引っ込むと一人で黙々と刀を作り続けており、彼の作品は独特で人気があった。


 刀夜には彼の技術を(たた)き込むと、刀夜は()ぎにその才覚を発揮した。


 八神勝比古は母方の祖父である。刀夜が5歳の時に事件で両親を失い、その事件性によりだれも彼を引き取ろうとはしなかった。このとき勝比古はすでに女房を失っていたが彼が引き取ることになった。


 以来、刀夜は爺さんと二人暮らしとなるが爺さんは子供の教育に(うと)い。特に当時の刀夜は心に大きな傷を受けており、発作が絶えない状況であった。


 悩んだ末、親友が運営している剣術道場に通わせることになる。


 ――剣術家、城戸阿伊染(きどあいぜん)――


 古流の剣術と柔術を伝承してきた剣術家。八神勝比古の作成する刀を愛用していることから親しい間柄であった。


 刀夜の扱いに困った勝比古より刀夜をあずかることになる。彼は自己暗示を自身の武術に取り組んでおり、それは一種の催眠術のようなものであった。


 彼は刀夜に武術を教えつつ感情をコントロールする術を彼に与えた。さらに発作の元凶である事故の一件に関する記憶を封印することに成功した。


 以来、事件の後遺症であった発作は自己暗示をかけることで押さえることができるようになる。刀夜が中学の頃に天に召されて道場を畳むこととなった。


「私はもう刀夜くんが宇宙人でも疑わないよ……」


 美紀にとってもはや刀夜は未知の生物のように思えてきた。


「俺の才能はこんな世界だからこそ生きているだけだ。現代で俺の知識や技術なんて糞役にも立たない。それに才能なんてみんな何かしら持っている。気づけているか、ちゃんと育てたか、その差でしかないんだ」


 刀夜は剣術はやらされた感があったが、フリークライミングは自分でも驚くほどの相性の良さであった。


 何気なくやってみたらツボにはまったのである。ゆえに自分の才能なんて意外と気づいていないものなのだと刀夜は身を持って実感したことがある。


「この件に関しては色々と問題が山積みなので頭の片隅にでも置いてもらえればいい。普段は包丁とかナイフでも作るつもりだ」


「わかったわ、その時が来たらまた教えてちょうだい」


 刀夜は舞衣の言葉に(うなず)いた。その後、刀夜以外は各々の必要な生活用品を買いに商店街へと向かう。


 刀夜は古い炉を壊しにかかった。元々あった炉は型が古いうえにレンガも使い物にならない。


 刀夜は鍛冶屋ギルドから購入した耐火レンガで新たな炉を作るつもりである。


 彼がどのように作ろうかと思案しているとドアの(たた)く音が聞こえた。


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