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第84話 それぞれの生きる道

「所でお前達はこれからどうする気だ?」


「どうとは?」


 晴樹は刀夜の質問の意味が分からず聞き返えす。


「帰る手立ての情報の集め方とか、その間の生活方法とかだよ」


 この質問は刀夜としては少々意地悪であった。彼らはようやくこの街に着いたばかりなのだ。しかも山賊の襲撃などで今後の事など考えている暇はなかったであろう。


「そ、そうね取り敢えず働く必要はあるし、住む所も探さないと……」


 舞衣はおよそ思いつくことを口にしたがそこに具体性はない。刀夜はコネも無しに異国人にそれは難しいことを十分知っている。そして彼の予想通りの回答が帰ってきた。


 彼らがこの世界に対していまだ甘い考えしか持ち合わせて無いことに残念に思う。だが彼らがこの世界の人たちとの接点が(わず)かであれば致し方ないことである。


「あの……ご失礼ですが皆様は何かコネをお持ちですか?」


「コネ? いいえ……?」


 舞衣の返答にリリアはこれはまずいのではと刀夜に不安な視線を送る。宿に住むぐらいならコネなど無くとも問題はないが高額となってしまう。


 だが賃貸や家を購入するとなるとコネか知り合いでもないかぎり住むことはできない。刀夜はリリアに教えるなと首を振って彼女の口を封じた。


 彼らの甘い考えを刀夜は身をもって知るといいだろうと考えていた。だが追い詰めすぎるのも良くない。逃げ場は必要だ。


「住む家ならここに泊まっても構わんぞ」


 無論タダというわけにはいかない。今すぐではないが働いてもらうこととなるだろう。そんな思惑も知らず、刀夜の鶴の一言に女子の顔は明るくなった。だが……


「俺はお前の世話になるなんざ御免だ」


 龍児が意地をはる。だがある意味刀夜にははそのほうがありがたかった。気の合わない奴と四六時中いるなど拷問にも等しい。


 それは龍児にも同じことがいえた。


「龍児は出ていってどうするの?」


 美紀が尋ねる。


「まぁ、取り敢えず宿暮らしで職探しだな」


 その言葉に刀夜は『たっぷりと洗礼を受けてくるがいい』と密かに笑う。コネもなしで簡単に職につけるわけがない。


「お金はどうするの?」


「へへ、これがあるじゃないか」


 龍児は山賊討伐で稼いだ革袋をテーブルに置くと、袋からは銀貨が(のぞ)いていた。龍児はドヤ顔で勝ち誇る。


 刀夜は対抗して昨日手に入れたばかりの革袋をテーブルに置いて金貨を(さら)した。


 刀夜は龍児が顔をひきつるのを確認すると嫌みたらしくニヤリとする。


 龍児のすべての銀貨は刀夜の金貨一枚にも満たない金額なのだ。晴樹は何もこんなことで張り合わなくてもいいのにと(あき)れた。


「分け前を要求する」


 由美の言葉に龍児はハッとして冷や汗が流れた。完全に忘れていたがこの金は山賊退治に参加した全員分であった。


「と、当然だ。い、今から分けようとした所だ」


 顔を赤くした龍児は焦って銀貨をチマチマと分割し始めた。分けるとあまり大した金額にはならない。


「あたし、いーらない」


「え、どうしてなの美紀?」


 舞衣が疑問に思って訪ねると美紀は金貨を見せびらかした。刀夜のとは比べ物ならない量ではあるが、それでも金貨である。龍児の銀貨とは桁違いの金額だ。


「あたし、アーグ討伐報酬もらってるモン。そのお金は皆の資金にして」


「――ならあたしも遠慮しとこか」


「梨沙ちゃんはもらっておかないと、まずいんじゃない?」


「え?」


「だってそれ借金でしょ」


 梨沙の顔がひきつった。確かに美紀のいうとおり刀夜には自分で稼いで返す約束をしていた。しかし梨沙は今頃になって刀夜から渡されたお金を稼ぐのがどれだけ難しいかようやく実感していた。


「ねぇ、意地張らないほうがいいよ。金貨稼ぐなんて私達には無理だよ」


「で、でも刀夜は稼いでいるじゃないか」


「梨沙、俺はたまたま運が良かったから大金を手にしただけだ。コネもその延長上にあるだけだし。ヤンタルの時にも言ったが金なんて多いに越したことはないんだ」


 刀夜はテーブルに置いた金貨袋の上に手を置いた。


「この金も俺たちが帰る為の軍資金だ。俺に万が一があった場合はこの金はお前達が使え。ボナミザ商会にはもっと預けてある」


「もっとって……」


 舞衣が喉をゴクリと鳴らしてテーブルの金貨を見た。


「ちょ、ここにあるだけでもアーグ討伐報酬を軽く越えてるよ。いつ!? どこでこんなお金を手に入れたの!?」


 梨沙が驚くのは無理もない。殆ど刀夜と共に行動しており、刀夜の稼ぎとなったことといえばアーグ討伐しか思いつかなかった。


「悪いが極秘だ。だが不正な金じゃないぞ」


 龍児は刀夜との圧倒的な差を見せつけられて気分が悪くなる。だんだん自分が惨めな気持ちなっていくような感じであった。


 居たたまれなくなった龍児は席を立つ。


「俺はもう行くぜ」


「ま、待ってくれよ。俺も」


 颯汰も龍児に続いて立ち上がった。


 そして考えこんでいた由美も席を立った。


「私は多分、刀夜君とは意見が合わなさそうだから、彼に着いていくわ。彼、危なっかしいから歯止め必要だろうし……」


「危なっかしいという点では同意かな」


「え、葵ちゃんも行くの?」


「う~~ん、美紀とは一緒に居たいけど。誰かがアレとの橋渡ししてやらなきゃね」


 折角、皆が合流できたばかりだというのにこうも簡単に分裂してしまう。まるで水と油のように。その原因は刀夜と龍児のそりの合わなさによるものだ。


 だけどこの先、このような世界で生きてゆくには協力し合う日が来るかもしれない。その日がきてもすぐに行動できるようにするためには日頃からの繋ぎが必要だと葵は思った。


「悪いな……葵」


 葵は刀夜の意外な言葉にキョトンとししたが直ぐに笑顔を返した。刀夜も頭では分かってくれていると。


「いいって、いいって。でも何かあったら力貸してよね」


「ああ、約束する。逆に借りるかもしれん」


「オッケー。じゃあね美紀。ちょくちょく来るよ」


「あ、葵ちゃん……」


 美紀は悲しそうにした。


「別に一緒に行っても良かったんだぞ」


 刀夜の言葉に美紀は首を振った。


「あたしは多分こっちにいたほうがいいと思うの…………だって――」


 美紀は握り拳を作ると力強く言う。


「こっちのほうがお金あるもの!!」


 残った皆は思った。きっとメンバーの中で最後まで生き残るのはこの娘だろうと。


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