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第72話 龍児の原点

 遅れてやって来た龍児達の馬車が先行していた本隊へと追い付くと龍児は隊長の元へ駆け寄る。


「どうしたんだよ隊長さん!」


 険しい表情のままのアラドに代わって、ようやく自分の推測が正しいと納得したレイラが答える。


「罠だ。私たちは偽物の(わだち)を追いかけさせられていたんだ」


「罠!?」


 驚く龍児にアラドがようやく口を開いた。


「この馬車の(わだち)はアジトを悟らせないよう、我々を引き離す為のものだ。敵の中にかなり姑息(こそく)なヤツがいる。下手に勢いで攻めたら罠で全滅しかねないぞ」


「隊長。まずは敵のアジトの位置を見つけないと」


「そうだな。パルパト! 測量(そくりょう)して当初の位置の方向を示してくれ」


 パルパトは返事をすると、荷馬車より測量(そくりょう)機器を取り出して計測を始める。彼は地図を広げて現在位置と向かうべき方向を示めす。


 それは極めてすばやく手慣れていた。しかしながらアラドはすくに進撃の合図は出さなかった。ここまで急いできたため馬を休めさせる必要があった。


 思い通りに進まない事柄に龍児はイラつく。岩に腰かけて険しい面構えをしている彼を見かねて、レイラが話しかけた。


「今からそれでは、戦いの時に力が出なくなるぞ」


「う、うるせーよ。そんなヤワじゃねーよ」


 龍児は焦りが顔に出ていた事に恥ずかしくなり、顔を背けた。


「仲間思いなのは結構なことだがお前のソレは少々度が過ぎているな。他の連中とも温度差があるようだがなぜだ? 大事な人でもいるのか?」


 レイラの質問に龍児は戸惑いを覚えた。自分は今まで度が過ぎているなどと考えたことが無かったからだ。


 だがレイラのいうとおり他人と比べて温度差があるのは感じている。そしてその理由に思い当たる伏しはある。


「そんなヤツはいねーよ。ただ、俺は置いてきぼりにされる気持ちとか、死の恐怖から助けを求めるヤツの気持ちが分かるんだよ」


 レイラは龍児の目をしっかりと見て真剣に話を聞いていた。龍児はそんな彼女に不思議な感覚を覚える。


 彼女の赤い瞳がもっと話を聞きたいと訴えかけているように感じた。そんな彼女に龍児は誰にも語らなかった自分の過去を話し出す。


 ――龍児の家庭は3人家族だ。


 龍児が小学生の時に一軒家を建てて暮らしていた。母親は専業主婦。父親は消防のレスキュー隊員である。


 子供が父親の職業に憧れるのはよくあることで、それが子供の好きな消防とあれば龍児が消防士に憧れるのは必然であった。


 だがそんな幸せの家庭に事件が起こる。日曜の昼間に隣の家が全焼するほどの火事を引き起こした。


 風に(あお)られて瞬く間に周辺の家に延焼(えんしょう)する。裏の2軒と龍児の家だ。


 この時母親はうたた寝してしまい、龍児もつられて昼寝をしていた。龍児が息苦しさと暑さで異変に気がついたときにはすでに周りは炎に包まれていた。


 この時すぐに脱出していれば助かったであろう。だが龍児は火を消そうと家の奥へと入ってしまった。


 母親も異変に気付いて息子を探すが見当たらない。そうこうしている内にあっと言う間に黒い煙に包まれて咳き込むと同時に体の自由が失われる。


 この時、龍児は母親のすぐ近くであったが炎により身動きできなかった。その時、炎の向こう側でレスキュー隊員が母親を連れ出すのが見える。


 龍児は自分はここにいると声を出そうとしたが、体が痛くなるほどの熱で声が出せない。目の前で母親だけが助けられてゆき、自分だけが取り残されることに悲しみを覚えた。


 そして自分はここで死ぬのだと死の恐怖が刻み込まれて意識を失う。


 龍児はレスキュー隊員の腕の中で再び意識を取り戻した。自分の装備の酸素マスクを龍児にあてがい、隊員は(すす)で顔が真っ黒になっていたが龍児はわかっていた。この人はお父さんなのだと。


 龍児と母親は一命を取り止めた。この事件により龍児の心には置いていかれることへの悲しみと、死の恐怖が深く刻まれた。


 しかし、そのような中で手を差しのべて人々を助けている父の姿に龍児は憧れ、誇りに思って自分の目指す道へと決めたのだ。


 レイラは龍児の話をすべて聞き終えるとようやく口を開く。


「成るほど。お前の原点はそこか。それでその後、誰か救えたのか?」


 龍児はレイラの質問に口をつぐんでしまった。実際に彼は何人かは助けている。だが刀夜の功績と比べればどうしても霞んでしまい、自分でも助けられた気になれないのであった。


「初めて会ったとき、お前はずたボロだったな。あれは仲間を庇ったからか?」


「いや、あれは単に俺が怒りで暴走してしまった結果だ……誉められたケガじゃねぇ……」


 龍児はしょんぼりと答えた。だがそれとて実質仲間の為に負ったケガのようなものである。


「お前は一人で何とかしようとしすぎだろ。もっと仲間を頼ったらどうだ?」


 レイラは特定の誰かを指していったわけではなかったが、龍児の頭にはあの男の顔がちらついた。


「それだと仲間が傷つく……」


「仲間を見くびっていないか? それに犠牲が出るのは仕方のないことだってある」


 自警団でも任務には犠牲はつきものであるため、避けられない死というものがある。だからこそ各々が強くなって連携を強化して死の確率を下げるよう、戦術を試行錯誤してきた。それでも死ぬときは死ぬのである。


「俺は、俺は誰かのように仲間を助ける為に他の誰かを犠牲にするようなやり方は大嫌いなんだよ!」


「ん? 誰かとは誰のことをいっているのだ?」


「いや、それは……」


 龍児は不用意な発言だったと後悔し、レイラとの視線を反らした。


「ああ、そうか。もう一人の奴のことか。お前はまだそいつと張り合っているのか……」


 張り合いは成長要素にも繋がる場合もあるが、下手をするとトラウマにもなりかねない諸刃の剣だ。同レベルでの張り合いは互の成長に有効だが、龍児の相手はすでに高い壁らしい。


 レイラは立ち上がると龍児の頭をポンポンと軽く(たた)いた。


「いいか龍児。お前のソレは誰かと比べたり、競い合うものじゃないだろ。何のために危険を犯してまで命を張るのか、そこだけ肝に命じておくべきだ。きっとお前はもっと強くなれるから」


 レイラの強い瞳に龍児は「わかったよ」と一言だけ返した。


「さあ、そろそろ出発するぞ!」


 アラドの命令が降りた。皆は一斉に馬に乗ると斥候が目的地にまっすぐ駆け出す。怒濤(どとう)の音を立てて一軍が進行を再開した。


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