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第66話 リリア・ミルズ

 前のほうの椅子には派手な装飾が施された衣服を着た商人らしき男たちが多くいた。いかにも金持ちらしい風貌である。その男たち一人一人の傍らに秘書のような男が金魚の糞のようについてまわる。


 そして彼らが座っている椅子の前、最前列の椅子には一目で分かるほど高級品が並んでおり、別格であることを主張していた。


 座っている者は仮面舞踏会に出てきそうな容貌(ようぼう)をしている。シックな服を着ている者もいればピエロのような者もいるが、共通しているのは仮面で顔を隠していることと護衛と思われる男たちを引き連れていることだ。


 司会の男が流暢(りゅうちょう)な言葉でリズムよく進行させている。


 刀夜は暫く後ろの席でその様子を傍観(ぼうかん)することにした。


「金貨26枚、他はありませんか。この男、体格は中堅どころだが病気には強く、生まれてからこのかた虫歯一本すら無い。他の体格の良い男は高値がつきますよ、今の価格なら大変お買い得です」


 司会の男は価格をつり上げようと巧みにその男の利点をペラペラとしゃべる。それは非常にテンポの良いのりで乗せられて手を上げてしまいそうだ。


「28枚!」

「29枚だ」


 司会の会話に合わせて値がつり上がっていく。価格は金貨単位で行われており、平均相場は大体金貨20枚から30枚ほどで取引されていた。


 街での一般の平均年収は金貨3~5枚なので高くても6年分の給料で人の一生が買えてしまうと思えば商人どもが飛び付くのは無理もない。


 男の奴隷が終わり、少々年配の女性が六人出てきた。色の(すす)けた一般の服を着ている。


 彼女らは家政婦やメイドとして購入され、価格は金貨5枚から10枚。直接収入になる労働力では無いので人気はなく、三人売れた所で終わった。


 すると商人の多くは購入した奴隷を連れて大半が会場を出てゆく。まさかこれで終わりなのかと思われたが最前列の覆面連中は誰一人動こうとはしない。


 司会の男が下がってステージのライトが落とされる。


 そして再びライトが灯される。


 だがその色は赤い色でいかにも怪しげで淫靡(いんび)な雰囲気を演出していた。


 ステージに出てきたのは馬車から少女を突き落とした男だ。キラキラの派手な服を着ており、目が痛くなりそうで顔立ち共々直視したくない男であった。


「さぁ! お待たせしました皆さん。お待ちかねの商品の登場です!」


 司会の男が指を鳴らすと若い、そう年齢は十代半ばほどの少女達が出てきた。


 身につけている衣装はピンク色のシースルーの布切れが1枚。そのような薄布で胸と下半身を隠してはいるが透けているので意味をなしていない。


 ほとんど裸同然の、露な姿を晒していた。そして足には痛々しい鎖がつけられている。


 刀夜は考えるまでもなく彼女らが何の目的で売られたの察した。


 最前列の男達が卑猥(ひわい)な言葉を彼女たちに投げかけて(はや)し立てる。


 最初に現れた少女は金髪の同族の娘だ。長い髪は直前で整えたのだろうが、痛んでいるのは明白である。どれだけ酷い目に合わされたのか目はほとんど虚ろでどこを見ているのか分からない。


 二人目は茶色の髪をした少女だこの子も同族のようである。髪はセミロングで顔には少しソバカスがあり、足に怪我をしたような跡があった。彼女の目も虚ろで正気を保っているのか怪しい。


 三人目はピンク色髪の癖毛の少女だ。怯えた表情で状況に戸惑っている感じで、まだ正気を保っているようであった。


 彼女を見たとたん突如、刀夜の心臓が再び大きく鼓動した。


『まただ、なんだこれは!?』


 刀夜は経験したことはないが、これがトキメキや一目惚れのような症状でないことぐらいは分かっていた。だが彼女を見たとたん刀夜はいてもたってもいられない気持ちに襲われる。


 荷物を持って階段を降りていくと壇上前で立ち止まった。じっと彼女を見つめると彼女も突然現れた場違いな風貌(ふうぼう)の男から視線が外せなくなった。


 突如現れた血と泥に汚れた旅人の男に会場はどよめく。


「ほぉ、あいつ正気か? 面白れぇことになってきたぞ」


 刀夜を捕まえた店員ともう一人が面白がって会場後ろの入口から見ていた。


「バカか大物か? 何をするのやら、金貨9枚程度でどうするつもりなのか」


 司会の男は薄汚い男に不服だった。まるで自分の神聖な場を汚されたのような気分だった。


「お客人。冷やかしならただじゃ済みませんよ」


 男は優しそうに怖いことを言う。


「冷やかしじゃない。買いにきた」


 司会の男は不快だったが、ここにいるということは入口でお金を持っていることを確認されていることになる。チラリと入口のほうへ視線を送ると入口の男がオッケーサインを返した。


「おいおい、いいのか? たった金貨9枚なんだろう?」


「俺が確認した分にはな」


「隠し持ってるってか?」


「さあな。だが俺達の仕事は規定どおりちゃんとやった。後で文句を言われる筋合いはない。となれば怒りの矛先はあのガキだ」


「ひでぇヤツだな!」


「お前が言うな」


 入口の店員の男達はニヤニヤと事の成り行きを見守った。


 刀夜は最前列の高そうな椅子に座ってふんぞり帰ると足と腕を組んだ。


 セリが始まる。


 最初は金髪の少女だ。


 金貨10枚から始まりあっという間に30枚を越えた。豚のような二人が競りあって値をつり上げている。


 結果、金貨41枚で落とされた。


 刀夜は彼女には見向きもしなかった。彼の視線はずっとピンク髪の少女を見つめている。そして彼と同じく他の女に見向きもしない男が一人いた。


 通路を挟んで隣の男。蝶々のようなアイマスクに魔女のような長い付け鼻。全身原色バリバリのピエロのような衣装。


 刀夜は旅人の服装で浮いてはいたが、この男も負けず劣らず別の意味で浮いていた。


 最初の女を競り落とした男は客席から退場しなかった。身の程を知らない旅人風情の男が何をするつもりなのか興味が湧いたのだ。


 そうこうしている内に二人目も競り落とされた。あまり人気が無かったのか金貨30枚で競り落とされる。そしてその男も会場から出ていこうとはしない。


「それでは本日の目玉商品。リリア・ミルズ! 年齢14歳 未使用!」


 隣の男が初めて歓声をあげる。ずっとこの娘を狙っていたのだ。物静かにしていた今までとうってかわって目付きが変わるなや舌なめずりをしていた。


 そんな彼の後ろの護衛の男は『やれやれ』と言った顔で首を振っていた。


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