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龍児と刀夜 ―異世界サバイバル―  作者: 滝ノ森もみじ
第1章 サバイバル編
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第6話 調査、刀夜と晴樹

 晴樹は女子達にすまなさそうに断った後に刀夜に尋ねた。


「どこから調べる?」


「校舎横裏」


 校舎裏は崖になっており、草もかなり生えていて見通しが悪かった。また刀夜の向けた足は龍児達とは逆の方向となっており、それは意図的だ。


「何でこっちなんだ?」


「表側はもう見たじゃないか。見た感じ他に何かありそうに思えないし、皆そっちに行ってるから効率が悪い」


 晴樹は刀夜のこの発想が相変わらずだと感じた。昔から効率重視で無駄を嫌う。勉強も趣味もそんな感じなので確かに無駄はない。


 そのせいか刀夜の学力は片寄りはあるが比較的良いほうで晴樹はよく助けられた。


 だが集団行動時に貧乏クジをわざわざ自分で買っている感があり、今回も皆が嫌がりそうな場所を自分から選んだようにも見えた。


「道具が欲しいから先に教室へ取りに戻ろう」


 二人は一度教室に戻って刀夜はジム用に用意していた背負いバッグを取り出すと学生鞄から筆記用具やノートなどを移し替えた。


 二人とも準備を終えると崖側の石柱の所へ向う。


 石柱の大きさは人が二人が横に並んでも隠れれるほどあり、高さは3~4メートル。


 刀夜は明らかに人工的に作られたものだと確信した。表面は雨風にさらされて風化してザラザラになっているが元は綺麗(きれい)に円筒型に切り出されたものだ。自然にこんな風にはならない。どことなく墓場の古い墓石を連想させられる。


「……まるでストーンヘンジだな」


 石柱には彫られた記号か模様のような跡があった。何か色が塗られていた形跡(けいせき)もある。しかしコレが何なのかは分からない。


「なんだろうこれ、文字?」

「文字?」


 晴樹のいうとおり一つ一つの模様は大きさが整っており、均等に並んでいるあたり文字と言ったほうがしっくり来ると刀夜も思った。


 しかしあまりにも風化しているため文字の形ははっきりとしないが、少なくとも日本語や英語でないことは分かる。


「確かに文字のようにも見えるな」


「何が書いてあったんだろう?」


「分からん、日本語じゃ無いのは分かるが……」


「遥か古代文明の遺跡だとか」


「古代文明……それにしちゃ随分近代的なようだが」


 刀夜は奥のチューブに視線を変えた。石柱を後にしてさらに奥へと足を運ぶと破裂したような金属のチューブの所に来た。


 チューブは大きくて屈めば人一人余裕で通れるほどである。破裂箇所は至るところで起こったらしく、特に刀夜達のいる辺りが激しい感じとなっていた。


「かなり破損しているな、事故か?」


「これも結構古そうだよ、あっちこっち(さび)びてボロボロだよ」


「元々は全部(つな)がっていて、円を描いていた感じか……何に使っていたんだ。内側から爆発したような感じだが」


「想像もつないけど、こんなのがあるんだから近くに人いないのかな?」


「どうだろうな、いればいいって感じでも無いけど、状況的に」


「あ、そうか怖い人だったら困るよな」


 自分達のいる場所が必ずしも日本とは限らない。しかもこれだけの代物である。作ったのは企業や国家と言ったレベルの可能性が高いだろう。


 もし変な国家だったら機密保持の為に何をされるかわかったものではない。


「ああっ!」突如、晴樹が大声を上げた。


「どうした?」心配した刀夜が声をかける。


「こ、これ……放射能とか無いよな……」


 刀夜は焦る晴樹になんだそんな事かとガクリと肩を落とした。


「放射能があったらこんなに(こけ)や草木は生えないだろうさ……」


「そ、そうか、それもそうだな……」


「ま、だからと言って注意を(おこた)るのは愚かだ、その調子で慎重(しんちょう)に行こう」


 刀夜は晴樹の肩をたたいて元気づけた。しかし、校舎があのようになっている以上、常識にあまり囚われないほうが良いかも知れないと、最後にかけた言葉は刀夜自身にかけたのかもしれない。


 横に伸びるチューブ伝いに二人はさらに奥へ進む。


 校舎裏側に目をやるとチューブは完全に校舎を取り囲む形……と言うより校舎が中心に出現したかのようである。


 校舎裏側は日が差し込みにくいため薄暗くて不気味であり、誰も裏側を調べようとしていない。


 崖の手前は雑草が覆い茂っているが、チューブで囲まれた内側はまだ綺麗なものであり、この校舎を含む内側で何かが起こったのは間違い無いとしか思えなかった。


 崖側に近寄ってみるとツルは柳の枝のように覆い繁っており、青々とした葉には水滴が多くついていた。


「刀夜! 刀夜!」


 晴樹が刀夜の背中をバンバンと(たた)いて呼んだ。


「どうした、ハル?」


「こ、これ……」


 晴樹は人の背丈ほどの巨大なゼンマイのような植物を指差した。


「大きいな、これはゼンマイなのか!?」


「違う、違う、その根本!」


 晴樹の興奮(こうふん)は収まらない。


 刀夜は角度を変えて根本を(のぞき)き込むとそこにはムカデの体に沢蟹(さわがに)をくっつけたような奇妙な生物がいた。その生物はこちらに気がつくと奥へと消えてゆく。


「……ムカデが沢蟹(さわがに)(くわ)えていたんだよな……」


 そう思いたい気持ちは刀夜にも理解できた。なぜならそれを否定するという事は自分たちの置かれている状況があまりにも絶望的すぎるためだ。


 だが刀夜は良くも悪くも現実主義で自分の見たものを疑うことはしない。


 刀夜は趣味のネットで色々な奇妙な生物というものを見たことがある。だがあのような生物は見たことがなかった。あのような生物が地球にいるハズがない。


 ここは地球では無いという嫌な予感を無視できなくなってきた。


 しかし、ここが別の星だろうが別世界だろうが、そんな場所にいること自体が非常識なのである。自分の中のもう一人の現実主義者が否定を(ほの)めかす。


「情報だ、圧倒的に情報が足りない」


「刀夜! 刀夜!」


 晴樹が硬直してぶつくさと(つぶや)いている刀夜を呼ぶ。その声でフル回転で思考していた刀夜は考えるのを止めた。


「あ、ああ、何だハル?」


「大丈夫か?」


「ああ、大丈夫、大丈夫だ……」


「本当に大丈夫か?」


「ああ大丈夫だ」


「じゃあ、今度はあっち」


 晴樹が指を差したのは崖の壁面だった。崖からあらわになっている大きな岩肌から水がチョロチョロと流れているのが目に入る。


「水? 水か!?」


 遭難(そうなん)において最も入手困難で重要な水を晴樹が見つけた。


「いいぞハル、お手柄だ」


 だが先程の虫を思い出して再び疑念(ぎねん)を抱いた。はたしてこの水は本当に水なのか、水だとして飲めるのだろうかと。あのような生物を見た後では慎重にならざるを得なかった。


 刀夜は流れる水で指先を()らすと粘り気をチェックする。ついで臭いを嗅ぎ、唇が()れる程度に指先で水を塗る。


「何をやっているんだ?」


 てっきり飲むのかと思った晴樹は刀夜の行動の理由を問いただす。おそらく飲めるかチェックしているのだろうと予想はできるが何をどう確認してるのか分からない。


「飲める水か簡易チェックだ。もしこうやって唇が腫れたら飲めないって事だ」


 唇を()らしてから3分は過ぎた。刀夜は唇を触って腫れ具合を確認する。今度は片手を尺にして水を口に含むと飲まずにしばらくして水を吐き出した。


「慎重だな」


「さっきの虫を見ただろう、慎重にやったほうがいい。どうやら水は飲めそうだ」


 鞄から空のペットボトルを出し、岩の間に置いて水が溜まるのを待つ。待っている間に薪になりそうな木を集めた。


 薪を集めながら晴樹は刀夜に質問をする。


「ここって俺たちの住んでいた所かな?」


「それはここが地球かって事か?」


 刀夜にしても晴樹にしても自分達が突拍子もないことを言っている自覚はあった。正直なところ友達でもこのような会話するのは気恥ずかしい気がする。


「そこまで大袈裟(おおげさ)に考えてないけど、あんなの見ちゃうとさすがに……」


「ハル、俺にはまだ分からないけど、もっと情報を集めてから判断しても遅くはないんじゃないかな」


「そ、そうだな」


「ただ、救援が来るとかは想定しないほうがいいと思う。できるだけ自力でなんとかする方法を常に考えておいたほうがいいと思うな」


「確かに……」


 二人は薪を集め終わると水の所に戻り、すでに一杯になっていたペットボトルを回収した。


「じゃあそろそろ戻るか、ハル」


「そうだな皆にも水があることを知らせよう」


 その時、校舎側から大きな悲鳴が聞こえた。


 二人は顔を見合わせ、拾い集めた薪を捨てて即座に悲鳴の場所へと向かう。


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