表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/436

第51話 刀夜との別れ

 ブランキは買い物を済ませて、大量の荷物を乗せた荷車を引いていた。買いすぎて手で馬車まで運ぶことができなくなったので荷車を借りた。


 梨沙と美紀も買い物を済ませて手押し車を押すのを手伝うが荷車はかなり重い。大量にお金が入ったのが嬉しかったのか、調子に乗って買いすぎている。


「ちょっとブランキさん、買いすぎじゃない?」


「何言ってんだ。村中の買い物なんだぜ」


「村中って殆ど雑貨屋のナルさんの買い物でしょ?」


「そうだが、結果的には村の買い物だ。ガハハハハハ」


「結構重いい~」


 そう(なげ)く美紀の横から急に後押ししてくれる手が伸びてきた。


「あ、刀夜。戻ってきたの?」


「ああ、用事は済んだ。随分買ったな」


「ナルのヤツの注文が多くてよ」


 そう言いつつもブランキはご機嫌だった。


「いつもこんなに買うのか?」


「いいや、今回はどこかの誰かさんがたくさん買ってくれたからな」


「ん、俺のせいか!?」


「冗談だよ、半分。殆ど戦勝祝みたいなもんだ」


 刀夜は半分という言葉に引っ掛かりつつも聞き流すことにする。何しろ大事な話があるからだ。


「で、どうだったの?」


 梨沙が刀夜の調べに行った結果を問う。勝手に行動したあげく何もないでは文句をいってやるつもりだ。


「ああ、ブランキのいうとおりだだった。街を出るなら朝方のほうが馬車が多くて良いみたいだが、俺は直ぐにでる」


「ええッ!? もう出るの? 皆を待たないの?」


「実は向こうの門で奴隷商人が奴隷を運ぶのを見た。もし連中が捕まっていたら売られる前に買い戻さないと。売られた後だと取り戻すのが難しくなる」


 梨沙と美紀は青くなる。奴隷商人に捕ればどんな仕打ちを受けているか分かったものではない。


「その奴隷の中に仲間がいたの?」


「いや、馬車は箱型で中は見えなかった」


 梨沙と美紀は悩む。ここで待つべきなのか、それとも奴隷馬車を追うべきか。二人の悩む姿を見て刀夜は問う。


「追うのと待つの、お前達はどちらを選ぶ?」


 嫌な言い方だった。刀夜は覚悟を問いているのだと梨沙は分かった。刀夜の意見は『街をでる』とすでに答えている。


 つまり梨沙や美紀がどう答えようが刀夜は行ってしまうのだ。そして活動拠点を隣街にすると言っている以上、彼がこちらに戻ってくることはない。


 確実に皆と合流するには二手に分かれることだ。そうすればどちらが合流できる。ただし刀夜とはここで別れた後の事はすべて自分で判断しなくてはならない。その覚悟を聞いているのだと……


 梨沙は自分を恥ずかしく思う。彼女は一度は飛び出して生きていくことを決めたことがある。


 だがここに来てまたしてもこの男に依存して生きていた事を思い知らされた。つまり刀夜と別れて一人になってしまうことに不安を感じてしまったのだ。


 はっきり言って自信がない。だが……


「あ、あたしがここに残って皆をまってもいいよ」


 梨沙は意を決して答えた。だがその表情は不安げで痩せ我慢で言っているのが見え見えである。


「えーいやだよ、一緒にいるって約束したじゃない」


「美紀は刀夜と行きたいの?」


「え?」


 美紀は何を言われたのか一瞬わからなかった。彼女は単に皆と離れたくない一心で言っただけだったのだが、確かに刀夜と一緒に行くように聞こえなくもない。


「美紀、それでは駄々をこねている子供と同じだ。皆を助ける為にどうすればいいか自分で考えて意見をいうんだ」


 刀夜は厳しい口調で言った。刀夜とていつまでも彼女達の面倒を見るわけにはいかない。


 別々に進む分かれ道が来るかもしれないと思っていた。その日が本当に来るかはわからない。だがその時が来ても慌てないよう自立してもらわなければならないと思っていたが、まさかこのように早く来るとは思わなかった。


「うーーーー」


 美紀は返答に困ってしまう。何もかも人任せにしてきた美紀にはどうすれば良いのかまったく分からないのだ。


「ごめんなさい、あたしどうしていいかわからない……」


 美紀はとうとう泣き出してしまった。刀夜は予想道理といった感じてため息をつくと梨沙の顔を見る。


「梨沙……」


「わかっている。美紀はあたしが見るよ」


 刀夜は彼女のなりに頑張ろうとしている姿に感銘(かんめい)を受けた。そして彼女達に何かしてやれないかと考える。


「もし……」


「なに?」


「もし何かあったときは『ボナミザ商店』に行くんだ。あそこはピエルバルグに本店を持っている。俺の名を出せば助けてくれるだろう」


 二人は柄の悪いあの店を思い出すと『えー』と言った顔をする。特に梨沙は女将(おかみ)とやりあってしまったためにどの面を下げていけばいいのか分からない。


 そのような相手に頭を下げなければならないのは屈辱的なので、できることなら二度と会いたくない。


「商店の女将(おかみ)と俺はコネクションを築いた。だから絶対安心だ。信用しろ」


「ええっ! いつの間にそんな関係を築いたんだ!?」


 驚いたのはブランキのほうだった。荷車を引いていた彼は背後で重い話が展開されてしまった為に口を挟めずにいた。だがあの女将(おかみ)と関係を結ぶなどただごとではない。


 コネクションを築くというのはブランキのようにただの売買だけの関係ではない。商売のビジネスパートナーのような深く関わってゆける相手に使う言葉だ。


「まったく。おめーにゃ驚かされっぱなしだぜ。だが女将(おかみ)は確かに刀夜を気に入っていたからな。あそこの支援を受けれるなら鬼に金棒だぜ」


 ブランキは(うなず)くと一人で納得していた。


「いいか、金は十分渡してあるがスリには気をつけろ。できるだけ分散して隠し持つんだ。それから使いすぎには気をつけろ。金なんていくらあっても足りないんだからな。それから裏道には入るな。宿は門の入口近くを取るんだ。仲間が来たらすぐわかるように窓になにか目印をしておけ。制服を窓から見えるようにしておくといい。それから……それから……」


「刀夜!」


 突如呼び止めた梨沙は棒立ちとなって目を(うる)ませていた。彼女は次に出てくる言葉を喉に詰まらせてうまく口にできない。


「……無茶……するなよな」


 顔を背けて放った言葉は梨沙とは思えぬ彼の身を案じた言葉だった。本当は別の言葉を言おうとしたのだが、素直になりきれず言えなかった。


 刀夜の顔をちゃんと見て言いたかったが堪えている涙を溢しそうだった。


 刀夜は無言のまま彼女の頭をやさしく撫でる。彼女が本当は何を言いたかったのかは刀夜にはわからない。だが微かに肩を震わせている彼女の心境には察するものがあった。


「刀夜、いっちゃうんだね」


「ああ、万が一奴隷にされていたら助けてやらないとな。そしてそれができるのは俺だけだ。いいかゆっくりでもいい。生きていくにはどうすればいいか普段から考え続けるんだ。頭の中でたくさんシュミレートするんだぞ」


「えっと……じゃぁ、じゃぁねぇ。三日、いや、五日! 五日たっても会えなかったら私たちもピエス何とかに向かうよ」


「ピエルバルグな。分かった。その調子で梨沙をささえてやってくれ」


 刀夜は美紀の頭も撫でる。


「ブランキ」


「お、おう」


「あんたには本当に世話になった」


「何言ってやがんでぇ。世話になったのはこっちだと何度も言わせるなや」


「一緒に旅ができて楽しかったよ」


「ああ、俺もだ。近くに来たら必ず村にも寄っていってくれよ」


「ああ、必ず」


 刀夜とブランキは力一杯握手をした。そう、思わず力一杯してしまった。


「イテテ、なんて握力してやがんだ」


 ブランキは離した手に息を吹きかけながらも嬉しそうにする。


「じゃぁな、みんな。ピエルバルグでまた会おう!」


 刀夜は東門に向かって走り出す、そんな彼を梨沙と美紀は寂しそうに手を振って見送った。


 刀夜の人影はあっと言う間に人混みの中へ消えてゆく。


 唐突にやって来た別れは、別れを惜しむ間もなく、あっさりと、まるで野に吹いた風が花びらを持ち去っていくかのような一瞬の出来事であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ